話題
政府専用機、知られざる装備 執務室に個室まで…1回飛ばす費用は?
首相の「外遊」に欠かせないのが政府専用機。首相や国賓が搭乗する日本の「エアフォース・ワン」です。四半世紀にわたり、首相や閣僚だけでなく、天皇皇后両陛下も乗せて飛んできました。実は同じ機体が2機一緒に飛ぶ理由。1回あたりの費用。政治家以外を運ぶ場面も。政府専用機について超解説します。(朝日新聞政治部デスク・松村愛)
現在使われている政府専用機は1991(平成3)年に導入されました。
一番最初に外遊に利用したのは1993(平成5)年4月、当時のクリントン大統領と首脳会談をするために訪米した宮沢喜一首相。搭乗後、「いつものと、勝手が違いますわなあ。ゆったりしたスペースで快適」と述べたそうです。以来、四半世紀にわたり、首相や閣僚だけでなく、天皇皇后両陛下や国賓も乗せて飛んできました。
政府専用機の操縦を担うパイロットや、機内サービスを担うキャビンアテンダント役は、航空自衛隊員千歳基地に所属する特別航空輸送隊の「特別輸送員」、つまり自衛官が担っています。
現在の機体はボーイング社製747-400型機。ふだんは千歳基地に駐機しています。実は政府専用機は2機あり、故障に備えて予備機と2機が同時に飛びます。整備担当の自衛官も同行して万が一に備えています。
同型の機体の整備が終了するため、2019年にはボーイング777-300ERをベースとした新型機を購入することが決まっています。日章旗をあしらったデザインも決定済み。機体整備のほか、機内サービスの訓練は全日空が受託しており、安全確保や乗客の誘導などの訓練が行われています。
首相の外遊には外交官ら多くの政府職員、警備のSPも同行し、政府専用機に搭乗します。夫人や閣僚が随行するときもありますし、経済界の人たちをずらりと随行して「経済外交」を展開することもあります。
国会答弁によると、政府専用機は「だいたい140人の輸送が可能」。機内には首相の個室などがある特別なつくりになっており、民間のジャンボ機に比べて輸送力は落ちます。
外交官は通常、自分の荷物は機内預けにしません。目的地に着いたら、首相とともに「さっ」と降機して次の日程に向かうためです。だから、外交官の荷物は両手に抱えられる程度で、とってもコンパクト。ある外交官は「荷物の量の少なさと仕事の能力は比例する」と言っていました。
途上国ならともかく、先進国に行くのになんで民間機を使わないの?と思うかもしれません。政府専用機内には会議スペースがあり、忙しい首相や閣僚をまじえて、機密情報を含む打ち合わせをするにはうってつけ。「空飛ぶ首相執務室」と呼ばれるゆえんです。
機内には政府職員が使うコピー機やファクスがあるほか、外国訪問時に記者会見をするときに演台につける、日本政府を表す「五七の桐」マークのエンブレムもちゃんと持参します。
政府専用機が使われるのは、外遊のときだけではありません。2011年、ニュージーランドで発生した地震で、国際緊急援助隊救助チームを派遣。2013年1月の在アルジェリア邦人に対するテロ事件では邦人を輸送するために政府専用機を派遣しました。
もちろん、政府専用機を飛ばすには経費がかかります。
2016年11月の衆院決算行政監視委員会での答弁によると、第2次安倍政権が始まった2012年12月26日から昨年11月24日までに安倍首相が外遊したのは65カ国と1地域。
外遊にかかる費用には政府専用機の運航経費、訪問先での宿泊費、車両借り上げ費などがありますが、上記期間中に要した経費は「総額87億7400万円。一回あたりの平均額は2億2千万円弱」と答弁されています。
記者は首相らの動向を逐一追うため、政府専用機に同乗します。機体の後部には、同行記者が座る座席があり、首脳会談などのブリーフィング(説明)を行うための記者会見スペースもあります。もちろん民間機に準ずる費用は各報道機関が負担しています。