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敷金トラブル年1万件、ダントツは壁! 120年ぶり法改正の効果は
敷金について、国民生活センターに寄せられる相談は年1万件超。納得できない時は、どうすればいいのでしょうか。
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敷金について、国民生活センターに寄せられる相談は年1万件超。納得できない時は、どうすればいいのでしょうか。
引っ越しシーズン到来です。賃貸住宅を退去するとき、敷金はどれだけ戻ってくるのか気になります。国民生活センターに寄せられる相談は年1万件超。費用請求された項目からは、気を付けるべきポイントが見えてきます。今国会には120年ぶりに民法改正案が提出され、敷金負担の線引きが明確に。納得いかない場合は「少額訴訟」という手もあります。
同センターへの相談を分析した資料によると、1位はダントツで壁のクロス。相談した人の72%が請求されています。
国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、大家と住人の修繕分担が示されており、画びょう・ピンの跡は大家の負担です。クギ穴・ネジ穴・落書きは住人負担です。
テレビや冷蔵庫の裏にできる電気ヤケ▽エアコン設置によるビス穴や跡は、生活必需品を使ってできた汚れ=「通常の使用」範囲に入るとして大家負担になります。
基本的な考え方は「普通に暮らしていた場合の劣化は大家の負担」です。
壁にポスターを貼った跡(変色)は大家負担。落ちないたばこのヤニ▽結露を放置したことによるカビ・シミは住人の負担です。
ただし、住人が補修費を負担するのは破損した一面(㎡単位)のみ。色合わせのために部屋全体のクロスを張り替える場合、ほかの部分は大家の負担になります。
2位はハウスクリーニング代。相談者の60%が請求されています。
「ガイドライン」では、通常の清掃をして明け渡せば払う必要はないとされています。ところが、東京の賃貸物件では「退去時のハウスクリーニング代は入居者の負担」という特約がつけられていることが多いといいます。契約時にサインしてしまっている場合、負担しなくてはいけないのでしょうか。
国民生活センターは「とりあえず大家に掛け合ってみることが大事」と言います。裁判では、特約を無効とした判例と有効と認めた判例があるためです。
特約を無効とした判例では「通常の損耗・経年変化分についてまで、賃借人に求めた特約を認めることはできない」としています。特約を認めた判例でも「契約書に明記されているか、口頭による説明で入居者がその旨を認識し、合意していることが必要」としています。
3位は畳。焦げ跡は住人負担。畳交換は大家の負担です。
4位はふすま・障子。ふすま紙や引き手の破損は住人負担、日照などによる変色は大家負担です。
5位はカーペットなどの床材。フローリングの引っかきキズ、カーペットに飲み物などをこぼしたことによるシミ・カビは住人の負担です。
このほか、住人が負担しなくてはいけないのは、ペットによる柱のキズや臭い▽風呂・トイレなど手入れを行った場合の水垢やカビなどです。
一方、大家負担はカギ交換▽家具設置による跡やへこみ▽網戸張り替えなどです。
請求に納得できない場合、国民生活センターは「ガイドラインなどを提示し、大家と交渉してみましょう」と話します。それでも解決できない場合は、主に二つの手段があります。
①内容証明郵便で返還請求→少額訴訟
②ADR(裁判外紛争解決手続き)=専門知識を持つ第三者が中立の立場で当事者の間に入りトラブルの解決を図る仕組み
①は、自力でする人もいます。内容証明郵便で送る文書の例文は、東京都中央区のHPなどネット上でたくさん公開されています。敷金返還請求の訴状の書式は裁判所ウェブサイトからダウンロードできます。
②は、例えば行政書士ADRセンター東京が調停手続を行っています。敷金返還や原状回復のトラブルの多い3月と4月は「1DAY調停」を実施しており、合意書押印まで1日で進める調停手続きです。
実は、これまで敷金の定義やルールはあいまいなものでした。今国会に120年ぶりに民法改正案が提出され、「借り主が敷金で負担するのは自らが壊した箇所の修復費用だけで、年月の経過による劣化は貸主が修復の責任を負う」と明記される予定です。理不尽な請求に対抗する後ろ盾になるかもしれません。