お金と仕事
スマートニュース鈴木会長、ロングインタビュー「公共性を担いたい」
スマートニュース創業者で会長の鈴木健氏が単独ロングインタビューに応じました。同社は今月、国内外から36億円を資金調達し、秋には米国に進出予定。急成長の秘訣と今後の戦略を聞きました。
お金と仕事
スマートニュース創業者で会長の鈴木健氏が単独ロングインタビューに応じました。同社は今月、国内外から36億円を資金調達し、秋には米国に進出予定。急成長の秘訣と今後の戦略を聞きました。
ニュース閲覧アプリを提供する「スマートニュース」。創業者で会長の鈴木健氏が単独ロングインタビューに応じました。
同社は今月、国内外から36億円を調達。すでに400万ダウンロードを超えた国内市場をテレビCMなどでさらに飛躍させ、今秋には初の海外展開となる米国進出も計画しています。
今回の資金調達に応じたのは、国内勢がグリー、ミクシィ、グロービス・キャピタル・パートナーズなど。スマートニュースは、グリーの米国子会社を通じて北米でのアプリ普及を進め、ミクシィとはスマートフォン向けの「ネイティブ広告」のプラットホーム作りを行う予定です。
海外勢では英国に拠点を置くベンチャー投資会社アトミコ(Atomico)も出資。同社はスカイプ共同創業者のニクラス・ゼンストローム氏が設立した会社で、スマートニュースの海外でのネットワーク構築や、さらなる資金調達を支える計画です。
急速な成長局面にあるスマートニュース。今後の戦略をたっぷり聞きました。(聞き手・朝日新聞デジタル編集部 福山崇)
Q 最初の海外進出先に米国を選んだ理由は?
A 一つ目として、メディアの中心が米国であることです。世界中の人たちが読むメディアが、NYなどに集まっています。そこに挑戦しに行って、ネットワークをつくるのが非常に大事です。
二つ目の理由は、インターネットの世界では、米国で使ってもらうことが各国の人々に使ってもらえる構造になっていることです。いくつか理由があると思いますが、米国はもともと移民の国で多様な人が集まっています。そこで鍛えられれば、世界中で使われる「ユニバーサリティのあるサービス」に成長できます。
三つ目は、人材です。世界で使ってもらうためのノウハウや、それを実現するスキルをもった人材はシリコンバレーに集中しています。
客観的に理由を挙げるとこの三つですが、主観的には「とにかくアメリカでやりたい!」という気持ちです(笑)。
今年の4月、社員全員で米国に1週間行って“合宿”してきました。サンフランシスコとニューヨーク。幼稚な表現かもしれませんが“向こうの風”に触れて、「ここで勝負したい!」という気持ちを社員みんなが持ったのも大きな理由です。
Q 米国で先行するニュースアプリに、勝てますか?
A 僕らが日本でスマートニュースを出したときも、他にニュースアプリはたくさんありましたが、インパクトを与えることができました。
その当時と比べると、いまの米国は圧倒的に競合するアプリの数も多いし、質も高い。
例えば「フリップボート」。世界中で1億以上、ダウンロードされています。しかし、実際の使用状況を見ると、まだ明確な勝者とは言えません。スマートニュースのユーザーインターフェース(UI=利用者の使いごこち)をさらに洗練させていけば、米国でも展開できると思っています。スマートニュースのようなコンセプトで設計されたものは、米国にはありません。
Q あらためて、スマートニュースのUIは何を重視しているのでしょうか?例えばフリップボードは雑誌に近い“ビジュアル重視”が特徴です。「パルス」や「フィードリー」など他のニュースアプリにも、それぞれの良さがあります。
A スマートニュースのUIで一番大事なのは、とにかくストレスがなくて、触っていて気持ちいいこと。快適さの実現です。
なるべくスワイプだけで操作ができ、特定のボタンをタップする必要がない。ほかのニュースアプリに比べ、圧倒的にシンプルです。
逆に、これしか機能がないのか、と思われてしまうほどシンプルなんですが、そこに技術をぎゅっと凝縮させています。パーソナライズされたニュースではなく、一般的なニュース。みんなが読みたいと思う話題、面白いニュースだけを抽出して見せられる、ここが特徴です。
Q 進出先の国に合わせた「ローカライズ」はするのですか?
A 米国のユーザーに受け入れられるデザインに改善します。アメリカ人好みというか、グローバルスタンダードに近いデザイン。それを実現するため、米国のトップレベルのデザイナーにアドバイザーになってもらいます。本質的なところは変わりませんが、“ファインチューニング”ですね。
Q 米国でのスタート当初、現地のニュース媒体は何社が記事を提供しそうですか?
