お金と仕事
世界最悪の過労、香港の実態 長時間労働は日本の1.5倍、その理由
長時間労働や過労自殺など、日本の働き方が問題になっています。一方、日本よりも長時間労働を強いられているのが香港です。「世界最悪」の過労の実態は、いったんどんなものなのか。現地の労働組合「香港工会連合会」に話を聞きました。
労働政策研究・研修機構がまとめた「データブック国際労働比較」によると、2014年の週49時間以上働く人の割合は、日本が21.3%だったのに対し、香港は1.5倍の30.8%にのぼっています。
また、スイス金融大手のUBSが2015年に71の大都市を調査したところ、香港は週の労働時間が50時間以上あり、年間だと2606時間。世界一の長時間労働の都市になっています。ちなみに、最も少ない労働時間のパリ市民は、週35時間、年1604時間に過ぎません。
香港政府・統計処、2014年に調べた「収入と労働時間統計調査」によると、国際的に長時間労働の基準とされる「週44時間」以上働いている労働者は、香港で116万人を超えています。香港の全労働者の3割が長時間労働を強いられていることになります。
加えて、香港の労働問題で深刻なのはサービス残業です。年間の残業時間に相応して残業代を換算する場合、103.8億香港ドル(1500億円超)になるわけです。
香港工会連合会の2013年の調査によると、過労自殺は20件以上ありました。事務員から教師、中には作家、会社のCEOにまで及んでいます。過労自殺について香港工会連合会は「限られた時間内で、無限の仕事をしなければならないことが原因になっている」と指摘します。
2013年調査のアンケート回答者(867名)の回答結果からは、上司の命令に従わざるを得ない状況が見えてきます。
・できるだけ早く仕事を完成させると、上司に催促されたことがある(74.4%)※2012年調査比で9.2%上昇
・規定された労働時間より長い労働が強いられている(73.2%)※2012年調査比で2.9%上昇
・大量の書類を処理しなければならない(68.3%)
仕事上のプレッシャーでも、上司の存在が浮かび上がります
【仕事上のプレッシャートップ3】
1位 いつも本来の仕事以外の業務を要求される
2位 何かミスがあると、解雇や昇進で不利な扱いをされる
3位 長時間労働が強いられる
2015年には、男性(814人)を対象に、子どもとの時間を聞いています。その結果、家族と子どもの接する時間が30分以下だった男性が55.6%にのぼりました。さらに、仕事が原因で子どもや家族とコミュニケーションを全く取れていないという人も18.8%いました。
香港工会連合会は、香港の労働問題の特徴は「長時間労働と無償残業」にあると分析しています。
原因となっているが、圧倒的に強い立場にある雇用主の存在と、それを放置している香港政府の対応です。
1980年代から、香港の主力産業は、製造業からサービス業へ急激に転換しました。しかし、関連の労働関係の法律の整備は進みませんでした。
結果、小売、飲食、警備員や掃除などの業種から会社員まで「強い立場の雇用主と、言うことが聞かざるを得ない労働者」という構造が固定化してしまいました。
単純労働の業種は低い時給のまま長時間労働が強いられ、会社員もサービス残業が断れない状況に陥っています。例え大学を出て会社に就職した人でも、サービス残業を拒めば解雇されるのが現状です。
香港工会連合会には、弱い立場からの会社員から相談が寄せられています。
入社時に残業手当などの契約を結んでいても、上司は、まずタイムカードで退勤記録をさせた上で、仕事場に戻らせ、業務が終わるまで帰宅させないという相談でした。実は契約に違反しても、罰則などは明記されておらず、訴訟も時間と労力がかかるため、会社員は泣き寝入りするしかありませんでした。
香港工会連合会では、新たな法律を作り、標準の労働時間を決めるよう香港政府に求めています。
香港政府への要請の中では、「週44時間を標準労働時間」とした上で、標準労働時間を超えた場合の補償を求めています。その場合、通常の給与の1.5倍の手当てを提示しています。
香港工会連合会の提案によって「標準労働時間委員会」も設置されています。委員会には、雇用主と労働者、双方の代表が入り、標準労働時間を法律で決めるよう香港政府に要求しています。
香港工会連合会は「今後も労働者同士が団結することで、雇用環境の改善を進めていきたい」としています。
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