紅茶の中でも有名な銘柄「ダージリン」。その名の通り、インドのダージリン地方で生産されているのですが、子どもの教育をきっかけとしたストライキで茶園は閉鎖…。インドで何が起こっているのでしょうか。また私たちが普段飲んでいるあの紅茶に影響はあるのでしょうか。(朝日新聞ニューデリー支局・奈良部健、 デジタル編集部・野口みな子)
大規模なストライキが、ダージリンの紅茶産業を直撃しています。騒動の背景にあるのが、アイデンティティーにかかわる言語問題です。
ダージリンのある西ベンガル州(州都コルカタ)の教育相が5月、州内の1年生から10年生まではベンガル語を必修科目とすると表明しました。日本では小学校就学前~高校1年生程度にあたる年齢です。
ベンガル語は西ベンガル州の公用語ですが、ネパール系住民の多いダージリン地方ではネパール語や英語などが学校で教えられています。
これまで必修科目ではなかったため、言語の押しつけに、反発が起こりました。
実は、ダージリン地方での対立の歴史は、30年以上前から続いているものでした。
ダージリンでは、1980年代から多数派を占めるネパール系住民が、西ベンガル州からの独立を要求。「ゴルカランド州」創設を求める運動が繰り広げられてきました。
こうした背景があるため、今回の言語問題によって、再び対立を深めることとなりました。治安部隊と衝突した抗議デモ参加者が死亡する事態にも発展しています。
インド商工省紅茶局によると、6月のダージリンでの紅茶生産量は前年比約9割減の140トン。丘陵地帯にある約90の茶園すべてが6月中旬から閉鎖されたままです。
6~8月は、紅茶生産のかき入れ時。最も打撃が大きいのは、「セカンドフラッシュ」がとれないことです。
では、「セカンドフラッシュ」とは一体どんな紅茶なのでしょうか?
世界各国の紅茶を取り扱うお茶専門店「ルピシア」によると、ダージリンの収穫は年3回で、季節によって風味に特徴があるといいます。
それぞれをファーストフラッシュ(春摘み)、セカンドフラッシュ(夏摘み)、オータムナル(秋摘み)といい、中でもセカンドフラッシュは香り高く芳醇、紅茶らしい伝統的な味わいで紅茶ファンに親しまれているそうです。
ルピシアの担当者は、セカンドフラッシュの買い付けをしていた茶園の中には、「収穫前にストライキにより茶園が閉鎖してしまったところもある」といいます。今シーズンはストライキ前に収穫された茶葉の中から最良のものを販売しているそうです。
また量については「お客様にご満足いただける十分な量を確保している」とし、セカンドフラッシュに限らず、ダージリンの販売に現時点で大きな影響はないといいます。
担当者は「今後の状況次第ですが、この状態がさらに長期化すれば、自社に限らず業界全体に多少なりとも影響はでてくるかと思う」としています。
では、飲料メーカーの製品はどうでしょうか?
キリンに問い合わせると、「午後の紅茶」の「おいしい無糖」にはダージリンが使用されているそうです。今回のストライキについて「商品には影響はない」とのことでした。
原材料の調達に、複数の業者と契約し、それぞれの業者で十分な在庫を確保しているため、少なくとも年内は商品の製造に影響はないとしています。
またコカ・コーラでは、「紅茶花伝」の「ロイヤルストレートティー」の茶葉の一部にダージリンを使用しています。原材料は計画的に調達されているため、こちらもダージリンの調達や、製品の製造には影響はないといいます。現時点では特別な対応は想定していないとのことです。
キリンもコカ・コーラのいずれも、今後の展開を冷静に見ていきたいとしています。
今回問い合わせた企業はいずれも影響がない、という回答でした。ただダージリン地方の混乱はまだ続きそうです。
西ベンガル州政権は、ベンガル語をすべての子どもに必修科目とする方針を撤回したものの、独立した州の設置を求めるストが収まる気配はありません。
業界関係者からは「ストが9月まで続けば、ダージリンの年間の収穫量の7割は失われることになる」との声も上がっています。
仮にストが収束したとしても、その日からすぐに摘み取れるようになるわけではありません。放置されてきた茶園を元に戻すには、さらに1カ月ほどかかる見通しだといいます。