IT・科学
「人工知能に踊らされた」アイドル AIが計算したドキッとする指示
人工知能(AI)をクリエイティブディレクターに迎えたアイドルグループ「マジカル・パンチライン」(マジパン)の新曲が、12月20日リリースされます。AIの方向付けに従って、先にミュージックビデオ(MV)を作り、その映像を元に楽曲を作るという前代未聞の試み。「AIに踊らされた」5人に、プロジェクトの感想を聞きました。
マジパンは、レナ(19)をリーダーに、アンナ(16)、リーナ(14)、ヒマワリ(15)、ユーナ(19)で構成される女性5人組。「魔法」をテーマとするユニークなコンセプトで話題を集め、2016年7月のデビューから半年足らずでテレビ、ラジオのレギュラー番組がスタートするなど、今、注目の存在です。
今回、そのクリエイティブディレクターに就任したのは、人工知能クリエイター「AI-CD β」。広告会社「マッキャン・ワールドグループ」傘下の各社における20~30代の若手メンバーが開発しました。
「AI-CD β」が「魔法」をテーマとするマジパンの個性を生かして導き出したディレクションは、「【狩猟本能】を、【学園】モチーフで、【擬物化】を使い、【アンニュイ】なトーンで、【ドキッとする】映像で伝えろ」というもの。
それを元にまず、MVを作りました。
リーナさんは、まだ楽曲がない中、ダンスを踊ったので、「イメージが全然できなくて、ダンスがすごく大変だった」と振り返ります。
そうして生まれたのが、それぞれ別々の作詞家・作曲家の手による「私が私を燃やす理由」「手のひらがえし」「終わらざりしミスリル」「リインカーネーション」の4曲。「DEUS EX MACHINA」(デウス・エクス・マキナ。ラテン語で「機械仕掛けの神」の意味)のCDタイトルで、12月20日にリリースされます。
レナさんは「今回の4曲は、格好良く踊って格好良く歌って、という曲。ファンの方と一緒に色々考えながら、盛り上がる曲にしていけたら良いかな、と思います」と話します。
5人は、今回のプロジェクト自体はどう受け止めたのでしょうか。
「AI」については5人とも、AIが接客をするハウステンボス(長崎県)内の「変なホテル」や、「LINE」で会話ができるAI女子高生「りんな」を通じて知ってはいました。
中には、「アイドルやる前の将来の夢はシステムエンジニアで、機械には興味があったので、AI-CD βを目の前に出された時は分解したいと思いました」というヒマワリさんのような変わり種もいましたが、レナさん、ユーナさん、アンナさんの3人は映画「ターミネーター」などの影響で、人間に危害を加えることがあるのでは、などと「怖い気持ち」を抱いていたそうです。
ただ、MV撮影やレコーディングの際にAI-CD βと何度も接し、手を振るなどの愛敬あるしぐさもできることが分かると、ユーナさんは「AI-CD βさんは機械なんですけど、結構意外と人間味もあるのかな、と思って、すごい愛着が沸きました」。
アンナさんも「私は結構、レコーディングで頭の中がパンクしそうになっちゃうタイプなんですが、そういう時にAI-CD βさんがいるのに気づいて不思議に落ち着けました。本当にすごい道しるべ、私たちを照らす光だったと思うので、感謝しないといけないな、という意味で、AIに対する印象が良い方に変わりました」と話しました。
「あまり機械やAIに詳しくないのですが、AI-CD βさんと関わって、アイドルをプロデュースできると分かってすごく感心しました」というリーナさんも含め、「AI-CD β」を3人が「さん」付けで呼んでいる点が印象的でした。
リーダーであるレナさんは、今回のプロジェクトについては「一つのものに向かってみんなで考えるとか、そういう発想力や想像力は豊かになったのかな、と思いました。そこは今後も活かしていけるのでは」と語りました。一方で、AI自体は「使い方によってはすごく素敵なものだと思うんですけど、使い方によってはちょっと……」と慎重な姿勢を崩しませんでした。
「人間よりも頭いいものが生まれたのが、ちょっと怖いなとも思いました。すごいを超えて。いつか、こういうものがどんどん増えていったらどうなるんだろう、みたいな……」
実際、エレベーター、自動車、飛行機……。人間は、生活を便利にする機械を次々と発明してきましたが、使い方を誤った際には、人命を損なうような事態も招いています。
今回のプロジェクトで、マジパンの5人はあえて「踊らされる」立場を取る中で初めて、AIとの共生について深く考えるようになったようです。
どちらかがどちらかを「踊らせる」形となるのか、それとは違った形がありうるのか。人とAIとがともに生きる社会の将来像は、一人一人がAIとの付き合い方に向き合う延長線上にあるということを、今回のプロジェクトは示してくれたのかもしれません。
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