感動
10代LGBT向け動画が切なすぎる 当事者以外も「泣ける」と共感
10代のLGBTに向けて作られたメッセージ動画が、「切なくて泣ける」と人気です。ある男の子の秘めた恋を描いた作品ですが、当事者以外にも共感が広がっています。制作者に話を聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
動画「確信」は、3分25秒の歌とアニメーションです。
作ったのは、LGBTに関する情報発信をする団体「やる気あり美」。
「恋する10代LGBTへ」という副題がついています。
物語は、あるゲイの男の子の前に、神様がやってくるところから始まります。
「神様が言いました 『クラスに 君と同じゲイがいます 誰だか当てられたら 付き合えるよ』」
男の子は、「誰だ!?」と推理を始めますが、考え始めると、どいつもこいつも疑わしい。
「お前が女だったら付き合ってるわ」と、ポツリと言った彼?
それとも、席替えで「やった またお前の隣だ」と喜んでくれた彼?
もしや、「お前 絶対笑った方がいいよ」と笑顔をほめてくれた彼?
すると神様は、1本の羽根をくれます。
「どの子かを決めたら この羽根で 肌をひとなで してごらん
真実が 現れるだろう」
男の子は、もう決めていました。「彼」に違いないと。
自分だけに秘密を打ち明けてくれる、仲良しの彼。
そうであって、ほしかった。
放課後、羽根で、そっと彼の腕をなでます。
でも、何も起こりません。
そして、羽根も神様も、消えてしまいました。
曲は、こう続きます。
「彼じゃないとしたら 誰だ?
探したけど それじゃ 意味がなかった
好きなのは 彼一人だけで
他の誰かじゃ だめだった
この恋は 秘めておきましょう
彼とは 友達のままでいるんだ
恋を抜きにしても 彼が好きだ
思わせぶりな人だけど
その目が その手が その言葉が
僕を振り回してるなんて
知りもしないでさ」
物語の終盤、卒業式の場面。
「俺まだ お前と一緒に いたいなー」。
最後まで彼は、思わせぶりなことを言います。もう男の子は、心の中で号泣です。
でも、ぐっとこらえ、「元気でね!」と、明るく別れを告げます。
この動画「確信」は、16年3月末に公開されました。既に9万回以上再生され、「泣ける」「切ない」という感想が寄せられています。
制作した「やる気あり美」のメンバーに話を聞きました。
代表の太田尚樹さん(27)と井上涼さん(33)。
二人とも、ゲイであることを公表しています。
太田さんは
「10代の頃の自分に何を言いたいか、メンバーとすごく話し合いましたね。僕は当時、ゲイの自分の恋は恥で、罪なことなんだと思ってた。そうじゃなくて、恋心は純粋で、きれいなものなんだよって言ってあげたかった」
と話します。
動画は、太田さんが全体を監修し、曲作りとアニメーションは井上さんが手がけました。
井上さんは、美術作品を歌とアニメで紹介するTV番組「びじゅチューン!」(NHK・Eテレ)などで活躍中のアーティストです。
ちなみに、動画「確信」の前半、「どいつもこいつも怪しい」という部分で挙げられている事例は、実話です。
ゲイの人たちにとって、ノンケ(異性愛者)の男性の思わせぶりな言動は、いろいろあるそうです。
「やる気あり美」のウェブサイトには、メンバーやその周囲で集めた「あるあるネタ」を6秒動画にして、
「思わせぶりなノンケ男性のひとことGIF劇場」として紹介しています。
動画「確信」は公開後、「LGBTじゃない人たちからも、『これは切ない』と言ってもらえた」と、太田さんは言います。
「主人公を自分に重ねて、泣いた」
「LGBTであってもなくても、恋する気持ちは同じだと気付いた」
といった共感の声がたくさん寄せられたそうです。
「やる気あり美」が大事にしているのは、「グッとくる体験」。
現在は、ウェブをメインに活動していて、サイトには、クスッと笑える記事や、「へえ!」と思わず言ってしまうLGBTの話を載せています。
太田さんは「人の認識を変えるには、『LGBTへの正しい理解を』と説くだけではダメだと思うんです。人が『この人たちを受け入れよう』って思うのって、笑いだったり共感だったり、感情が動くもの、グッとくる体験なんじゃないかと思います」と語ります。
「例えばマツコ・デラックスさんは世間に愛されてるけど、マツコさん以外にもいろんなLGBTがいる。いろんなLGBTが世間から受け入れられて、愛される存在になってほしい」。
そのために、「グッとくる」コンテンツを作っています。
メンバーのほとんどがゲイということもあり、ゲイにまつわる話を中心に出していますが、今後はレズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーと、もっと多様な性的少数派の人たちも紹介していきたいとのこと。
井上さんは6月、自身のライブで初めて「確信」を歌いました。
会場にいた約120人のお客さんも、一緒に歌ってくれたそうです。
Eテレの番組を手がけていることもあり、井上さんのファンには、子どももたくさんいます。
井上さんは「ちっちゃい子が大きな声で歌ってくれたのが、希望でした」と、うれしそうに話してくれました。
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