話題
「夢の中の男」は実在するのか? 都市伝説バスターズが暴いた真相
都市伝説や超常現象の真相解明に取り組む民間団体「ASIOS」。新刊『「新」怪奇現象41の真相』(彩図社)から、彼らの調査結果を紹介します。
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都市伝説や超常現象の真相解明に取り組む民間団体「ASIOS」。新刊『「新」怪奇現象41の真相』(彩図社)から、彼らの調査結果を紹介します。
都市伝説・超常現象・オカルト……。そうした不思議な出来事の真相解明に取り組む民間団体があるのをご存じでしょうか。その名もASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)。最近刊行した『「新」怪奇現象41の真相』(彩図社)では、数々の「伝説」の調査結果をまとめました。ASIOSの目的とは何か、代表に聞きました。
彼らの書籍では、一般に信じられている「伝説」を記述したうえで、検証の結果判明した「真相」を報告するスタイルをとっています。
まずは、『「新」怪奇現象41の真相』で明らかにされた三つの「伝説」について、書籍のやり方にならい、各事象の「伝説」と「真相」の2パートに分けてお伝えします。調査結果は同書を要約したものです。
【伝説】
ニューヨークのさる高名な精神科医のもとに、「夢のなかに見知らぬ男が現れる」という女性患者が訪れ、似顔絵を描いてみせた。しばらくしてやってきた別の男性患者も、同じ男が夢に出てくると主張。やがて、この夢のなかの男は「THIS MAN」と呼ばれるようになり、世界各国で2千を超える目撃証言が続出した。
「プライベートのアドバイスをしてくれた」「サンタクロースの格好をしていた」「鏡を見ていたら、メガネを掛けたTHIS MANが見つめてきた」など、夢の内容は千差万別。THIS MANの出現理由や彼が何者なのかは、いまだに判明していない。
【真相】
THIS MANの由来はすべて創作で、相談を受けたという精神科医も存在しない。この話の仕掛け人は、イタリアの広告会社「KOOK」の社長、アンドレア・ナテッラ氏。ネット上の口コミを利用してウイルスのように爆発的に情報拡散する、「バイラル・マーケティング」という販売促進の方法を得意としている。
THIS MANは、こうした手法の効果を実証するためのプロジェクトだったのだ。実際、THIS MANの公式サイトのアクセスは20億を超えるなど、大成功を収めた。ちなみに「KOOK」という社名は、英語で「変人」を意味する。
《解説》 映画をヒットさせるためにうわさを拡散させるなど、バイラル・マーケティングの手法は浸透してきています。THIS MANは「悪だくみでだましてやろう」という話ではないですし、イタズラ好きのナテッラ氏が楽しんでやっている感じがしていいですね。日本語の情報だけでは不十分なため、調査にあたってイタリア語の堪能な友人に翻訳を頼みました。ASIOSでは、情報の裏付けをきちんと取ることにこだわっています。(ASIOS代表・本城達也さん)
【伝説】
2009年7月、メキシコのチチェン・イッツァ遺跡にあるマヤ文明のピラミッドで、観光客のエクトール・シリエサル氏が不思議な光景を撮影した。それはまるで、ピラミッドから上空へと「光の柱」が伸びているかのような写真だった。
ピラミッドはマヤの最高神ククルカンをまつったもので、「カスティーヨ」と呼ばれる。遺跡周辺はパワースポットであり、マヤの民はその力を活用するためにピラミッドを建設したのだろう。この写真は、ピラミッドにエネルギーがみなぎっていることを示す「奇跡の1枚」なのだ。光の柱は高波動のエネルギーのため、肉眼でとらえられなかったのも無理はない。
【真相】
写真は捏造ではないが、パワースポットのエネルギーをとらえたものでもない。光の柱は、撮影したiPhoneのカメラに起因するものだ。iPhoneに搭載されたCMOSイメージセンサーは、レンズから取り込んだ光を電気信号へと変換する。CMOSでは、一度に全体を撮影するのではなく、画素の列ごとに順番に撮影していく。このため、右から左へと撮って行く場合、列ごとに一瞬のタイムラグが生じてしまう。
