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お金と仕事

東洋経済、月間1億PVの秘密 「ヒットの法則はデータが語る」・上

東洋経済オンラインの編集長に就任し、半年でPVを倍増させた山田俊浩氏。ニューズピックスへ移籍した佐々木紀彦氏の後任だが、いったいどんな「魔法」を使ったのか。3回インタビューの1本目。

東洋経済オンラインの山田俊浩編集長=東京・日本橋本石町の東洋経済新報社で、古田大輔撮影
東洋経済オンラインの山田俊浩編集長=東京・日本橋本石町の東洋経済新報社で、古田大輔撮影
 「東洋経済オンライン」が異例の成長を続けている。昨年7月に就任した山田俊浩編集長(43)がわずか半年でページビュー(PV)を倍増させ、月間1億PVの大台も間近だ。昨夏、経済誌系サイトとしてトップクラスに育てた佐々木紀彦編集長(35)が新興メディア「ニューズピックス」に電撃移籍し、その後を懸念する見方もあったが、予想を覆した。
 紙媒体から出発したネットメディアの多くが収益に伸び悩む中、どう成長を続けているのか。山田編集長へのインタビューを3回にわけて詳報する。
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昨年12月までの東洋経済オンラインのPVとUU(サイト訪問者数)の推移
昨年12月までの東洋経済オンラインのPVとUU(サイト訪問者数)の推移 出典: 東洋経済オンライン編集部

体制は変えず、手法を変えた

 ――昨年5月、東洋経済オンラインの当時の編集長だった佐々木紀彦さんにインタビューしました。その時は「PVは月間5千万が現体制での限界だ」と。それが山田編集長になって半年で倍増し、1億PVに届こうとしています。編集部の人員増など、なにか体制を変えたのでしょうか。

 「オンライン編集部員の数は、当時も今も8人で変わりません。ちなみに当時の8人のうち、佐々木君を含め3人がニューズピックスで活躍中です(笑)。佐々木君についていったので」

 ――人員を増やさないのにPV倍増は驚きです。外部ライターが増えたんでしょうか。

 「記事の本数は多くても1日15本。少ないと10本もない。そのうち、外部筆者が書く記事が3分の2というのも、従来から変わっていません」

東洋経済オンライン編集部。8人体制は変わらず、このスペースだけで月間1億PVに迫る=古田大輔撮影
東洋経済オンライン編集部。8人体制は変わらず、このスペースだけで月間1億PVに迫る=古田大輔撮影

 ――データを見ると、UU(ユニークユーザー=サイトの訪問者)1人あたり、8ページを読んでいます。この数字は佐々木さん時代と変わっていません。つまり、PVが倍増した理由は、サイトに来るお客さんが倍増したためです。なぜそうできたのでしょうか。

 「週刊東洋経済でヒットを出してきた記者たちが、僕もその1人ですが、今はオンラインに力を入れています。コンテンツ力が上がるのは当然です。経営陣は、佐々木君たちが抜けてPVが一気に下がると困るから、これなら大丈夫だという人間を入れた。人選は全部僕がしました」

 「東洋経済では、オンライン編集部とは別に、ニュース編集部というところにも記者が4人います。日々のニュースを週刊東洋経済とオンラインの両方に出す部署です。僕はオンラインに移るまで、そこのトップでした。当時もオンラインのニュースでバズったものは、そこで作ったものが多かった。もともとぼくの部下だったので、オンラインに移ってからも積極的に頑張ってくれています」

 「残念ながら、佐々木君の時代には、PVを取れない記事もありました。悪口を言う気はないですが、彼らは好きなものを書いていましたから。メディア論やベンチャー論。そういうのはあまりPVがとれない。そうではなく、企業で今何が起きているのかをタイムリーに追って、経済ニュースを読みたい人たちに届けると爆発的に読まれる。『ユニクロ 疲弊する職場』とか『ソニー 追い出し部屋の実態』とか。佐々木君時代にPVが最大5100万に届いたときは、そういうヒット作が集中したんです。そうした記事は佐々木君のオンライン編集部ではなくて、週刊東洋経済編集部がつくったものでした」

 ――佐々木さんは外部配信を積極的に進め、ちょうど伸びてきたスマートフォンのニュースアプリともがっちり組んだ。そうしたルートが開拓されたところに、山田さんたちが適切なコンテンツを投入し、花開いた、こういうことでしょうか。

 「そうですね」

東洋経済オンラインからニューズピックスへ移籍した佐々木紀彦氏=昨年4月、古田大輔撮影
東洋経済オンラインからニューズピックスへ移籍した佐々木紀彦氏=昨年4月、古田大輔撮影 出典:(朝日新聞デジタル)「記者独立の時代、5年で来る」 佐々木紀彦編集長に聞く

