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「保育園入れたら終わり?」 施設の事故で娘を失った…母の思い
「保育園に入れたらそれで終わりではなく、保育の質をよくするために何が必要か、一緒に考えてほしい」と訴える阿部一美さんに聞きました
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「保育園に入れたらそれで終わりではなく、保育の質をよくするために何が必要か、一緒に考えてほしい」と訴える阿部一美さんに聞きました
認可保育園の入園の可否が届く季節になり、SNSには今年も、「保育園落ちた」人たちの怒りが渦巻いています。6年前のちょうどこのころ、さいたま市の阿部一美さん(38)は、1歳7カ月だった長女、美月ちゃんを、保育施設の事故で亡くしました。認可保育所に入れず、やむをえず選んだ預け先でした。「保育園に入れたらそれで終わりではない」と訴える阿部さん。保育の質をよくするために何が必要なのか。話を聞きました。
「保育園落ちた、どうしたらいいかわからない」「このままだと失業」
1月下旬から、SNSには切実な声があふれています。「自分も当事者だっただけに、気持ちはよくわかる。この季節はとても苦しい」と阿部さん。
2011年2月、阿部さんの長女、美月ちゃんは、通っていたさいたま市認定の保育室(認可外保育施設)で亡くなりました。発見時はお昼寝中で、突然死のリスクを高めるとされるうつぶせ寝の状態でした。
この施設を選んだのは、認可保育所に入れなかったからです。
「1歳までは一緒にいたい」と、1歳になるタイミングで認可への入園を申し込みましたが、空きがなく、育休を延長。認可外保育施設に預け、そのポイントが加点されれば、次の4月には認可保育所に入れるはず……。区役所でもすすめられ、「認可外でも、市が認定しているなら安心」と、入所を決めました。
2月上旬には、4月から認可保育所に入れるという通知を受け取りました。事故は、その直後でした。
何が起きたのか。園から満足のいく説明はありませんでした。自ら保育士たちに聞き取ったところ、美月ちゃんはうつぶせ寝で頭の上から布団をかぶせられていたと説明を受けました。
生前「転んだ」と聞かされていた顔のあざも、実は違う理由だったと聞かされました。この施設では1歳児でもご飯を残すことは「絶対ダメ」で、保育士たちが無理やり顔を押さえつけて食べさせていたためにできたあざだったのです。保育士資格のない副園長の指示だったそうです。
こうした日々の保育の積み重ねが事故につながったのではないかと、阿部さんは考えています。しかし、事故の検証はほとんどされませんでした。保育事故で子どもを亡くした遺族たちと情報交換するようになり、そうした状況が珍しくはないことを知りました。
「朝まで元気だった子が突然亡くなり、『偶然』『子どもに原因がある』とされてしまう。でも状況を調べると、入所直後だったり、うつぶせ寝だったりと、共通点がある。そういった点に気をつけるだけで、事故を減らすことはできるはずなのに」
「安心して預けられること」は、親として譲れない条件のはず。しかし、安全かどうか調べるのは、なかなか難しいのが現状です。死亡事故や重大な事故が起きても、公にされるとは限りません。「施設に原因があるかわからない」「遺族が望んでいない」といった理由からです。
チェックする自治体の仕組みも十分とはいえません。例えば、年1回と定められている認可外保育施設の立ち入り調査は、東京都では13%にしか実施されていません(2014年度)。
「保育所の枠が足りず、親たちは園を選べない状況。本来は、認可外も含めてどこでも安全が守られるような態勢を、自治体が作るべきでは」と阿部さん。
阿部さんの長男(2012年産まれ)も、一次では認可保育所には入れず、二次でようやく入園が決まりました。
今も保育園に関わる親たちとの活動を続けていますが、待機児童問題の深刻さは、何年たっても変わらないまま。親たちからは、「とにかく数を増やして」「規制緩和を」といった声も聞こえます。
ただ、保育園に入ることはゴールではなく、その後に長い生活が待っています。子どもの成長を支えるために何が必要かについても、もっと議論が必要だと阿部さんは感じています。
「保育園に入れない人たちの切実な声が行政を動かし、認可保育所の増設のペースが上がった。同じように、質の問題も、変えることができるはず。待機児童問題に直面する当事者にはなかなか難しいので、保育園に入ることができた人や、OBがもっと関わって、よりよい保育を作るために声をあげてほしい」
自分と同じ思いをする人を、これ以上増やしたくない。阿部さんを支えるのは、そんな思いです。
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