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初代美魔女、6年後の今 中国生まれ、元バスケ選手で医学生の経歴
今や様々な場面で使われるようになった「美魔女」。2010年、初めて開かれた第1回国民的美魔女コンテストでファイナリストに選ばれた1人に、中国生まれで、現在50歳の杉山怡萍(イーピン)さんがいます。バスケットボールの元プロ選手で、かつ医学生でもあったという経歴の持ち主です。現在は家族の営む貿易会社の役員をつとめながら、通訳や、化粧品会社のプロモーションに登場することも。結婚して日本人になった初代美魔女は、日中両国の架け橋になるため、今も自身の「美」を追求しています。
イーピンさんの両親は、1950年代の中国の有名なバスケットボールの選手でした。生まれつき身体能力がずば抜けていたイーピンさんは、中学校の時にスカウトされ、プロのバスケットボールのチームに所属し、ナショナルチームのU20にも選抜されました。
その後、上海の名門医科大学に入学し、外科医をめざします。
転機は大学4年生の時に訪れました。日本の大学から、奨学金付きの留学生として、選手とコーチ就任の話が舞い込んだのです。
80年代の中国では、留学はまだ珍しいことでした。
「心が動きました。祖父はかつて日本への留学経験があり、小さい時から日本の生活などをよく聞かされていたので」と語るイーピンさん。留学の誘いを受けた時、祖父はすでに亡くなっていましたが「これは、祖父が呼んでくれたかなと感じた」と留学を決意しました。
88年に来日し、拓殖大学で留学生として勉強しながら、バスケットボール部を指導し、当時「関東大学女子バスケットボール連盟」の4部だったチームを2部に引き上げました。その後、大学院のゼミで知り合った日本人の夫と結婚。帰化をして、名前も杉山になりました。
「美魔女コンテストに参加したのは夫のおかげです」。イーピンさんは、そう振り返ります。
第1回国民的美魔女コンテスト(光文社主催)へのエントリーを友人からすすめられた当初は、まったく参加する気はなかったそうです。
締切りまで2週間に迫った時、コンテストのことを相談した夫が推薦人になると言ったので、出場を決めました。
「夫が、『毎日明るく、家族に元気をくれるので、それを外でも伝えてみたら?』と言ってくれて…」
そして2300人以上の応募者から、20人の美魔女ファイナリストに選ばれました。倍率は100倍以上の狭き門でした。
他の美魔女たちの印象については、「みんな、かなりピュアでしたが、すごく努力家で、外見の美だけでなく、知識、言葉遣い、礼儀など、内面の美も磨いていました」と振り返ります。
「一方、私の長所と言えば、身長の高さと、バランスとれたスタイルくらいでした。短所は日本語。外国生まれ外国育ちなので、緊張すると日本語が下手になるんです」
ファイナルに挑戦する際には次のことを心がけました。
「人は自分の長所と短所を知ることが大事で、美に関しても同じ。中国のことわざ『揚長避短』(長所を伸ばし短所を避ける)のように、堂々とした態度を取り、お化粧や服選びでは長所を活かし、ブログやツイッターなどを書く際には、日本語力が足りないため、時間をかけてしっかり書く勉強をしました」。
コンテストでは惜しくも優勝を逃しましたが、ファイナリストに残ったことで「美魔女」の称号を手に入れます。
美魔女になったことで、視野や考え方、いろいろなことに関心を持つことが増えました。世の中の動き、新しいコト、新しいモノなど、考え方、もっと人に伝えたい、恩返したい、もっとコミュニケーションをしたいと思う変化が起きたそうです。
「生活の中から美を探し、発見し、感じる。そして表現する。表現する際には、教養や勉強してきた積み重ねが求められます。知性は、美の源なのだと気付きました」と語るイーピンさん。
「美は複製できません。有名人の服やバッグ、靴を全部真似しても、その有名人になれないでしょ? でも参考することで、そこから自分自身の美を生み出すことができます」
美魔女になってから、企業のイメージキャラクターをつとめるなど、仕事の幅が広がったそうです。そして、収益の一部はユニセフ寄付し、東日本大震災の被災地、宮城県石巻市ではボランティアもつとめました。
また、医学生の知識を活かして、時々病院関係の通訳も担当しています。トークイベントなどを通して、美しくなるための考え方を伝えています。
一方で、日中両方の良さを知る身として心配なこともあると言います。
「中国に対する日本人のイメージが偏っていることが気がかりです。例えば、中国でも有名な鑑真和上の日本への渡航の物語は日中友好のシンボルになっています。私も、日本と中国の人々の縁を結ぶ存在になれたらと思っています」と語ります。
中国についてマイナスのイメージを持っている日本人には、こう呼びかけます。
「一度、中国に足を運び、広大な風景、本場のグルメ、温かい人情など、中国の『美』をぜひ一度体験してみませんか?中国のイメージが変わると思いますよ。隣国同士、子孫代々続く友好を心から祈っています」
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