A いま交渉が始まった段階なので、数字を出せる段階ではないです。ただ、びっくりするくらい感触はいいです。日本よりいいくらい(笑)。
いくつか理由があると思うのですが、米国のメディアでは今後の収益の可能性として、ネットをかなり重視しています。逆に言うと、そうせざるを得ない環境が10年ほど前からできています。それこそクレイグスリスト(不動産情報や求人など短い広告を集めたサイト。米国の新聞はこうした広告が収益の柱の一つだったが、激減した)の影響とか。
ニュースアプリの世界でも、フリップボードやザイトやパルスなど大勢いて、すでに数年前に既存メディアから警告を受けたり、「一悶着」を起こしています。でも、いざこざを経て、今は「そういうアプリが既存メディアにとっても必要だよね」というのが業界のトレンドになってしまっている。
我々がスマートニュースを日本で出したとき、いろいろ厳しいご意見を頂きましたが、同じようなことが米国では3年前に終わっています。
だから、とにかく最初に会ってくれるニュースメディアの方々が幹部の偉い方ばかりで、びっくりしています(笑)。
Q 交渉はうまくいっていますか?
A 交渉にはリッチ・ジャロスロフスキーさんに入って頂いて。リッチさんはウォール・ストリート・ジャーナルの政治記者出身で、WSJ.comを立ち上げた方です。米国のメディア業界に広い人脈をもっているうえ、「スマートフォンというテクノロジーこそがニュースの読み方、使い方を変えるんだ」という強い確信をもっています。そのビジョンを自ら推進したいという方なので、一緒にやっていて楽しいです。
Q ネイティブ広告に力を入れる理由は。
A 我々は、UIを大切にしながらネイティブ広告を展開していく、という分野でイノベーションを起こしたいんです。
広告って一般的にはユーザーにとって「邪魔なもの」なんですが、本当に適切な広告はユーザーにとって読む価値、見る価値があるコンテンツになります。記事と“シームレス”に違和感のない形で出すのが、本来のネイティブアドの思想です。そこを技術的にもビジネス的にもめざします。
Q ネイティブ広告は、どれくらいの規模のユーザーに届けるのでしょうか? スマートニュースとミクシィのSNS上で展開するそうですが、ミクシィは2年半前の月間利用者が1300万人くらい。直近の数は非公表ですが、フェースブックなどとの競合で減っていたとしても数百万人はいるでしょう。そこに、ダウンロード数400万、1日のアクティブユーザー率が4割近いスマートニュースが加われば、あわせて1千万前後のユーザーに届く計算になるのでは。
A ミクシィの具体的なユーザー数は僕の口から言えませんが、かなりの数です。スマートニュースと合わせると、それくらいの国内有数の規模のアドネットワークになります。
ミクシィもちょうどネイティブ広告のインフィード(一般の記事に織り込んで表示すること)を検討していたそうで、(ミクシィの)森田社長や笠原会長らと意気投合しました。収益も大事なんですが、我々は「ユーザーを大事にする」という考え方があうパートナーを探していたんです。
Q ネイティブ広告は誰が作るのですか?
A 技術的な開発と営業は我々が行います。クリエイティブ(広告製作)そのものは、我々はやりません。広告代理店やたくさんのコンテンツパートナーと連携します。
Q ネイティブ広告だけで黒字化のめどが立つのでしょうか?売り上げ目標は?
A 黒字化の時期や数値は言えませんが、ネイティブアド広告だけでも黒字化できます。いままでスマートフォンに広告を出していなかった「ナショナルブランド」の広告主の皆さんにも、安心して出して頂ける世界を作っていきます。
Q 米国でもネイティブ広告が収益の柱になる?
A 具体的なことは決まっていませんが、そもそもネイティブ広告は米国で発展したやり方。日本でうまくいけば米国でも展開するのが自然です。
ネイティブ広告に保守的だった新聞社も、より積極的に推進する流れ変わってきています。米国のヤフーもネイティブ広告にシフトしています。
Q スマートニュースとミクシィ以外の他社サイトにも、ネイティブ広告を提供するのですか?
A もちろん、どんどん大きくしていこうと思っています。
対象は、基本的にスマートフォンでユーザーを大事にしながらアプリやサービスを運営している事業者。たくさんありますが、僕らと考え方や思想が近いところに声をかけていきます。
Q 新聞社も?
A 当然ありえます。親和性が高い。ネイティブ広告を出しても恥ずかしくない、というところを超えて、出すことでかえってユーザーに価値が提供できるような広告を一緒に開発していきたいです。
Q例えば新聞社などが1社でネイティブ広告を作るよりも、みんなで作って流したほうが効率的、ということでしょうか?
