IT・科学
萌えキャラ自動生成AIが大反響 作者は留学生、感じた「怖さ」とは?
今夏、萌えキャラを自動で生成するAIが、ネットに現れました。作者は中国人留学生の金陽華さんで、オタクが高じて日本語を覚えたという筋金入りです。世界の一線のAI研究者にも注目された金さんが「恐ろしい」と感じたものは、何だったのでしょう。
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今夏、萌えキャラを自動で生成するAIが、ネットに現れました。作者は中国人留学生の金陽華さんで、オタクが高じて日本語を覚えたという筋金入りです。世界の一線のAI研究者にも注目された金さんが「恐ろしい」と感じたものは、何だったのでしょう。
自分だけの萌えキャラがネットを通じて作れるサイトが今夏、登場し、世界的に注目されています。作ったのは京都大学で情報工学を学ぶ中国人留学生、金陽華さん(Jin Yanghua)と出身地の友人らの計6人。これまで論文の中で名前を見たことしかないような一線の研究者からの問い合わせもあり、幸せ一杯な金さんですが、ツイッターでは「恐ろしい」ともつぶやきました。金さんが感じた怖さとは何だったのでしょうか?
金さんたちが作ったサイトはその名も「MakeGirlsMoe」。好みの髪の毛の色や髪形、目の色などを入力し、「create」ボタンをクリックすると、AIがほんの数秒で、好みに沿った女の子のイラストを出力します。
使っている技術は、ディープラーニングのモデルのひとつ、「GAN」というもの。ごくごく基本的な部分だけでいえば、コンピューターが事前に覚えた膨大な萌えキャライラストからパターンを学習し、指示された条件に合わせて新しい顔を生成する、という仕組みです。今回は約3万点のゲームキャラのイラストを、コンピューターに読み込ませています。
作画の条件は、入力した好みだけではなく、AIが独自に追加するランダムな顔の要素も。生成される萌えキャラは、本当に多種多様です。同じ入力条件でも、ボタンをクリックするたびに新しい顔が生成されます。
その一つ一つが、本当に上手な人が描いたような出来栄えなんですけど… もちろん、その全てがAIによる「新作」のイラストです。
このサイトは、8月11~13日に東京ビッグサイトで開かれたコミックマーケットに合わせて、公開されました。公開直後から、サイトへのアクセスはうなぎ登り。ツイッターにも「すごく自然になってる すごい」「なかなか面白い」などの感想が寄せられます。
金さんは14日、「訪問量伸びすぎて鯖(筆者注:サーバー)がやばい…」とツイート。15日には、サイトを紹介したネットメディアの記事がYahoo!ニュースのトップに。21日、金さんは「多分一番恐ろしのは(中略)少しの知識があれば誰でも自分のモデルを作れる事」と意味深なツイートをしています。
多分一番恐ろしのは技術の公開やオープンソースより、少しの知識があれば誰でも自分のモデルを作れる事(ちなみに僕はただの学部生です https://t.co/I2JK7YvCkz
— Aixile@MakeGirlsMoe (@namaniku0) 2017年8月21日
何が恐ろしかったんだろう? 金さんにお電話し、伺ってみました。
金さんは、中国・上海の復旦大学の学生で23歳。1年間の交換留学で昨年9月、来日しました。オタクが高じて勉強した日本語も、今やペラペラ。留学先に京大を選んだのも「日本に行きたかった」からです。
「せっかく日本に住んでいるんだから、中国時代は想像もできなかったことをしてみたい」
そう思って挑んだのが、今夏のコミケ参加。復旦大の情報工学を学ぶオタク仲間に声をかけ、一緒に挑戦しました。日本に来られない仲間に代わり、アルバイトしている東京のIT企業の社員が会場に付き合ってくれ、会場ではサイトのデモをしたりしました。
「正直なところ、サイトには1000人ぐらい来てくれればいいなぁ、と思っていました。それが1万人来てくれたときにはもう、多すぎて感覚が湧かない感じ。10万人を超えた時はもう、『ああ、サーバーが大変だ』しかなかったです」
21日現在でサイトアクセスは100万を超え、米国など日本以外からのアクセスも多数。国内からのアクセスは3~4割程度と、注目は世界レベルでした。
そもそもなぜ、AIに萌えイラストを描かせようと思ったのでしょう?
「中学の頃、日本アニメにはまりました。特に好きだったのは『クラナド』ですね。それから、ああいう可愛い女の子を描きたい、と思って何カ月も挑戦したけど、難しくて諦めました。でも、『やりたい』という気持ちが残っていたんだと思います」
その結果が世界的ヒット。これまで、萌えイラストを自動生成するAIが作られた例はあるそうですが、出来栄えのレベルの高さが評価されたようです。今まで、論文の筆者としてしか知らなかった一線の研究者からも、問い合わせを受けるなど、専門の世界では金さん自身も注目を浴びています。
「ただの学生の僕たちに、そこまでの注目が集めることができたって、何か、凄くないですか?」
と、少し興奮気味に話す金さん。では、何が「恐ろし」かったのでしょう。
「僕自身、今回使った技術のディープラーニングを勉強し始めて、2年経っていないんです。多分、高校レベルの数学知識がある人なら、誰でもきちんと勉強すれば、できます。もちろん、アイデアは必要ですけど」
「そういう『誰でも出来るもの』が大きな反響を生み出せること。それが怖いな、って思ったんですね。僕らのサイトは平和なものですけど、悪意を持った人なら何か、凄く悪いことも出来てしまうんじゃないか。そう思ったんです」
ツイッター上の反応には、「イラストを描く人を駆逐してしまう」といったものもありました。金さんは「なんか僕がイラスト師の敵にされて正直に悲しい」ともつぶやいています。
なんか僕がイラスト師の敵にされて正直に悲しい
— Aixile@MakeGirlsMoe (@namaniku0) 2017年8月21日
「全くその可能性がないとは言えないし、こういう時代だから仕方ないのかも。でも、こういう技術は例えば、人がイラストを描く時のスピードアップにも応用できるはず。AIは人間のアシスタントになる、って信じています」
金さんは9月、中国に帰国し、また復旦大学の4年生としての生活が始まります。
「大学の研究者になるか企業のエンジニアになるかはまだ、決めていません。でも、AIが、ディープラーニングがどこまで可能性を伸ばしていけるのか。それを突き詰めていきたいと思っています」
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