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AIが「作る」アイドル 「意味不明なのが来た!」レーベルも前向き?

マジカル・パンチライン(左からアンナ、リーナ、レナ、ヒマワリ、ユーナ)。AI-CD β(手前中央)がディレクションを筆で書くのは、「クリエイティブディレクターって、ふらっと来て、紙にペロペロって書いて、よろしくね、と去っていくことに対するメタファー」とか=マッキャン・ワールドグループホールディングス提供
マジカル・パンチライン(左からアンナ、リーナ、レナ、ヒマワリ、ユーナ)。AI-CD β(手前中央)がディレクションを筆で書くのは、「クリエイティブディレクターって、ふらっと来て、紙にペロペロって書いて、よろしくね、と去っていくことに対するメタファー」とか=マッキャン・ワールドグループホールディングス提供

目次

 「人の仕事の約半分が、人工知能(AI)などに取って代わられる」という論文が話題になりましたが、「そうは言っても、クリエイティブ領域はAIは苦手」と考える人も少なくありません。そんな中、AIをクリエイティブディレクターに迎えたアイドルグループがいます。運営の担当者は「期待した通りの意味不明なのが来た」と前向きです。どんな狙いでAI起用を決断したのか、聞きました。

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【動画】AIがアイドルを「作る」とこうなる?あり得ないシチュエーションに絶句するメンバーたち…
記者と名刺交換をするAI-CD β。何となく横柄に見えるのも、クリエイティブディレクターっぽくする演出?=東京都港区
記者と名刺交換をするAI-CD β。何となく横柄に見えるのも、クリエイティブディレクターっぽくする演出?=東京都港区
【関連リンク】マジカル・パンチライン公式サイト

広告会社の若手メンバーが開発

 AIをクリエイティブディレクターに迎えたアイドルは、14~19歳の女性5人組グループ「マジカル・パンチライン」(マジパン)です。

 「魔法」をテーマとするユニークなコンセプトで話題を集め、2016年7月のデビューから半年足らずでテレビ、ラジオのレギュラー番組がスタート。メンバーそれぞれがルックスを生かしてモデルやグラビアの活動でも活躍し、17年8月にはデビューシングル「パレードは続く」をリリースするなど、今、注目の存在です。

 今回、そのクリエイティブディレクターに就任したのは、人工知能クリエイター「AI-CD β」。広告会社「マッキャン・ワールドグループ」傘下の各社における若手メンバーが開発しました。

AI-CD β(手前中央)と、島村譲さん(奥中央)、吉富亮介さん(同右から2人目)らプロジェクトの仕掛け人たち。5人全員が20、30代=東京都港区
AI-CD β(手前中央)と、島村譲さん(奥中央)、吉富亮介さん(同右から2人目)らプロジェクトの仕掛け人たち。5人全員が20、30代=東京都港区

楽曲より先にミュージックビデオを作成

 「AI-CD β」には、一般社団法人全日本シーエム放送連盟(ACC)のCMフェスティバルの過去10年分の受賞作品などのデータが蓄積されています。

 「ミュージックビデオ(MV)は、楽曲のCM」との考え方から、マジパンは今回、「AI-CD β」が導き出したディレクションを元にまずMVを作り、その映像に合わせて楽曲を作る、という異例の手法でセカンドシングルを出すことにしました。

 「AI-CD β」は、米国でのAI技術の広まりに刺激を受けたメンバーたちにより15年から開発が始まり、16年4月にマッキャンに「入社」という形で実戦配備。

 ガムの「クロレッツ」のCMでディレクションする様子を取り上げたテレビ番組を、レコード会社「ポニーキャニオン」でマジパンを担当する島村譲さんが見て、今回のプロジェクトにつながりました。

MV先行型楽曲制作プロジェクトの制作フロー=マッキャン・ワールドグループホールディングス提供
MV先行型楽曲制作プロジェクトの制作フロー=マッキャン・ワールドグループホールディングス提供

十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない

 英国のSF作家アーサー・C・クラークが「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という言葉を残していますが、島村さんは、「魔法」をコンセプトにしているマジパンの担当者として、同じような思いが頭をよぎったそうです。

 今回、マジパンに示されたディレクションは、「【狩猟本能】を、【学園】モチーフで、【擬物化】を使い、【アンニュイ】なトーンで、【ドキッとする】映像で伝えろ」というもの。

 「AI-CD β」に、扱う産業は「音楽」であり、「マジカル・パンチライン」という「魔法」をテーマにしたグループを13~34歳の男女(広告業界でいうT層、M1層、F1層)にPRし、その際にはアイドルなので「エロ」「グロ」「暴力的表現」を除外する、という形のディレクションを「依頼」したところ、出てきた結果でした。

 島村さんは「期待した通りの意味不明なのが来たので、テンション上がりました」と話します。

ディレクションを「依頼」するため、AI-CD βには「エロ」「グロ」「暴力的表現」などを除外する、などの条件を提示した=マッキャン・ワールドグループホールディングス提供
ディレクションを「依頼」するため、AI-CD βには「エロ」「グロ」「暴力的表現」などを除外する、などの条件を提示した=マッキャン・ワールドグループホールディングス提供

人間の仕事の可能性を広げるパートナー

 島村さんが満足したのには理由があります。

 音楽業界のようなクリエイティブ系の仕事は、個々人の能力に依存する部分が大きく、得意な事柄もあれば苦手な事柄もあり、出てくるアイデアにはどうしても限界があります。

 その際、AIがある意味「純粋」に、フラットに、人間の思いつかないような単語の組み合わせからなるアイデアを出すことで、アーティストやMVの監督、作曲家たちなど人間側も刺激を受けると考えたのです。

 島村さんは、「彼(AI-CD β)が全部、一から百までやってくれるわけではないんですけれど、一緒に仕事をする人間の仕事を奪うというよりは、人間の仕事の可能性やクリエイティビティを広げてくれる、すごく良いパートナーだと思いました」と語ります。

マジカル・パンチラインのメンバーたち(左)との打ち合わせ風景=ポニーキャニオン提供
マジカル・パンチラインのメンバーたち(左)との打ち合わせ風景=ポニーキャニオン提供

クリエイティブとビジネス、両立なるか

 マッキャン側の担当者の1人である吉富亮介さんも同じような意見です。

 「僕らだけだと10までしか出せないところを、(AI-CD βが)新しい方向の11個目、12個目だとか、広く考えるきっかけを与えてくれるパートナーみたいになっていけたら良いな、と思います。その始めの一歩ができたのではないか、と思います」

 アイドルはクリエイティブな成果と同時に、ビジネスとしての結果も求められます。新シングルの発売日程は未発表ですが、取材をした記者としてはこの「実験」に期待したいと思いました。

 日本には、ロボットや人工知能に対して、独特な受け止め方があると言われます。

 西洋が「神が人を作り、人が人工知能を作った」という考え方から「神→人→人工知能」という上下関係で考えることが多いのなら、鉄腕アトムやドラえもんが生まれた日本の場合、その関係は、ある意味「対等」。

 その結果、「人間と人工知能の共存」が実現しやすいという説もあります。

 今回の取り組みは、そんな「前向きな」人工知能との付き合い方を考える上でのヒントを示してくれるのでは、と思います。

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