ヒットを生む鉄板の法則

 ――ヒット記事を次々と生み出す「鉄板の法則」があるんでしょうか。

 「過去のヒット記事のデータを見ればわかります。例えば、『iPhone』の記事は見出しに『iPhone』とついただけで伸びる。ところが、『アップル』だと駄目なんです。編集部から記者に発注するときには、そういった見出しのつけ方や、文章構成についても細かく口を出します。『iPad』の記事はデータから見て全然読まれないので、なんとか『iPhone』から書き出してもらう。『iPhoneが現在売れているけれど、一方でiPadは』とか。他にも、『タリーズ』はダメだけど『スタバ』はいいとか、『マクドナルド』はいいけれど、他のハンバーガーチェーンは駄目とか、法則があります。なので、新興ハンバーガーチェーンについて書きたいときは、『マクドナルドが凋落する中で伸びてきた第三勢力』と工夫すると読まれます」

 「食べ物系でも稼いでます。ラーメンとか寿司とか。これもいろいろ挑戦してわかってきたことがあります。高級食材は全然ダメで、千円以内の安い話題のほうが読まれる。『なぜ290円から300円に値上げするのか』とか、そういうものが爆発的に読まれる。夜よりもランチです。それに裏側シリーズ。『外食の裏側』、『食品の裏側』。これは書籍でヒットしているものをオンラインで展開してみました。ちょうど値上げとか値下げとか、牛丼とか動きがあったので、そうしたものをタイムリーに報じてきました」

 「事前にデータ分析しているので、新製品の発表会などでは、どういう風に書くといいかがわかる。だから、社内の記者でも社外の記者でも、事前に『こういうところに気をつけて』と指示して書いてもらう。そうすると本当にヒットするから、書いた記者も嬉しい」

 「これまでに一番読まれたのは『某100円回転寿司の裏側』。今でも読まれているので、PVはどんどん増えて760万。他にはランキングものがよく読まれています。『40歳年収が高い会社』や『金持ち企業』などの記事は300万~500万PVになっています」

大ヒットした記事「ヤバすぎる『某100円回転寿司』の裏側」
大ヒットした記事「ヤバすぎる『某100円回転寿司』の裏側」 出典:東洋経済オンライン

 ――IT分野の記事も増えていますね。

 「僕はITが好きで長く取材してきました。で、ITはやっぱりネットと親和性が高いんです。東洋経済オンラインの書き込みを見ても、IT好きのエンジニア系の人たちがよく見てくれている。ネットメディアでITの記事に弱い、というのはブランディング的に成り立ちません。iPhone6の発売のときは1日2本でも3本でも徹底的に載せました。付き合いの長い、間違ったことを書かない人に速報をお願いしています。ITに強い東洋経済オンライン、というブランディングになっています」

 ――想定するターゲットは、従来と変わらず若手ビジネスパースンでしょうか。

 「そうです。ただ、若手というのは30代とか年齢ではなく、現場で活躍している人という意味です。読者のほとんどは、50代でも10代でも年齢を問わずビジネスパーソン。朝7~8時に見ているのは、この時間に通勤している人です」

山田編集長の2000年の著書「稀代の勝負師 孫正義の将来」
山田編集長の2000年の著書「稀代の勝負師 孫正義の将来」 出典:Amazon.co.jp

「5千万PVの壁」を超えるのに必要だった選択と集中

 ――データ分析は山田さんが1人でやっているんですか。

 「僕ともう一人、データ分析が大好きな武政というのがいるので、2人でやっています。佐々木君の体制では、データを意識して、『これはヒットするから書け』ということをあまり言っていなかった。だから、いろんなものを出しているけれど、外れるものも多かった。受け身で、数をつくることを優先していました。当初、オンラインが全く駄目だったところからPVを増やすときには、なんでもいいからとにかく記事の数を増やそうという時期があります。だけど、ある段階で選択と集中をしないといけなかった」

 ――それが「5千万PVの壁」だったということですか。

 「当時の5千万というのはややバブルで、2、3個のヒットでかさ上げされていました。今はそういう爆発的なヒットというよりも、1本1本のPVが上がっている。以前は2千~3千PVの記事が大量にあったけれど、いまは全部1万は超えます。絶対1万いくと思って記事を出すので、いかなかったら原因を考えます。社名の出し方がよくなったとか、編集部でそういうのを話すのが好きなんです。『次に同じテーマの記事を書くときは変えよう』と。それで改善されたら、みんなで『やったー!』と。その積み重ねです」

 ――データ分析がきちんとできていそうなメディアはありますか。

 「ハフィントンポストはちゃんとわかっています。ちょっと狙いすぎで、中身が伴わなくて読者が怒りそうな記事もあるから反面教師でもあります。見出しで煽っておいて中身が短かったり、単なるまとめだったりすると、そういうメディアだと思われてしまうので、気をつけています」

中身がないとロイヤリティが下がる

 ――とはいえ、去年12月の「LINE、森川社長が降板を決めた事情」という記事は、やまもといちろうさんがブログで「見出しと裏腹に何も書かれていない」と批判していました。
 
