お金と仕事
マツダ・ロードスター、世界で愛され25年 こだわり貫き根強い支持
広島産の名車、誕生25周年のマツダ・ロードスター。新型モデルの公開イベントが日米欧で4日午前にあり、世界中のファンの注目を集めた。日本が世界に誇る、このクルマの魅力を掘り下げる。
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広島産の名車、誕生25周年のマツダ・ロードスター。新型モデルの公開イベントが日米欧で4日午前にあり、世界中のファンの注目を集めた。日本が世界に誇る、このクルマの魅力を掘り下げる。
広島産の名車、誕生25周年のマツダ・ロードスター。
新型モデルの公開イベントが日米欧で4日午前にあり、世界中のファンの注目を集めた。
デザインは、ロー&ワイドなプロポーションで筋肉質な印象。「アテンザ」など現行車種で使われる、低燃費と高出力の両立を図る高効率エンジンとシャシーの軽量化からなる、同社独自の「スカイアクティブ」技術を新たに採用した。車両重量は現行型比で100キロ減を目指すという。
1989年の初代から数えて4代目。歴代モデルはこの種のマニアックなクルマとしては異例のベストセラーとなり、2000年には、「2人乗り小型オープンスポーツカー」生産累計世界一(53万1890台)としてギネス記録に認定。本格的な走りを手頃に楽しめる希少なクルマとして、根強い人気がある。
日本が世界に誇る、このクルマの魅力を掘り下げる。
初代から3代目までの開発に携わったのは、2010年に山口東京理科大の教授に転身した、エンジニアの貴島孝雄さん。
社内で「鬼の貴島」と呼ばれ、元部下は「今どき珍しく叱咤激励し、怒る人。『どうすればできるか考えろ』『難しいことをやるのが仕事』とうるさい」と評する。
追い求めたのは「人馬一体」。体の一部のように思うまま車を動かす楽しさだ。
そのための軽量化と、安全性を高める装備による重量増の両立に挑み続けた。
一番楽しく感じるハンドルの遊びの量、エンジン音の聞こえ具合、加速性能……。
一つずつ探求し、重さ約1トンの車のあちこちを1グラム単位で削って完成させたのが、担当主査として開発した3代目だ。
価格は200万円台を維持。値ごろ感もファンを広げた。
1989年に発表された初代の開発が始まったのは、80年代前半。
手頃なオープンカーは他社が60年代に盛んに発売したものの、市場は成長しなかった。
当時、マツダの主力だったファミリアやカペラの開発陣に余裕はなく、ロードスターはトラックの開発チームが主体だった。
貴島さんは、「好きな連中が手弁当で集まって、図面を描く雰囲気だった」と振り返る。
「スポーツカーをマニアの車にせず、日常生活で誰が乗っても楽しい車にしたい」とコンセプトを描いた。
アクセルを踏み、ハンドルを切った時の反応を上げるため、開発陣は後輪駆動(FR)にこだわった。すでに主流は、大衆車で普及していた前輪駆動(FF)。
「時代遅れだ」と難色を示す経営陣に「スポーツカーを運転する楽しさのため」と食い下がった。
ハンドリング性能を考慮してエンジンは前輪の後方に配置し、中心に近づけた。
手頃なサイズの、走らせて楽しい古典的オープン2シーター。
この古くて新しいコンセプトの成功が、世界の自動車メーカーに大きな影響を与えた。
欧州の高級車メーカーからも、後を追うように2~3リッタークラスの競合モデルが投入され、クルマの一大カテゴリーが生まれた。
代表的なものだけでも、メルセデス・ベンツSLK、BMW・Z4(前身のZ3)、ポルシェ・ボクスターなどがある。
それぞれ、各メーカーのボトムレンジを下支えするモデルに成長している。
ロードスターの人気は、そのこだわりと品質だけが理由ではなかった。
マツダのテストコースでの走行会といったオーナー参加型イベントを開催するほか、ファンがホロリとするような心憎い演出も用意する。
2011年4月、マツダが生産したロードスターの90万台目が、ドイツ在住の購入者の元に届いた。
この記念すべきクルマを買ったのは、ドイツ西部に住むベッカー夫妻。車は2011年2月4日に広島市南区の本社工場で生産し、2カ月かけて船で運ばれた。
そのクルマには、「購入されたMX―5は、幸運にも90万台目の記念すべき車です。家族のように愛してください」との、山本修弘・開発主査の手紙が添えられていた。
ベッカー夫妻は、ディーラーで納車されたクルマを運転して自宅に向かう間、現地のファンたちの運転する30台とともに、パレードしたという。
こうしたロードスターの商品力は、マツダの世界戦略にも大きく貢献しそうだ。
新型ロードスターは、イタリアの自動車大手フィアットの「アルファロメオ」ブランド向けに供給されることが、すでに決まっている。
相手先ブランドでの生産(OEM)で、ロードスターとは異なる外観やエンジンを採用。フィアットが2010年に生産を終えた「スパイダー」の後継車になる見通しだ。
マツダにとっては、ロードスターと合わせた生産台数を増やしてコストを下げ、国内の雇用維持にもつなげる狙いがある。
アルファ伝統の盾型グリルをまとったロードスターが、広島の港からタンカーで出荷される姿を想像するだけで、世界中のコアなファンが歓喜するに違いない。