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実話から着想、衝撃作「MOTHER マザー」プロデューサーの意図

PR by スターサンズ

目次

『新聞記者』(2019)、『宮本から君へ』(2019)と、ヒット作が続く映画会社スターサンズ河村光庸プロデューサーが次に制作したのは、母親と息子の歪んだ関係が引き起こした殺害事件。長澤まさみさん主演で大きな注目を集めている本作『MOTHER マザー』は、一体どのようにして生まれたのか。発想のきっかけや、作品の魅力について伺いました。

(取材・文:永井勇成 撮影:藤原慶)


 
【あらすじ】
“男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきた女・秋子。シングルマザーである彼女は、息子・周平に「忠実であること」を強いる。そんな歪んだ愛の形しか知らない周平の小さな世界には、母親しか頼るものはなかった。やがて身内からも絶縁され、次第に社会から孤立していく中で、母と息子の間に生まれた“絆”。それは成長した周平をひとつの殺害事件へ向かわせる……。”(公式サイトより引用)

衝撃的な事件に見た、現代社会の複雑さ

——本作は実際にあった事件から着想を得たと伺っています。
 
アイデアの元になった事件を知ったのは、朝日新聞の記事でした。大きなニュースの隣に書かれていた、少年による祖父母殺害事件の記事がとても気になったことを覚えています。
 
その記事を見つけた時に、事件を起こした少年とその母親の関係に興味を持ち、これまでの映画で描かれてきた親子とはまったく別の関係性、現代ならではの複雑な不可解さが背景にあると直感しました。
 
——「複雑な不可解さ」とは?
 
家族という小さなコミュニティの中に、さらに小さな「母と子」という関係性があります。へその緒を切る前は母と一体ながら、切り離された瞬間に「個」となる子どもにとって、最初に触れる他人は実の母親なのです。しかし、母と子の関係性には、「無償の愛」や「憎しみ」などでは括れない、さまざまな感情やシチュエーションがあると思うのです。
 
本作でいえば、なぜ息子は母親の両親である祖父母を殺害したのか、それは自分の意志だったのか……。殺害までの過程は当人にしかわからず、はたして記事にあるように、本当に母の指示があったのか?我々の想像では追いつかないものがあります。
 
母と息子という小さなコミュニティにおいて、一つの言葉や行動を、相手がどう受け止めるか、どれほど傷ついてしまうのか、どんな風に追い込み、追い込まれてしまうのか、他者には測ることができません。
 
それをフィクションとして、一つの結末を描いてみようと思ったのです。
 
 

母親と息子の気持ちは、誰にもわからない

——長澤まさみさんが演じる母・秋子に対して、どんな思いがありますか?
 
長澤さんのすごいところは、客観的に見て徹底して最低な母を演じきってくれたことです。映画を見ている人が、秋子に感情移入しようとしてもできない。
 
私個人としては、少しくらい母親に救いがあったほうがいいのではないかと思っていました。しかし、監督の意図や長澤さんの思いもあって、秋子という強烈に自堕落な母親が出来上がったのです。実は正直なところ、映画を観終わった観客は気持ちをどこに持っていけばいいのかわからないのではないかと、最後まで不安でした。
 
——その不安は解消されたのでしょうか?
 
されました。母親に感情移入したくてもできない観客が、奥平大兼さん演じる息子の周平に向かうとわかったからです。それこそが本作の魅力の一つであると。
 
そして、夏帆さん演じる児童相談所の職員・亜矢を加えたことで、うまくバランスがとれたと思っています。観客の気持ちを代弁するように、物語の中の彼女が動いてくれる。彼女が存在することで、単なる母と息子の平坦なだけの物語ではなくなりました。
初日舞台挨拶を終え、主演の長澤まさみさんについて「撮影のオファーをした3年前、撮り終わった1年前、そして今日まで、作品との向き合い方をずっと考え続けてくれているのがわかった」と河村さん
初日舞台挨拶を終え、主演の長澤まさみさんについて「撮影のオファーをした3年前、撮り終わった1年前、そして今日まで、作品との向き合い方をずっと考え続けてくれているのがわかった」と河村さん
——「怪物か、聖母か」というキャッチコピーが印象的です。河村さんにとっての秋子はどちらなのでしょうか?
 