 「ああいう中身がないものを書くとロイヤリティが下がる。読んだお客さんが離れていく。1本だけ見られても、その後が続かないヒットはダメ。そういうのは減らしていきたい。まずかったと思います」

「LINE、森川社長が降板を決めた事情」
「LINE、森川社長が降板を決めた事情」 出典:東洋経済オンライン

 ――見出しは全部山田さんがチェックしているんですか。
 
 「全部直すようにしていますが、手がまわらない時もあります。LINEの記事でいうと、たしか、僕が午前2時か3時に寝たあとに、編集者が配信を予約した後にメールで連絡してきた。朝起きたときにはもう公開されていました。いまは午後9時以降に入稿する際は、どういうタイトルをつけるつもりか、事前に知らせてもらっています」

 「現状は1日の記事数が少ないから、すべてチェックできる。増やそうとも考えたんですが、やめました。知り合いの企業経営者に聞いたら『東洋経済オンラインは読みたい記事があっても、数が多くて全部見られない。良いものを選んで載せた方が良い』という人が多かった。クオリティ優先で、数をしぼることにしています」

 ――オリジナル記事以外に、週刊東洋経済からの転載はどれだけあるんでしょうか。

 「(定期的なものは)1週間で計3本です。転載しているのは、ブックレビューを1本。海外系の記事を2本。これはオリジナルの記事が少ない土日に使います。ニュース編集部がやっているものは、最初から両方に掲載することになっているので、雑誌に載せた1週間後に転載しています。巻頭にあるヘッドライン風のちょっと長いものを3本ぐらい。それも含めると計6本になります」

 「それら以外で、同じものがそのまま載るとか、書いておけばどっちかに載るというのはなくなっています。例えば、雑誌の方には分析記事、オンラインの方にはインタビューをそのまま載せる、という風に書き分けています」

 ――コラム風の記事も減らしたそうですね。生ニュースが増えました。

 「それが(ニュースアプリの)スマートニュースのトップにいくので大きいですね。記者は何かあれば現場に行ってます。新経済連盟で何かあったと言えば、3人も4人も行って取材している。生ニュースは強みです。これまでは、取材はしているのに、オンラインには書いていませんでした」

SmartNewsにも東洋経済オンラインのチャンネルがある
SmartNewsにも東洋経済オンラインのチャンネルがある

 ――でも、週刊東洋経済の記者がいま何を取材しているか、なかなか把握できませんよね。

 「向こうから『書きたい』と言ってくるようになっています。個人ごとに。やらない人はやらない。やる人には『頑張ってください』と」

 ――ヒットする記事は社内の記者が書く方が多いですか。

 「いや、社内の記者の記事は、PV全体の中ではまだ少ないです。社内の人は、自分の持ち場の中で相対的に面白いものを書いてくることが多い。社外の人はこれを書けばヒットする、という狙いのものをフレキシブルに書いてもらうので、ヒットが多いです」

紙での経験がものを言う

 ――週刊東洋経済の記者からも協力を得られるのは、山田さんもそこで活躍してきた経歴が大きいのでは。

 「そうだと思います。佐々木君は社内の人付き合いの経験が少なかったので、遠慮がありました。『何々を書いて』とは言っていなかった。性格もあると思います。彼は人に発注をするのが嫌いで、全部自分でやるほう。雑誌時代もそうで、人が書いてきたものを載せるより『自分がやりたい』でした」

 ――2人を直接知る人から「編集者を自認する佐々木さんは実は記者タイプで、記者が長い山田さんが実は編集者タイプ」という人物評を聞きました。

 「編集者というものが、人付き合いをしながらやっていくという意味であれば、彼は記者ですね。彼の素晴らしいところでもあるんですが、編集で何か企画をつくるとなると全部1人でやっていました。彼がヒットさせた特集は『全部自分でやりたい』と言うんです。『本当にやれんのか』と聞くと、『やります』。言い訳はせず、本当に20ページでも作っちゃう。自分で取材もして、まとめるものはまとめて。そのやり方は記者でしたね」

 ――山田さんの手法は違いますか。

 「『あいつがやれるな』というものがあれば、頼むようにしています。5人とか6人とかの共同作品として特集をつくる。そういう手法をできる人と、できない人がいます。『頼むぐらいなら自分でやった方が早い』と思ってしまう人は、自分でやってしまう」

 ――引き継いだときは、これほど伸びると思っていましたか。

 「編集長になったとき、経営陣は『月間3500万~5000万PVがビジネスメディアの限界だ』と言うんです。それまで、そう説明を受けていたんですね。でも、そんなことはない。ヤフーは100億PVを超えているわけですから、5000万が限界というのはあり得ない。やるべきことを全部やれているかというと、やれていなかった。だから1個ずつ、やるべきことをやりました」

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