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銃の犠牲者追悼→帰りに銃撃戦→12歳死亡 アメリカの銃社会って…
米南東部のテネシー州ノックスビルで1カ月ほど前、12歳の少年が銃撃戦に巻き込まれ、頭を撃たれて死亡する事件が起きました。銃によって命を奪われた15歳のいとこを追悼するバスケットボールの試合を観戦した帰り道のことでした。AP通信や地元メディアが警察当局などの話として伝えています。米国では銃規制についての是非が常に議論になっていますが、子どもが命を落とすケースは今も頻発しています。今回のノックスビルの事件は、米国の「銃社会」を象徴するような出来事です。(朝日新聞国際報道部記者・西山明宏)
亡くなったのは、ジョジュアン・ヒューバート・レイサム君(12)。4月16日、バスケの試合を観戦した後、父親のヒューバートさんが駐車場にとめていた車の後部座席に座っていたところ、公園にいた複数の人と2台の車との間で始まった銃撃戦に巻き込まれてしまいました。
ジョジュアン君は頭に銃弾を受け、ヒューバートさんがすぐに病院に運んだものの、助からなかったといいます。
ジョジュアン君が観戦していたバスケの試合は、いとこのザビオン・ドブソン君(15)を追悼するために開かれていました。ザビオン君は昨年12月、ギャングによる銃撃事件から友達をかばおうとして、命を落としました。追悼と若者による銃犯罪を撲滅するためのイベントでもありました。
ザビオン君が亡くなったとき、銃規制を強めようとしているバラク・オバマ大統領は「ザビオン君は3人の友達を銃撃から助けようとして亡くなった。彼は15歳の英雄だ。行動しないことへの我々の言い訳は何だ」とツイートし、規制の必要性を訴えていました。
ジョジュアン君もザビオン君も、友人からとても慕われていたそうです。友人の一人は、ジョジュアン君がすごく優しくしてくれたと言って、「最高の友達だった。こんなことが起こるなんて。すごく悲しい」と地元テレビの取材に答えています。
父親のヒューバートさんは「良い子だった。笑顔を愛し、スポーツを愛していた」と悲しんだ。アメリカンフットボールの選手だったザビオン君は優れたプレーヤーだったそうで、コーチは「彼はサクセスストーリーを歩んでいた。仲間からも先生からも好かれていた」と振り返りました。
米国では銃の乱射事件が起きたときに銃規制への注目が集まることが多いですが、乱射事件以外でも命を落とす子どもは後を絶ちません。
今年3月には、カリフォルニア州ハイランドで12歳の少年がコンビニに行く途中、何者かに撃たれて死亡しました。昨年10月には、シカゴで6歳の兄が父親が隠していた銃を誤って撃ち、3歳の弟が亡くなるという悲惨な事件もありました。
米疾病管理センター(CDC)によると、2013年に銃で亡くなった人は1万1208人おり、うち14歳以下は193人いました。2日に1人の頻度で、14歳以下の子どもが銃によって亡くなっている計算になり、もはや「自衛のための道具」とは言えない状況にあると思います。
銃規制をめぐる議論も続いてきました。しかし、合衆国憲法で市民に武器を持つ権利が保障され、個人が銃を所持する権利が認められていることもあり、規制強化には根強い反対論があります。
12年にコネティカット州のサンディ・フック小学校で26人が犠牲になった事件をきっかけに、銃所持の規制を強める法案が提出されました。銃購入者への身元調査の強化や殺傷力の高い銃の製造・販売禁止などが柱の法案でしたが、議会で賛成票が集まりきらずに頓挫しました。
今年1月には、オバマ大統領が銃規制の強化策を発表しました。ホワイトハウスで演説し、銃で犠牲になる子どもたちに触れて、涙ながらに行動の必要性を訴えました。
その強化策は、大統領が命令を出して、今の法律の枠内で銃を売る業者に届け出をさせ、銃を買う人の犯罪歴の確認を徹底させる。取り締まる行政側の人数を増やすなど態勢も強化するものです。銃を持つ権利は尊重しつつ、悪用を減らそうという狙いです。
現在のオバマ大統領は銃規制の強化を訴えていますが、来年1月には次の大統領が就任します。今年11月の大統領選の結果は、今後の銃規制をめぐる動きに大きく影響しそうです。
大統領選では、共和・民主の2大政党それぞれの候補者指名争いの間での議論で、候補者たちの銃規制への姿勢ははっきり分かれています。民主党のクリントン元国務長官やサンダース上院議員は、基本的にはオバマ大統領の銃規制強化を支持しているとしています。クリントン氏は銃事件の被害者が参加する行事に同席するなど、遺族らに寄り添う姿勢をアピールしています。
一方、共和党では、先ごろ選挙戦からの撤退を表明したクルーズ上院議員は、自ら銃を撃つ動画をインターネット上に流すなど、規制に強く反対していました。
指名が確実となった不動産王のトランプ氏も、銃規制を強めることに反対しています。