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「都知事選に、秀吉先生がいれば!」 大川総裁に聞く伝説の泡沫候補
選挙のひそかな楽しみのひとつ。それは泡沫候補です。面白い政策、面白いポスター、面白い政見放送は、ネットでも毎回話題になります。芸能事務所「大川興業」の大川豊総裁(54)は、泡沫候補を「インディーズ」と呼び、長年追いかけている、有名な「泡沫マニア」です。その見どころと、過去の伝説の候補者たちを語ってもらいました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
大川総裁が泡沫候補に注目しはじめたのは、約30年前。当時、東京の数寄屋橋で辻説法をしていた赤尾敏氏の演説を聴いたのがきっかけだそうです。中高年世代には有名な右翼活動家です。
「私は献血が好きなんですけど、献血車が止まってる横で必ず赤尾さんが演説をしてるもんだから、話を聞かざるを得なかったんですよ。でもよくよく聞いたら話が面白くて。だって『竹島をダイナマイトでぶっとばせ!』ですよ? 『韓国とこんなことでもめている場合じゃない!』って。右翼って『国土は命をかけて守れ』って言うものだと思ってたから、すごいなとびっくりして。たしかにあの時ダイナマイトでぶっとばしてたら、いま竹島問題は存在しないですからねえ」
大川総裁は、泡沫候補を「インディーズ候補」と呼び、選挙のたびに全国を巡り、多くの個性的なインディーズたちと会ってきました。インディーズたちのポスターや選挙公報など、レアなグッズもたくさん所蔵しています。
なかでも印象的だった人を挙げてもらいました。
「難しいですねえ。まずは山口節生さんですかね。最近は出てないですけど、一時期日本一選挙に出ていた人でした」
山口氏は、大川総裁が調べただけでも、1991年~2007年で24回の選挙に出ていました。2週連続で出ていたこともあります。
「ぱっと見では普通の候補者に見えるんですけど、選挙公報が面白い。たとえば『保守革新系既成政党無所属』って書いてある。要は全部じゃないか!」
山口氏の「伝説の演説会」の話もしてくれました。1998年の参院選挙。埼玉選挙区で立候補していた山口氏は、収容人員2500人の大宮ソニックシティ大ホールで大演説会を開きました。
客席は、大川総裁ひとり…。
「なんと6時間も続いたんですよ。午後3時から9時まで。『ソニックシティにお集まりのみなさん!』って言うけど僕ひとり。途中、『政治は市民が主役だ。今から市民の意見を聞きます』って言い出して、私も舞台に上がらされちゃった。私は本業のお笑いでいろんなライブをやってるけど、2500人のホールをふたり占めしたのは初めてでしたよ。最後の方はやけくそで『そーだ!』『そのとーり!』って合いの手を入れてました。そうしないと終わらないと思って(笑)」
泡沫候補界の有名人は、もちろん押さえています。
2015年4月に亡くなった羽柴誠三秀吉さんの場合は、自宅の「城」も訪問したそうです。
自宅敷地内にある「国会議事堂」や「ミサイル基地」で記念撮影したものを見せてもらいました。
「お亡くなりになって残念ですね。1999年の都知事選の時、秀吉さんは『2万人規模の老人介護施設をつくる!』って掲げてました。当時は突拍子もないことを言っていると笑われましたけど、今まさに施設に入れない高齢者が問題になってるじゃないですか。今回の都知事選挙に秀吉先生がいれば……!」
「2002年の長野県知事選挙は、『脱ダム宣言』が話題になっていた時で、むしろダムをつくって水をためてアルプスウォーターとして売ろうと言って、産業としてのダムを提案してました。実はけっこう現実的なことを言ってたんですよ」
泡沫候補と言っても、十人十色です。大川総裁が好きな候補者とは、どんな人でしょう。
「やっぱり本気で立候補してる人ですね。売名で立候補するのでも構わないんですけど、本気で出てる人は、本気で社会課題を考えて、本気で解決策を考えた結果を、供託金を払って訴えてるから、発想にオリジナリティーがあって面白いんですよ。本気の人は、一線越えしたものを感じます。芸人より面白いですね」
大川総裁にとって、「史上最強のインディーズ候補」は徳田虎雄氏。
かつて存在した政党「自由連合」を率いた人です。最近は、事件で名前が挙がったあの方です。
「自由連合は自由すぎる連合でしたね。さきほどの山口先生も秀吉先生も一時期入ってました。もうインディーズの宝庫。普通、インディーズ候補って単独で活動するんですけど、徳田さんはそれを政党でやった。病院経営で得られた豊富な資金力で家族も周りも巻き込みまくる。これこそ政治力です」
「2000年の衆院選挙は、126人を擁立して、当選したのは徳田さんだけ。供託金はなんと10億ですよ! スケールが大きすぎる。もう、芸人より面白い。僕は、テレビに出て有名になりたいとかいう気持ちはないんですよね。こういう人たちがライバルだと思ってます。面白い! くそう! って燃えるんですよね」
時々、ニートやひきこもり状態で立候補した人が話題になります。
大川総裁は普段、ニートやひきこもりの人たちの相談にのっていて、立候補をすすめることもあるそうです。
立候補を「究極の社会参加」と言います。
「彼らは社会に不満をもっている場合が多いので、政治に関心があるんですよ。私も彼らに『立候補しなさい』と言います。もんもんとして事件を起こすくらいなら、選挙を通じて堂々と訴えなさいと。本物の電波(テレビ)に乗せて電波を飛ばしなさいと。それで元気になるならものすごく健全じゃないですか」
泡沫候補を長年見続けてきて、変化はあるのでしょうか?
「メジャーなはずの国会議員がインディーズ化してますよね。先日の舛添さんの会見だって、中国服とかいろいろ面白すぎて、言ってることがインディーズの人たちみたいじゃないですか。米国大統領選のトランプ氏だって、最初は泡沫だと思われてましたよね。一方、国政選挙でメディアが泡沫候補扱いした候補者が10万票以上をとって驚かせた。かなりの票を取れるようになってきましたよね」
泡沫候補を追いかけていると、「なんでそんなに泡沫が好きなの?」とか言われることもあるのでしょうか。
大川総裁は、「うーん」と悩みこみました。
「僕、別に泡沫だけを見てるわけじゃないですよ? 普通に自民も民進も全部見てるんですけどね。選挙に出てる人は、誰であろうと話を聞こうと思って行ってます」
メディア各社は、選挙に立候補した人たちを、それぞれの基準で「主要候補」「泡沫候補」と線引きします。そして、泡沫と決めた候補者に対しては、経歴など基本的な情報は確認して掲載しますが、選挙活動の様子や主張の詳細を取材することは、ほぼありません。メディアは報じる候補者を選んでいるけれど、総裁は選んでいない。ただそれだけだったんですね。
大川総裁は、腑に落ちたという顔をしました。
「ああ、そうですね。結果、僕が泡沫の人たちの声を聞いてきた唯一の人間になったんでしょうね」
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