お金と仕事
メディアはどう生き残り、どう成長するのか 新旧の企業幹部が語る
メディアはどう生き残り、どう成長するのか。新聞やテレビ、雑誌、ニュースアプリなど「新旧」のメディア企業幹部が集まり、激変する業界の動向を語りました。東洋経済新報社の主催イベントからリポートします。
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メディアはどう生き残り、どう成長するのか。新聞やテレビ、雑誌、ニュースアプリなど「新旧」のメディア企業幹部が集まり、激変する業界の動向を語りました。東洋経済新報社の主催イベントからリポートします。
メディアの未来をうらなうトークイベント「大変革期に未来を語る!いま、メディアが面白い」(主催・東洋経済新報社)が8日、東京都港区の虎ノ門ヒルズで開かれた。300人超の聴衆を前に、「新旧」のメディア企業幹部が業界の動向と今後を語った。第一部のパネルセッション「勃興!ニュースメディア第二世代のゆくえ」の様子をリポートする。
(朝日新聞デジタル編集部 古田大輔、福山崇)
スピーカーとして登壇したのは、藤村厚夫・スマートニュース執行役員、高橋浩祐・ザ・ハフィントンポスト日本版編集長、福島良典・グノシー代表取締役最高経営責任者(CEO)、土井達士・産経ニュースプロデュース担当。澤康臣・共同通信特別報道室記者が司会を務めた。
司会の澤氏からは冒頭、「スマートニュースとグノシー、どっちが勝つのか?」という挑発的な質問がなされた。
グノシーの福島CEOは「どっちが勝つかとよく言われる」と苦笑した上で「スマートニュース対グノシー」という構図を否定した。「いま、僕ら2社を足しても(アプリのダウンロード数は)1千万人くらいだが、これからニュースアプリを使う人は6000万人になる。海外はその10倍。そこを“裏で組んででも”どう盛り上げていけるか、だと思う。本当のライバルはメッセンジャーやゲームとか(ニュースアプリと)時間を奪い合うもの。ニュースがおもしろいと伝えていきたい。いい意味での競争です」
スマートニュースの藤村氏も「同じことを考えているかと思いますけど、誰がどう組むとかというより、全部仲間。メディアの未来をどうするか、という思いは共通だと思う」と応じた。
続けて福島氏は、両者の住み分け、差別化について問われ、「この業界、差別化ってじつは見えにくい。例えば検索エンジンのグーグルとマイクロソフトとヤフーは何が違うのか。ほとんどインターフェースは同じに見える。でも、それなりに共存し、しかも差がでている。説得力のある答えはないが、どういう記事を選んで、どう届けるか、どれくらい使いやすいアプリにするか。スマートニュースはすごく考えられてると思うので、2社が競争することでニュース業界は面白くなる」とした。
一方、福島氏はバイラルメディアについて、「著作権問題は侵しちゃダメだが、個人的には意味があると思っている」と語った。バイラルメディアが成長してきた背景には、多くの人が検索エンジン経由ではなく、フェースブックやツイッターなどソーシャルでニュースを読むようになり、さらにはモバイルが普及した「構造変化」があると指摘。米バズフィードを例に挙げ、こうした新興媒体が「記事が当たる再現性」「人間の時間をひきつける方法」を既存メディアよりも徹底して研究しており、今後も伸びるだろうと予測した。
議論のテーマの一つとなったのが「どう食っていくか」(澤氏)。マネタイズの手法だった。
高橋氏は自身も参加したという世界11カ国のハフィントンポスト編集長たちの会議での議論を紹介。「どの国もモバイルの動画を気にしていた」と述べた。ニュースをスマホの小さな画面で読む人が増え、広告単価がパソコンよりも下がっている。その中で広告効果が高い手法としてモバイル動画が期待され、スマホからの流入が他国と比較しても特に多い韓国や日本の取り組みに対する関心が高まっているとした。ハフィントンポスト韓国版ではスマホからの流入がすでに8割を超えているという。
藤村氏は、そもそも広告単価が低いから1画面で大量の広告を見せる必要が生まれ、ユーザーの満足度を下げる悪循環に陥っていると指摘。会場のメディア関係者に「われわれみんなで悪いスパイラルをたたないといけない」と呼びかけた。スマートニュースは年内にネイティブ広告を導入する計画を明らかにしており、「ユーザーが読みたい、その世界観にひたりたいと思うものを提示したい」と自信を見せた。福島氏も「1PV=0.01円ではなく、1PV=1円にしないとコンテンツプロバイダーが成り立たない。それぐらいにするのがキュレーションサービスの課題」と発言し、広告単価の大幅な向上は実現可能だとした。
広告収入に関する発言が相次ぐ一方、記事の有料化はほとんど触れられなかった。山田氏は「たくさん読まれるサイトをつくれば、マネタイズはついてくる」と述べた。その一方で「有料会員、あるいはID登録をしてもらうのは非常にハードルが高い。まずは無料でやれることを徹底的にやりたい」とした。
山田氏は5月末に編集長を引き継いでから、サイトのオリジナル記事を増やし、月間PVが3500万件から6500万件に増えたことを明らかにした。「以前は週刊東洋経済の記事をウェブ・ファーストでオンラインに掲載していたが、それでは読者を食い合って紙もオンラインも食えなくなるのでやらない。紙ファーストで紙が食えるようにしてオンラインを伸ばしたい」と説明。週刊誌からの転載が減った分は「オリジナル記事を増やし、特にテクノロジー系の記事を強化した。SNSも強化し、フェイスブックのフォロワーも2万5千人から5万1千に増えた」と述べた。
最後に、「メディアの未来は明るいか」という質問が登壇者の5人に投げかけられた。いずれも「明るい」「楽観している」との回答だった。
山田編集長は「いよいよ、人々が知りたい情報がいろんな形で手に入るようになってきた。情報を欲しいという消費者がいるのに、供給側が追いついてないのが現状だ。それをヤブ医者は『(メディアの)骨が折れかけている』と診断しているが、違う。いまは“成長痛”だ。ものを発信する側が(ニーズに)対応していけば、大きな成長がある」と語った。
土井氏は「情報に対する欲求が消えることはない。しかし同じものを10社も20社も書いていても価値がない。それぞれのセグメントに響くもの。人間でなければできない、例えば調査報道とか、ジャーナリストが突っ込んでいかなければ表に出ない情報には価値がある。そうした情報をどれだけつくっていけるかがこれからの勝負だ」と強調した。
高橋編集長は「いまは楽しくてしょうがない。ハフィントンポストではポータル、ゲーム、新聞社、いろんなところのDNAを持った人たちが一緒に働いている。最後はジャーナリズムに対する情熱、多少ビジネスが傾いてもやるんだ、というところが生き延びる」とした。
福島CEOは「グノシーとしてやりたいことは、その人が求めている情報が届くようにすること。スマホやインターネットでそれがものすごくやりやすくなってる」としたうえで、「変なつぶし合いとかなしで、でかい市場をつくるんだと。そういう意味で未来は明るいと思う」
藤村氏は「テクノロジーで負荷が高かった要素を軽減していけるところに期待している。多様性が失われるのがメディアにとっては決定的な問題。同調圧力が働きやすい時代に、多様性を世に問うていくことができれば未来は明るい」と話した。