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貴闘力「ギャンブルやってなきゃ横綱なれた」賭博の怖さ赤裸々に語る
野球賭博に関わったとして相撲協会を解雇された元関脇の貴闘力さん。元巨人軍の選手らに「いつでも相談に乗るよ」とエールを送りました。
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野球賭博に関わったとして相撲協会を解雇された元関脇の貴闘力さん。元巨人軍の選手らに「いつでも相談に乗るよ」とエールを送りました。
野球賭博に関わったとして相撲協会を解雇された、元関脇の貴闘力さん(48)が28日、ギャンブル依存症のシンポジウムで自身のギャンブル体験を初めて語りました。「ギャンブルをやってなければ横綱になれた」などユーモアも交えて話す一方、「一番大好きな相撲をできなくなった」と後悔の弁も。同じ野球賭博で野球界を離れることになった元巨人軍の選手らには「いつでも相談に乗るよ」とエールを送りました。
若貴兄弟と同じ部屋だった貴闘力さんは、気迫あふれる取り口で、優勝1回、三賞14回と人気と実力を兼ね備えた力士でした。2002年に引退後は大嶽親方として弟子の指導にあたっていましたが、10年に野球賭博にかかわったとして相撲協会を解雇。今は都内で焼き肉店などを開いています。
貴闘力さんが参加したのはギャンブル依存症問題を考える会(田中紀子代表)が開いた「ギャンブル依存症対策推進フォーラム」というシンポジウム。田中さんに「依存症に苦しんだ体験を話してほしい」と頼まれ、講演することにしたそうです。
「子どものころはギャンブルなんて大嫌いだった」。貴闘力さんは冒頭、そう語りました。父親が大のギャンブル好きで、「借金取りが家まで押し寄せ、小学校を6~7回転校した」。そんな生活に嫌気がさし、中学卒業後の1983年、藤島部屋の門をたたきます。
貴闘力さんによると、当時の力士の中にはギャンブル好きもいて、競馬や麻雀に誘われるようになります。最初は断っていた貴闘力さんも、「少しならいいか」と徐々にギャンブルの道へ。すぐにはまり、稽古が午前中に終わると、午後は競馬場やボートレースに通い、夜は麻雀という生活が当たり前になったそうです。
1989年に十両昇進を決めると、化粧まわし代などのために必要な400万円を用意するために、10万円を手に競馬場へ行き、400万円に増やしたこともあったとか。
ギャンブルに負けて無一文になると稽古する時間が増える。「そんな場所は決まって成績がよくて番付も上がった」と笑わせます。25歳で大鵬親方の娘と結婚してからも、ギャンブルをやめられず、「大鵬親方に借金の肩代わりをしてもらったことも一度ではない」と告白します。
34歳で引退し、親方になってからもギャンブルはなかなかとまりません。大鵬親方にうそをついて、ギャンブルに通い続けました。そしてついには野球賭博に手をそめてしまいます。10年に表沙汰になり、相撲協会を解雇されます。
貴闘力さんはその後、知り合いのすすめで焼き肉店を開きます。現役時代のファンらが大勢訪れ、店は人気店に。一時期はギャンブルをやめて必死に働きましたが、1年もしないうちに売り上げの一部を持ち出して、ギャンブルに通うようになります。
店は順調に売り上げを伸ばしていましたが、2013年末に税金を滞納し、社員に給料を支払えなくなってしまいました。「自分を慕ってくれる社員の給料を支払えない。申し訳なさと情けなさでいっぱいになった」。それ以降、ギャンブルをやらなくなったと言います。ギャンブル依存症者が自分の犯したことの大きさに気づく「底つき体験」と言います。
ギャンブル依存症者を救うにはどうしたらいいか。貴闘力さんは「家族や周囲の人が心を鬼にして、お金を貸さないこと」と断言しました。自身も「最後は大鵬親方が何とかしてくれるという甘えがあった」と振り返りました。
貴闘力さんは講演の後、シンポジウムを主催した田中さんや、依存症者の診察を行う専門家らと語り合いました。登壇したのは、筑波大准教授の森田展彰氏、北里大ギャンブル依存症専門外来講師の蒲生裕司氏、成瀬メンタルクリニックの佐藤拓氏。
佐藤氏は、ギャンブル依存症者は、ギャンブルをしているときに大量のドーパミンが放出される。ギャンブル以外では満足できなくなるという依存症の仕組みについて説明しました。
蒲生氏は「ギャンブルはたまにあたる。たまにあたる行動はやめられない。意思が弱いとかは関係ない。脳のバランスが崩れてしまう」と語りました。
森田氏は「ギャンブル依存症の治療法はある程度確立されている」と言います。その一つが、依存症者同士が集まって体験を語り合う自助グループです。全国に約150団体あります。そこで同じような境遇の人たちと一緒に過ごすことで、自尊心を少しずつ取り戻し、自身の体験を客観的に振り返ることができます。
今年、巨人軍の野球選手が野球賭博をして、解雇処分になりました。田中さんは「やめたくてもやめられなかった彼らもギャンブル依存症の可能性がある。球団は彼らを追い出すだけではなく、治療につなげてほしい」と注文をつけました。
貴闘力さんは「彼らは大事なものを失ったという後悔でいっぱいだと思う」と指摘。「困ったことがあればいつでもうちの店に来てほしい。相談に乗るよ。相談料は焼き肉代だけでいいから」とエールを送りました。
ギャンブル依存症は薬物やアルコールのように健康に異変が起こりにくいため、依存症者の多くが病気と認めようとしません。治療現場では「否認の病気」と言われています。貴闘力さんもギャンブルで使った金額は「約5億円」に上ると言い、今でも「ギャンブルをやりたくでソワソワする」。そういう状況にもかかわらず、「俺はギャンブル依存症じゃない。精神力で何とかなる」と言い切りました。
貴闘力さんの現在の心境からも、ギャンブル依存症の怖さが垣間見えます。都道府県の精神保健福祉センターをはじめ、専門の相談窓口があります。悩んでいる人は、まず、相談先に連絡してみることが重要です。
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