正直なところ、どちらでもないですね。秋子の気持ちは、誰にも掴みきれないと思います。映画を作っておきながらなんですが、想像を超えた感情ではないかと。もちろん周平から見た秋子も、そして周平自身の感情も。
 
祖父母(秋子にとっての両親)を殺害する指示に関しても、本気で言ったのか、ただの願望で言ったのか、その真意は誰にもわからないことではないかと。
 

我々は秋子を非難する前に、自分たちも誰かを誘導する言葉を使っていないか、自問する必要があるかもしれません。

「あの言葉でそこまで傷つくとは思わなかった」とか、逆に「すごく傷つけられた」とか。そんな言葉を吐いたことを、誰が罰することができるでしょうか。

秋子と周平の関係性の中にも、他人では推し量れない複雑さが含まれています。だからこそ、一方的に断ずることはできないですし、考え続けなくてはいけないことだと思います。

コロナ禍にいる今だからこそ、見つめ直したい関係性

——本作をどのような方に観てほしいでしょうか?

一番観てほしいのは女性ですね。試写などでも、女性からの反響を多くいただきました。女性には受けないかもしれないと思っていましたが、予想に反していい評判が多かったので、とても期待しています。

感動作であれば、「感動した」という通り一遍の感想になると思いますが、本作に関しては観る人それぞれの反応があります。あの場面でそんな風に感じたのか、そこを観ていたのか、というような。いろいろな見方ができるからこそ、ご自身の目でどう感じるのかを確かめてみてほしいですね。

——感想や意見が分かれる中でも、観た人に感じ取ってほしいことはありますか?
 
いわゆる一般的な家庭で育ってきた方からすると、本作の母と息子の関係や、同じ過ちを繰り返す人間の不条理さは、理解できないかもしれません。
 
それでも、それらを自分たちとは違う世界のことだとは決して思わずにいてほしいです。ひと皮むけば自分に置き換えられることもあり、無関係とは言っていられないと思います。
 
コロナウイルスだって、最初は他人事のように感じていたのではないでしょうか。しかし、今では世界中の誰もが平等にリスクを課せられている状況です。だからこそ、個を自覚できる機会にもなったはず。本作で描いた問題を、自分に関係することとして受け止めてもらえることがあれば、と願っています。
 
——最後にメッセージをお願いします。
 
本作は観る人の立場によって、また世代によっても感じ方が違います。いろんな感情を持たれると思います。「この映画は許せない」といった意見があっても構いませんし、「なぜこんなことを題材にしたのか」、などの意見もあっていいと思っています。
 
それだけこの映画で描いている問題は、多くの方が客観的に答えを出せないものだということです。まずは向き合うところから、それからどう行動するか、行動すべきかを考えてほしいと思っています。
 
■映画「MOTHER マザー」の公開情報はこちら
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=mother2020
 
■映画「MOTHER マザー」公式サイトはこちら
https://mother2020.jp/
 
■映画「MOTHER マザー」 公開記念 7/17(金)実施!オンラインシンポジウム
映画『MOTHERマザー』を鑑賞して、監督やプロデューサーらが参加するオンラインシンポジウムに参加しよう!
7月12日(日)までに本作品をご覧いただいた方の中から、抽選で50名の方をご招待!! Q&Aのコーナーでは、参加者の方から登壇者へ直接、質問をすることもできます。映画公式 HPの申し込みページからご応募ください。 https://mother2020.jp/event/ 

●日程: 7月17日(金)20時00分〜21時00分
●登壇者:大森立嗣氏(映画監督)、河村光庸氏(スターサンズ代表/企画・プロデューサー)、佐藤順子氏(スターサンズ/プロデューサー)、SYO氏(映画ライター/編集者)、奥浜レイラ氏(映画・音楽パーソナリティ)※順不同 ※予定

 ©️2020「MOTHER」製作委員会

 
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