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「3歳児神話」の亡霊…保育園は悪? 12年の追跡調査でわかったこと
「小さな子どもを保育園に入れるのはかわいそう」だと、あなたは感じますか? いまだに多くの母親を悩ませている「3歳児神話」。幼い子どもがいる母親が働くと、子どもの発達に悪影響が出るのではないかと、心配する人が少なくありません。お茶の水女子大の菅原ますみ教授(発達心理学)は「子育ての正解は家庭ごとに違う」と言います。今も根強い「神話」について、どう考えればいいのでしょうか?(聞き手・長富由希子)
発達への悪影響の心配は日本社会に広くあります。ここ数十年に働く母親が増えた米国など、様々な国で同じ心配がされました。本当に悪影響が出るのか。様々な実証研究がされています。
米国立小児保健・人間発達研究所は、全米の新生児約1300人を1991年から5年間追跡。母親だけで育てた場合と、保育サービスなど母親以外の人も含めて育てた場合とで、子どもの発達に有意な差はなかったとの結論でした。
私が国内の269組の母子を12年間追跡した調査でも、3歳未満で母親が働いても、子どもの問題行動や、子どもに聞いた母子関係の良好さ、母親に聞いた子どもへの愛情への悪影響は認められませんでした。
過去50年間の各国の研究を統計分析をした2010年の米国の研究でも、母親の就労と子どもの学力や問題行動は基本的に関係がなかった。近年では、親が仕事に子育てにと複数の役割を持つと、リフレッシュや成長につながり、子どもにも良い影響を与えるとの研究も出ています。
こうした研究は、母親が子育てをしなくていいといっているわけではありません。子どもには、必要な衣食住を満たし、スキンシップを含めた温かいコミュニケーションを取ってくれる人が必要です。
1歳半ごろからは、社会のルールを学ぶ必要もある。様々な研究から言えるのは、こうしたことを母親だけでやらなくても大丈夫だということです。
一方、発達に悪いと実証されていることがあります。子どもに近い人のメンタルヘルスの悪さです。父母が不安を感じていたり、イライラしていたりすると、子どもに温かく接することが難しくなり、それが子どもの問題行動を引き起こす恐れがあると言われています。
このため、母親が主に子育てをする場合も、母親の「自分の時間」が必要です。「お母さんなんだから我慢して当然」というまわりの意識は母親を追い詰め、子どものためにもなりません。
時代は変わっています。若い世代の年収は減り、雇用は不安定で、年金の先行きも暗い。専業主婦は夫との離死別で生活が苦しくなる恐れが相対的に高い。家計のリスク管理の面からも働く母親が増えています。
家庭によって状況は様々なので、子どもの育て方の正解も家庭ごとに違います。大切なのは、どんな家庭に生まれた子どもでも、その24時間をどうすればつつがなく温かく満たしていけるのか、親や社会が真剣に考え、実現していくことです。
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<3歳児神話> 1998年の厚生白書は「子どもは三歳までは、常時家庭において母親の手で育てないと、その後の成長に悪影響を及ぼすというもの」と説明した。欧米の母子研究の影響などを受けて60年代に広まったとされる。白書は、戦前の産業が農業や漁業中心だった時代には母親は働きながら、家族や地域の支援を受けて子育てをしていたなどとし、3歳児神話に「少なくとも合理的な根拠は認められない」として否定している。
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