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安倍トランプ会談の前に…34年前、首脳同士が激突「ガチ取引」の真相
安倍晋三首相が訪米し、10日に米国のトランプ大統領と初めての首脳会談に臨みます。トランプさんは就任するやいなや対日貿易赤字を問題視し、日米同盟をめぐって日本の負担増も求めかねない勢いです。安倍さんはどのような姿勢で会談に臨み、トランプさんとどのような関係を築いていくのか。とても注目されています。
実は、現在の情勢とよく似ている、と指摘される時代があります。1980年代初めの日米関係です。
82年11月に政権の座を射止めた中曽根康弘首相は翌83年1月、就任後初めて訪米してレーガン大統領と会談。
当時、米国内には日本製の自動車や電気製品があふれ、米政府はふくらむ対日貿易赤字に不満を募らせていました。一方で、アフガニスタン侵攻など拡大政策をとるソ連にどう向き合うかという安全保障政策についても、頭を悩ませていました。
日米のトップが向き合い、どのような外交を展開するのか。2人は初会談で意気投合し、その後、「ロン・ヤス」と呼ばれる蜜月関係を築きました。戦後、日米の首脳同士の関係がもっとも良好だった時期だとも言われるほどです。
「貿易摩擦解消」と「日本の防衛強化」。まるで、トランプさんが安倍さんに投げたボールのようです。重要な初会談を、中曽根さんはどのように乗り切ったのでしょうか。
1月12日、外務省が公開した外交文書で、その詳細が明らかになりました。日本政府が作成したり入手したりした文書は、原則として30年以上経てば公開することになっていて、外務省が設けた委員会が国民の関心の高そうなテーマを選び、定期的に公開しています。
今回、中曽根さんがレーガンさんと通訳だけを交えて行った「サシ」会談も含めた詳細な記録が公開されたのです。その内容はこうです。
とりわけ農産物の市場開放を求める米側に対し、中曽根さんはレーガンさんを前に「両国とも自由貿易体制の維持発展を目指している」と指摘。そのうえで、「具体的政策では米国と異なることもあり得ると理解願いたい」と述べ、通商政策で譲らない考えを伝えました。
中曽根さんは一方で、防衛政策のカードを切ります。「防衛協力は双方の戦略上極めて重要」(首脳会談に同席したワインバーガー国防長官)と、米側が日本の防衛費増を要請したのに対し、中曽根さんは、ソ連の潜水艦が日本の周辺海峡を通って太平洋に出られないようにすることなどを例示。米国の懸念を解消し、自衛隊と米軍の協力をより強める考えを表明しました。
さて、外交記録で明らかになった「中曽根外交」を、新聞各紙はどのように報じたのでしょうか。1月12、13両日の各紙は、中曽根さんが切った「防衛協力カード」をめぐり、それぞれの評価がうかがえる紙面づくりになりました。
読売新聞は「日米修復 中曽根氏の決意」と表現。記事では「日米の安全保障協力を『同盟』に進化させる姿勢を明確にした」と解説しました。全体的に前向きな評価との印象を受けます。そういえば、読売新聞の渡辺恒雄主筆は、中曽根さんの盟友として知られています。
「防衛予算の増額を要請され、前向きに応じていたことが判明した」としたのは、産経新聞です。見出しは「ロン・ヤス関係 初会談に原点」。記事では「ソ連の脅威が増す中での初会談は、強固な信頼で日米同盟を深化させた『ロン・ヤス関係』の原点となった」と分析し、こちらも批判的ではありません。
一方、毎日新聞は「関係改善に前のめりになっていた様子がうかがえる」と指摘し、見出しにも「前のめり」とうたいました。さらに、識者に「日本に安保分野で負担を求める土壌ができ、米の要求はどんどん拡大していった」と解説してもらっています。
「前のめり」という言葉には「積極的に物事に取り組むこと」という意味のほか、「前方に倒れそうに傾くこと」という意味もあります。評価として使う場合、微妙なニュアンスだとも言えます。
東京新聞の見出しは「安保 日本負担増の源流」。「ロン・ヤス関係が、現在の安倍政権につながる『日米同盟』の源流となった実態が鮮明に浮かび上がる。その流れは、在日米軍基地の費用負担増に触れるトランプ次期米大統領の登場で新たな局面に向かう」と記述し、安倍政権、トランプ氏にも言及しています。
東京新聞は、「反安倍」色を前面に出していることで知られています。
日本経済新聞は、経済紙らしいトーンだなと感じました。12日夕刊で「米、安保で負担要請」という見出しで報じ、「財政赤字拡大に悩む米国の要求を踏まえ」と解説。対ソ戦略での協調よりも、米国の財政事情に光を当てています。
朝日新聞はどうでしょうか。13日付朝刊3面で「vsロン ヤスの戦略」という見出しを立て、貿易摩擦と防衛強化を並列に扱いました。
貿易摩擦はかわしつつ防衛強化で乗る――という外交手法だったとの評価です。そのうえで、「両氏の関係は『ロン・ヤス』と呼ばれ、日米の蜜月時代の代名詞になった」と位置づけました。
中曽根さんの訪米から34年。トランプさんが尊敬しているというレーガンさんとのやりとりは、安倍さんにとって参考になるのか。そして、「安倍・トランプ」は「ロン・ヤス」になるのか。そんな歴史的な初会談を、各メディアはどう報じるのか。中曽根外交に思いをはせつつ、読み比べてみてはいかがでしょうか。
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