地元
4万円かけて露伴先生に…コスプレ撮影、地元も潤う「町おこし効果」
コスプレ撮影会が地方で広がっています。昔ながらの町並みや廃校を舞台に思う存分、写真を撮りまくる。醍醐味を実感するため、岡山・矢掛町で開かれた撮影会に挑戦。そこで見たのは…コスプレネームで呼び合う一体感と「画像加工」を駆使した「若返り」。そして地元の人と交流から見える「町おこし」の可能性でした。
4月半ば、岡山県の旧山陽道に位置する矢掛町にコスプレイヤーたちが続々と集まってきました。その数、約60人。白壁造りの建物に瓦屋根のコントラストが美しい、風情のある町です。
江戸時代には宿場町として栄え、江戸幕府に嫁ぐ際に篤姫が宿泊したという本陣(国指定重要文化財)もあります。
今回の撮影会は、本物の和風建築や廃校が舞台。歩くだけで雰囲気のある街……。これは燃えます。
参加するにあたり、自分に課した条件は三つ。
一つ目は、見た目にこだわること。
二つ目は恥ずかしがらないこと。
三つ目は、心からキャラクターになりきるよう努力することです。
まずは、キャラクター決め。私が選んだのは、「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する漫画家・岸辺露伴。どんな場所にも自ら取材に赴き、作品に絶対的な自信を持つ彼のキャラクター性は、記者の私にとって永遠の憧れです。
しかし、ジョジョは独特の色づかいや、ギリシャ彫刻のような造形の登場人物が人気の作品。「にわかレイヤー」には、ハードルが高そうですが、気合を入れて挑みました。
ウィッグと衣装はインターネット上で購入し、メイクは現役のコスプレイヤーの友人らから聞いて学びました。
男装のため、さらしを巻いたり、肩幅を出すため切った紙コップを肩に貼り付けたり。普段、化粧をしない分、下地やファンデーションの代金が必要以上にかさんだのが悔やまれますが、尊敬する露伴先生のためなら仕方ありません。
衣装代はしめて4万円くらいでした。
いざ、出陣。
総合受付となった廃校「旧矢掛商業高校」で出迎えてくれたのは、同人誌販売やコスプレイベントを岡山で開いて30年となる「ぶちすげぇコミックバトル」の主催者、岡本宏志さん(54)。
私を見て、開口一番に「岸辺露伴だ」と笑顔で迎え入れてくれました。
厚塗りに厚塗りを重ね、メイクしたての顔はまるでデーモン小暮閣下のようだった私。「露伴先生に見えるんだな」と、少しホッとしました。
さて、いよいよ撮影です。
まずは、メイン会場ともいえる国の重要指定文化財の旧本陣と旧脇本陣。和風建築での撮影をしていたのは、ゲーム「刀剣乱舞」のコスプレをしていた3人。
名前は、肴さん(19)と、椛さん(18)、zizzさん(18)。
そう、ここではお互いをコスプレネームで呼び合うのです。
矢掛町に来るのは初めてで、椛さんは「町並みが昔ながらって感じで、本当に良いところですね」と、銀色のウィッグをなびかせながら微笑みます。zizzさんも「地元の人がたくさん声をかけてくれてうれしい」とにっこり。
商店街は、コスプレ姿のまま歩くことができました。道行く人やお店の人が「似合うわね」「何かお祭りがあるの?」と、露伴先生な私に気さくに声をかけてくれました。
暑さを嘆いたら、「あそこの店でアイスクリーム売ってますよ」と教えてくれたり、高いヒールの靴を履いていたら「ベンチで休んで良いよ」と親切にしてくれたり。非日常を楽しむコスプレは、人と人との心の垣根も消してくれるのでしょうか。
こうした地元との交流を、コスプレイヤーはSNSで発信します。「楽しかった」「うれしかった」「また行きたい」
地元観光ガイドの妹尾浩匡さん(26)は、こうしたコメントに「本当にうれしい。次は地元の周知を徹底し、もっと受け入れ体制をしっかり作りたい」と言います。
廃校の教室でクールにポーズを決めていたのは、漫画「黒子のバスケ」のコスプレをしていたLeonさん(29)と音小さん(29)。
「学校丸ごと使えるのがいい」「本物の場所を背景に撮影できるのが魅力」
コスプレヤーの悩み、それは撮影場所なのです。最近は、撮影の場を求めて個人でスタジオを借りたり、自分の求める場所を求めて県外へ遠征したりすることも多いそうです。
スタジオは高額なため、複数人で割り勘したりと人集めに苦労することもあるそう。一方、イベントは参加費が1千円~3千円程度で済むため、気軽に参加できるとのことです。
「コスプレは究極のアンチエイジングですよ」」と語ってくれたのはLeonさんです。
「顔はテーピングで目を大きく見せたり、しわを伸ばしたりできる。そして画像の加工も」と不敵に笑います。
ウィッグネットの上からテープを巻き、引き上げるようにして固定すると、つり目、垂れ目、縦に大きな目、と自由自在に目の大きさが変わります。つけまつげを二重につけ、下まつげも目の縁よりオーバー気味につけることで派手さが増します。体も、さらしを二重に巻くことである程度胸板のある体つきになります。
10年以上、コスプレを楽しんでいるという音小さんは「最近は、10代から50代までコスプレする人の幅が広がった」と教えてくれました。
参加してみたところ、撮る度にわくわくする自分がいました。
参加前日は「仕事でコスとか調子乗るな」と、怒られてしまうのではとどこかビクビクしていましたが、ふたを開けてみれば、町の人もレイヤーさんも温かく受け入れてくれました。
舞台としての「町」を大事に思う気持ちと、レイヤーさんが「コスプレ」にかける思い……。そのどちらも体験できた、充実した体験となりました。
最近、こうした「町おこし」を狙ったイベントは全国でも広がっています。
福岡県鞍手町では廃校を使ったイベントが開かれ、同県直方市でも和風建築が人気のスポットになっています。
また、アニメなど作品のロケ地となった場所を「聖地」とし、佐賀県や埼玉県でもファンイベントの際にコスプレイヤーが参加することもあります。
さて、肝心の自分の撮影ですが、少し上向きになって自撮りで一枚。あごを引き、たるみがばれないようにしつつ、憧れの露伴先生に少しは近づけたのか?
最後は補正アプリの力に頼りました……。
1/68枚