お金と仕事
外国人タクシー運転手が見た日本 自動ドアに驚き、一番多い苦情は…
外国人の観光客が増える中、外国人で日本のタクシーの運転手をしている人がいます。中国、韓国、ブラジル、エジプト…。「やっぱり、自動ドアに驚いた」「都心なのに公園が多い。母国だと会員制のクラブにしか緑がないので…」「高いビルが印象的だった」と語る彼ら。「地名を覚えるのはやっぱり難しいです」「ルートのトラブルが大変」とも。タクシーの車窓から見た日本について話を聞きました。
話を聞いたのは5人。国籍は中国、韓国、ブラジル、エジプトです。
・韓国出身の金(キム)さん(45歳・来日14年目、乗車歴2年目)
・中国出身の梁(リャン)さん(26歳・来日7年目、新人)
・中国出身の林(リン)さん(25歳・来日7年目、新人)
・ブラジル出身のウエハラ・リカルドさん(45歳・来日23年目、乗車歴3年目)
・エジプト出身のモハメッド・モスアド・セリムさん(30歳・今年6月に4回目の来日で、9月7日に初勤務を果たした)
まず、日本のタクシーでびっくりしたこと。
金さん(韓国)は「値段の高さ」を挙げました。
「韓国の3倍くらいあります」という乗車賃については、全員がうなずきました。
そして「自動ドア」。ウエハラさん(ブラジル)は「普通自動車なのに、ドアが自動で開くなんて…これは、びっくりしました」。
実際は、運転手さんが手で操作しているのですが、梁さんと林さん(中国)も「中国にはないサービスです」と言います。
また、運転手に高齢者が多いことにも、びっくりしたそうです。
中国は車社会になったのはこの20年近くのことなので、タクシー運転手も若者か中年が多いことから「白髪の運転手さんがいるなんて、中国で考えられない」と梁さん、林さんは話しました。
タクシーから見た日本の風景はどのようなものなのでしょう?
初勤務を果たしたエジプト出身のセリムさんが驚いたのは、「東京駅や皇居近くの高層ビル」だそうです。「エジプトのカイロにも高いビルがありますが、このような高くて大きいビルがないです。やはりびっくりしました。」
そして「日本は緑の多い国です」と話ました。「大都市の場合、どうしてもビルやマンションが多く、緑が少なくなりますが、東京は公園に豊かな緑があります。エジプトの場合、メンバー制のクラブに行けば緑に触れられますが、町中はなかなかないですね・・・」
初日の感想として、「日本人のお客さんがやはり優しいです!でも道路が込んでいて、信号も多いです。エジプトの道路では、信号がそれほど多くないので大変でした」
普段、見慣れたビル・公園・信号も、外国人の運転手からは印象的に見えるようです。
日本でタクシーの運転手をする上で一番、大変なのは、やはり地名です。
金さん(韓国)は「地名や施設は固有名詞なので、日本人ならすぐピンと来ますが、外国人で、かつ、東京での暮らしが長くないと、わからないこともあります」。
ウエハラさん(ブラジル)は「カーナビを使おうとしても、『ー』か『う』か、長音を正しく入力しないとルートが出てこない」そうです。
また、カーナビも100%頼りにならない場合があるそうです。
「時々カーナビで検索しても出てこない場合があります。グーグルマップやヤフーのナビゲーションを併用することがあります」(ウエハラさん)。
「ナビは、データが古いこともあります。23区なのに、実際に道がないところもありますね」(金さん)。
乗ったタクシーの運転手が外国人だった時、日本人のお客さんは、どのような反応をするのでしょう?
林さん(中国)によると、トラブルになりやすいのはルートだそうです。
「乗車してからずっと文句を言い続けた人もいました」
金さん(韓国)も、「乗車してから降りるまで、『バカヤロウ』など、ずっと悪口を言い続けていて…そんなお客さんに何人も、遭遇しました」。
一方、外国人の乗客は大体、目的地のメモを持ってくるそうで、ルートでのトラブルはほとんどなく、経路で苦情が出るのは、ほとんどが日本人のお客さんだそうです。
ただし、金さん(韓国)は「たとえクレーマー的な態度をとるお客さんであっても、個人の性格だと思っています。日本人全体に当てはまるのは、間違いだと思います」と言います。
そして、トラブルが起きた時の対処方法は「ひたすら謝る」だそうです。
「このようなお客さんは極少数派なので、さっさと忘れて、次のお客さんへのサービスを切り替えちゃいます」(林さん、金さん)。
外国人のタクシー運転手が苦労する「地理」。
金さん(韓国)は「走るしかないです」。梁さんと林さん(中国)も「休まず走る」と言います。
ウエハラさん(ブラジル)は、走ったところを全部メモして、エクセルに入力しているそうです。
研修中のセリムさん(エジプト)は「地名の読み方が難しく、分からない言葉が多いので、グーグルやヤフーなどの検索エンジンに一つ一つ入れて、覚えています」。
外国人の運転手ならでの心温まる場面も教えてくれました。
ウエハラさん(ブラジル)が乗車した初日のことでした。
「日本語はそれほどうまくないし、また経験もないので、かなり緊張しました」
その日、乗せたお客さんが乗務員の名札にある「リカルド」という名前を見て「ブラジル人ですか」と聞いてきたそうです。
ブラジルで3年間、働いた経験があったという、そのお客さんは最後にポルトガル語で「頑張ってくださいね」と話してくれたそうです。
ウエハラさんは「それは、それは、忘れられない出来事でした……」と目を潤ませながら語りました。
母親が台湾出身という林さんは、台湾好きのお客さんとパイナップルの話で盛り上がったこともあるそうです。
1人で仕事をするタクシー運転手という仕事柄、母国の話ができるのは、外国人運転手にとってうれしい出来事のようです。
ルートでのトラブルがある一方、金さん(韓国)は「道を教えてくれるお客さんは、うれしいです」と話します。
「都心部を走るほど、親切に道を教えてくれるお客さんが多い印象があります。いつも、心が温まります」
若い中国人の新入社員2人は「チップ」がうれしいそうです。
「お釣りがいらないって言ってくれると、それだけでも一日がうれしいです」(梁さん)。
「5千円のチップをもらった時は、ありがたかったです」(林さん)。
2020年の東京五輪に向けて、観光も意識しているそうです。
ウエハラさん(ブラジル)と、セリムさん(エジプト)は、日本語のスキルをさらに高めて観光ガイドの資格を取得し、観光タクシーの仕事をしたいそうです。
金さん(韓国)は安全運転を心がけ「トラブルなしの運転を目指して頑張っていく」。林さんと梁さん(中国)は「道を覚えて、ナビを頼らない」と、それぞれ目標を掲げています。
日の丸交通・企画部の西川浩康(ひろやす)課長は、外国人の運転手を採用する理由について「それぞれ優秀な人材ばかりです。運転手にとどまらず、個々のスキルを生かし、会社のグローバル化および日本のサービスの海外進出につなげたい」と話しています。
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