Aそうです。広告主にとっても利便性が高まります。
Q このままいけば、スマートニュースがニュース配信や広告を握る「大帝国」が築かれそう・・・。
A そんなことないですよ(笑)。そんな簡単なことじゃないです。
いま日本のネイティブ広告は圧倒的にフェイスブックが大きい。そこに今回の僕らの取り組み、いわば“国産のネイティブ広告”が食らいついて行く試みです。
検索サイトやポータルの大手も当然、ネイティブ広告に参入してくるでしょう。どう対抗していこうかという状況です。現状では、時価総額でも3桁、千倍くらい違いますから。
Q とはいえ、スマートフォンだけで見ればヤフーに匹敵するくらいのユーザー数は獲得しているのでは?
A アプリの世界ではかなり使って頂いていますが、PCのウェブも含めるとユーザー数は1桁違う。そういう意味でこれからが勝負です。
Q あくまでスマートニュースの活動領域はこれからもスマホであり、アプリ?
A そうですね。小さな会社なんで一点突破です。
Q アトミコのニクラス・ゼンストローム氏はなぜ出資することに?
A 出資者の川田さん(ディー・エヌ・エー共同創業者の川田尚吾氏)を通じてもともと縁があったのですが、アトミコはこれまで日本の企業、日本人が創業した会社に出資した経験がなく、かなり敷居の高い投資家でした。しかし、最後はニクラスに「ロンドンに来ない?ディナーしよう」と突然誘われて。僕と(社長の)浜本さんは出張先のサンフランシスコから、堅田さん(財務担当ヴァイス・プレジデントの堅田航平氏)たちは東京から逆回りで行きました(笑)。
彼にはプロダクト、チーム、ビジョンの3つを認めて頂いて。ニクラスは世界的にも優れた起業家であり、スカイプの創業者に認められたってことですごく嬉しい。
グリーさんにもアメリカでの進出を会社一丸となって支援して頂けることになっていて、今回の資金調達で多くの良いパートナーに出会えた。僕らがユーザーを大事にしている、ということに共感してもらえた結果だと思っています。
増資話が出て2秒後に2億の追加投資を決定しました。 http://t.co/VVhtsfRXoG
— 川田尚吾 (@shgk) 2014, 8月 8
Q 今回調達した36億円で、当面の事業活動には足りるのでしょうか?
A 当面の人材採用や海外展開には十分な金額です。安心してアクセルを踏み込めるようになりました。
今後、グローバルに積極展開していくにあたってまだまだ足りなくなる可能性はあります。そのときはまたしっかり資金調達していきます。
Q それだけの出資を受け入れても、支配権は維持できますか?
A 優先株があるので。まだ創業者の2人(鈴木会長と浜本階生社長)でまだ過半以上のシェアをもっています。
Q 今後、どこかのグループの傘下に入ったり、一つの投資家が出資比率を極端に増やすようなことは?
A ないです。買収したいとか連結に入れたいとか、そういうお話はすごくたくさん頂くのですが、ぜんぶ断ってます。
Q 上場の話を聞くのはまだ早いですよね。
A 上場って資金調達のプロセスの一つの手段なので。大きな株式市場から調達するのと、プライベートなところから調達するのと二つあるわけですが、その両方とも選択肢として持っておきたい。どれか一つに決めているわけではありません。
Q 今後、ニュース記事の制作には関わらないのでしょうか?日本のヤフーは「THE PAGE(ザ・ページ)」というニュース製作の子会社を作っています。ニュースアプリの「ニューズピックス」も近くコンテンツ制作に参入予定です。
A 僕らは記事を自分で作る会社ではありません。良質な記事コンテンツを作っているメディアや個人から集めて、分析して、たくさんの人に配信するのが仕事です。そういう議論は全くしたことがない。社員の人数が増えても、やらないでしょう。
Q これだけは言いたい、という点は?
A 今回、スマートニュースが36億円を調達したということよりも、たくさんの応援団を得たということろが大きいなと思っています。
アトミコもミクシィもグリーも、既存投資家の皆さんも、スマートニュースがうまく行きそうだから乗った、ということではなく、我々がやろうとしているビジョンとか、プロダクトの質とか、技術にこだわるカルチャーとか、そういうものを総合的に評価してもらいました。
メディアはいま、“300年くらいぶり”に大きく変化する時代にさしかかっていると思います。
80億人のうち50億人がスマートフォンでニュースを読むことになる。これがもたらす社会的なインパクトは非常に大きくて、そこを担っていく存在になりたいと思っています。「公共性が高い存在」というところを認識しながら、ニュースアプリを運営していきたいです。