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佐賀の自転車、なぜカラフル? ママチャリ王国の「特殊な事情」
佐賀市に住んで2年。街を行き交う高校生たちの自転車が、これまで暮らした街よりもカラフルなことに気づいた。佐賀弁で「けったくり」と呼ばれる自転車のカラフル具合と、そのワケを調べた。(朝日新聞佐賀総局・浜田祥太郎)
まずは実態把握。市中心部、JR佐賀駅から歩いて約5分の天神橋交差点に立った。通学ラッシュの午前8時、高校生をターゲットに調査スタート。鮮やかな色の自転車が行き交う様子は、毎年秋に開かれるインターナショナルバルーンフェスタで佐賀の空を彩る熱気球をほうふつとさせる。30分間で213台が通り、単色だけで12色が確認できた。
単色で1位は黒で26台(12%)。2位は水色で25台。3位は白とピンクがいずれも22台だった。以下順に、銀、赤、紫、黄、紺、オレンジ、黄緑、青。ただ実は一番多かったのが「ツートンカラー」。水色×黒、黄緑×黒などがみられた。
水色、白、ピンクは女子に人気。特にピンクは髪を染めていたり、ソックスが短かったりするおしゃれ好きそうな女子が選んでいる感じだ。男子は黄緑や黄、オレンジと傾向が分かれた。
関東から九州まで各地の自転車店に自転車を卸しているウエルビーサイクル(本社・大阪市東成区)九州事業本部の江辺明さん(59)は、「佐賀は軽快車(ママチャリ)だったらダントツでカラフル」と話す。同社は佐賀市内の店の注文に応じて様々な色の自転車を納入しているという。
戦前から続く佐賀市内の自転車店「セキモトサイクル」の3代目店主、関本憲二さん(54)によると、佐賀の高校生の自転車がカラフルになってきたのは「15年ほど前」だという。
「『明るいピンクとかありませんか』と高校生くらいのお客さんがリクエストしてきた。はじめは『そんな色ないな』って断ってたんですけど」
カラフルさを求める声が大きくなったことから関本さんは取り扱う色を増やし始め、今では50色ほどをそろえているという。
色のバリエーションが多いのは、価格帯1万3千円~2万円、ハンドルは「ハ」の字のアップハンドル型、変速ギアなし自転車。いわゆる「ママチャリ」。セキモトサイクルでは入学期前には1日100台売れることもあるという。
佐賀駅近くの創業95年という老舗、「サイクルセンター七田」の3代目、七田茂さん(62)は毎年、中高生から様々な色を求められるという。十数色を特注し、ニーズに応えている。売れ筋の「ツートンカラー」では、自分好みの色の組み合わせにしてほしいという注文まである。
「ほかの人が乗ってない、というのが大事みたいです」
ウエルビーサイクルの江辺さんは、佐賀の自転車がカラフルな理由として、佐賀平野の平らな地形を挙げる。
国土地理院のデータでは、佐賀市の中心部は標高2~5メートルほどの範囲で収まり、フラット。通勤や通学に自転車を使う人は多く、佐賀の1世帯あたりの自転車の保有台数は1.22台(自転車産業振興協会の2012年調査)。
変速機もいらないのでシンプルで安いママチャリが売れ筋となり、カラバリがないと「みんなと同じ」になってしまう、という理屈だ。
高校生の気持ちを聞いてみた。
ショッキングピンクに乗っている佐賀商業1年の女子(16)は、ピンクに乗る理由を「好きな色で、かわいいから」と一言。「銀色じゃいや?」と尋ねると、黙ってコクリとうなずいた。
その銀色に乗る佐賀清和3年の女子(18)は、中学時代に校則が厳しいと思ってその色を買ったそう。「後悔してます。紫とかかわいいのが良かった」とため息をついた。
佐賀工業2年の男子(17)は、佐賀市から列車で15分ほどの佐賀県江北町在住。家から近くの駅までは銀の自転車なのに、佐賀駅から学校までで使う自転車はオレンジ×黒のツートンカラーだ。
――なんで?
「銀は普通じゃないですか」
――おしゃれしたいってこと?
「こっち(佐賀市)は人多いんで、遊び心、みたいな」
――カラフルなことに違和感は?
「最初はあれですけど、黄色とかもいるんで、目立ってるのが普通みたいな感じです」
学校側はどう見ているのか。県学校教育課の担当者は「私が学生だった40年前は特に色は富んでなかったですね」としつつ、状況についてこう見る。
「特に、色について指定すべきことはないし、なにかに影響があるなら(規制も)検討するけど、いまのところ悪影響はない。安全であれば。変形、特殊自転車はダメですが」
高校生のおしゃれ心を乗せ、カラフル自転車は今日も佐賀平野を走る。
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