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長時間労働「する」自由は? ベンチャー社長が投げかけた疑問

「働き方改革には、広告会社のような受注側ではなく、発注側を縛るような施策が必要」と語る加藤公一レオ氏
「働き方改革には、広告会社のような受注側ではなく、発注側を縛るような施策が必要」と語る加藤公一レオ氏

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 電通の過労自殺問題などを受けて、さらに進む働き方改革。働く時間の短縮に注目が集まることに、あえて物申すベンチャー社長がいます。「まるで働くことが悪であるかのように言う風潮はおかしい」。批判を覚悟で「様々な働き方があっていいなら、一周回って、がむしゃらに働く自由があってもいい」と問題提起する、その真意について聞きました。

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「本当に変えるべきなのは下請法です」

 話を聞いたのは、ネット広告のコンサル業を手がける加藤公一レオ氏です。

 ブラジル生まれ、アメリカ育ちの加藤氏は、日本の大学を卒業後、三菱商事に入社します。その後、大手広告会社のアサツーディ・ケイ(ADK)に転職。2010年に独立し「売れるネット広告社」を立ち上げました。ちなみに名前は本名です。

 加藤氏が問題視するのは、勤務時間を制限することですべてが解決するかのように考える風潮です。

 電通では過労自殺などを受けて、22時に強制的にオフィスを消灯するなど、社員を帰宅させることに力を入れています。しかし、加藤氏は「早く帰らせることが本質的解決ではない」と言います。

 「クライアントの要望があれば、残業申請をしないまま無理して働かざるを得なくなる。本当に変えるべきなのは『下請法』です」

明かりをともした電通本社ビル(中央)=2016年12月28日、東京都港区、長島一浩撮影
明かりをともした電通本社ビル(中央)=2016年12月28日、東京都港区、長島一浩撮影 出典: 朝日新聞

広告会社ではなくクライアントを縛る規制

 下請法は、立場の弱い下請け業者を守るために独禁法の規定に基づきできた法律です。力関係で強い立場の発注側が、発注時に決めた代金を不当に安くさせない禁止事項などが定められています。

 加藤氏は、主に代金に対する不正防止の側面が強い下請法に、納期の縛りも設けるべきだと主張します。

 広告会社に頼むCMやポスターなどには、業界内で標準的な値段が設定されています。加藤氏は、この値段を元に「テレビCMなら2カ月間」などの納期の作業時間を作るべきだと訴えます。

 「標準の納期より短い日数で納品させないよう、法律で縛りをかける。働き方改革には、広告会社のような受注側ではなく、発注側を縛るような施策が必要です」

加藤氏は「テレビCMなら2カ月間」などの納期の作業時間を作るべきだと訴える
加藤氏は「テレビCMなら2カ月間」などの納期の作業時間を作るべきだと訴える
出典:https://pixta.jp/

「自由に働ける人は働いていい」

 一方、商社時代から、自他共に認める「モーレツ社員」だったという加藤氏。今、業界の第一線の経営者と接す中で感じるのは「活躍している人は努力している人。生まれながらのスーパースターなんていない」ということです。

 「今の子どもたちが、働くことが悪だと言われ続けて大人になった時、日本からスーパースターが生まれるのか。とても心配です」

 加藤氏は「高いハードルを乗り越えようとしてがむしゃらに働くことも、会社以外に夢や目標を見つけることも、同じくらい大事なダイバーシティー」と言います。

 「自分の会社には、18時以降は会社に残らないようにするワークライフバランス社員を作っています。一方で、自由に働ける人は働いていい。様々な選択肢をテーブルにのせるのが経営者の仕事ではないでしょうか」

1973年の首都圏の通勤ラッシュ風景
1973年の首都圏の通勤ラッシュ風景 出典: 朝日新聞

「『働くのが悪』と断罪する流れは乱暴」

 とはいえ、会社では、長時間労働をしてトップの成績をあげた人が評価されがちです。そこで、加藤氏は、物差しの多様化も大事だと強調します。そのために、人材評価では、社員同士がお互いを評価し合う「多面評価」を導入しているそうです。

 「人材評価にあたっては、営業成績以外のコミュニケーション能力、ちょっとした気遣いも評価の対象にしています」

 そして、何より大事にしているのが社員に「夢と目標」を持ってもらうこと。

 「今は、昔と違って社員全員が、がむしゃらに働くことを求められる時代ではない。様々な働き方があっていい。それなら、一周回って、がむしゃらに働く自由があってもいいと思います。もちろんそうじゃない生き方があってもいい。色んな考えの社員に『夢と目標』を与えるのが経営者の仕事。『働くのが悪』と断罪するかのような流れは、乱暴だと思うのです」

「『働くのが悪』と断罪するかのような流れは、乱暴だと思うのです」
「『働くのが悪』と断罪するかのような流れは、乱暴だと思うのです」

「働いた分」は時間だけではかれるのか?

 働き方改革を巡っては、電通の過労自殺や違法残業をめぐる一連の問題によって、様々な動きが生まれています。

 先日、記事にした電通元常務執行役員の藤原治氏は、インタビューの中で労働時間だけを基準にした働き方改革への疑問を訴えていました。

 サービス業が増えた日本において、「働いた分」を時間だけでなく、仕事の成果で評価するべきだという主張でした。

 仕事の質や成果に目がいきにくい背景には、加藤氏が大事にする「夢や目標」を多くの働き手が見いだしにくくなっている息苦しさがあるのかもしれません。

 加藤氏は「夢や目標」の一つとして、転職を経て独立した自身の経験を踏まえ「会社がどうなっても他社から声がかかるスキル、起業できる能力」を挙げます。

 「同じ長時間労働でも、それが自分で選んだものなら、次につながる蓄積になります。やらされるブラック労働とは、そこが違います」

 フェイスブックの友達が4千人以上いる加藤氏。働き方についての自身の考えも率直に投稿しています。

 反発を覚悟で発信しているメッセージですが、想定外の「いいね!」がつくそうです。

 「でもコメントは、ほとんどないんですよね。みんな疑問を感じているけど、表に出しにくい。そういう空気の現れなのかなと思っています」

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