今回のケースでは、シャッターを押して撮影をしているさなか、雷によって空が明るくなった。結果、1枚の写真に「雷が光る前」「光った瞬間」「消えた後」の三つの空が列に沿って記録された。「光った瞬間」が偶然にもピラミッド中心部の上空と重なったために、あたかも光の柱のように見えたというわけだ。
《解説》 雷で背景の空は明るくなるものの、手前のピラミッドは影響を受けないために、こういう神秘的な写真になりました。「心霊写真」「映画に写り込んだ幽霊」など、技術やメディアの進歩に伴って、オカルト的な現象も絶えずその見え方を変えてきました。この「光の柱」ではiPhoneがカギになっています。いかにも現代的な話ですよね。(本城達也さん)
【伝説】
東日本大震災の直前の2011年3月4日、茨城県鹿嶋市の海岸に52頭ものイルカが打ち上げられた。「1995年の阪神大震災や2011年のニュージーランド南部地震でも、直前に多数のイルカが座礁した」という趣旨の雑誌記事が発表されている。イルカたちは、人間には検知し得ない大地震の前兆を感じ取っているのだろうか。
【真相】
多数のイルカが海岸に打ち上げられる現象は「マスストランディング」と呼ばれる。潜水艦のソナーや寄生虫、海岸の地形など、その原因には諸説ある。茨城県内のマスストランディングのデータベースを調べたところ、数日以内に大地震が起きたのは2011年3月4日のケースだけで、ほとんどは大地震と無関係だった。
阪神淡路大震災については、データベース上で該当する記録を確認できなかった。また、ニュージーランドのケースも座礁した場所と震源地が500キロ以上も離れており、関係性は薄いとみられる。たまたま大地震の前に起きたマスストランディングだけが注目を集め、「地震の前触れ」と解釈されているのが実情だ。
《解説》 大量座礁自体は事実なので、思わず信じてしまいそうな事例です。しかし、実際にはマスストランディングは定期的に起きている。たとえば予言でも、普段から「大地震が起きる」と言い続けていれば、いつか必ず当たりますよね。そういう時は的中率を調べないといけません。
「イルカが打ち上げられた」時に「大地震があった」「大地震がなかった」場合と、「イルカが打ち上げられなかった」時に「大地震があった」「大地震がなかった」場合とを、4分割表にして集計したみたことがあります。
結果、「打ち上げられた」×「大地震があった」は1例のみで、マスストランディングと大地震との因果関係は確認できませんでした。大量座礁の有無に限らず、日頃から大地震に備えておくことが大切なのではないでしょうか。(本城達也さん)
世のオカルトや都市伝説を解体するASIOS。彼らは一体、何者なのでしょうか。最後に、代表の本城さんに聞きました。
――ASIOSって謎めいた雰囲気がありますが、どんな人たちが集まっているんですか。
作家、学者、プログラマー、翻訳家、メディア関係者など、様々な立場の方が参加しています。現在の会員は17人。共通しているのは、皆さん超常現象とその真相に強い興味があり、手間暇をかけた調査もいとわないということ。実名の方もいれば、本業に差し障らないようペンネームを使っている方もいますね。本をつくるにしても1人だと限界があるので、メンバーで分担しながら共著という形で執筆しています。
――元々ビリーバー(超常現象の信奉者)だった方もいるそうですね。
いますね。私もそうでした。実は『ムー』(UFOや超常現象を扱った雑誌)と同じ1979年生まれなんです。今でもたまに買っていますし、なんとなく親近感もあります(笑)。子どもの頃から「オーパーツ」(その時代にはあり得ない遺物)や「古代核戦争説」なんかの話に興味を持っていました。
ところが、すごいなあと思った話も自分で調べ始めると、段々怪しいとわかってくる。20歳の頃までには、今のように懐疑的な考え方を持つに至りました。海外には超常現象について調査・検証する団体があったので、日本でもつくりたいと考え、2007年にASIOSを立ち上げたんです。
――ASIOSで大事にしていることは。
最初から決めつけないことですね。あくまでも「わからないから調べる」というスタンスで取り組んでいます。次々に新しい謎が生まれていますから、調査対象が尽きることはありません。
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