IT・科学
「触れるVR」×「SDGs」=「?」 高校生たちの意外な回答とは
提供:株式会社クボタ
視覚や聴覚だけでなく、触覚も他人と共有できる技術って想像できますか?
「ちょっと何言っているかわからない」と感じた人は、例えば、映画館に行った場合を想像してみてください。隣の人と、同じ映像を見て、同じ音を聞くことで、視覚と聴覚は共有できますが、その人の手がドリンクをつかんだ時の感覚、つまり触覚はわからないですよね。でも最先端の技術では、人と人で触覚が共有できるようになってきているそうです。そんな技術が学べる高校生対象のイベント「第51期 朝日やさしい科学の教室 クボタ・アクティブ・ラボ(株式会社クボタが1985年から協賛中)」が8月に開催されました。
「74億人の手を共有したい」
聞いたこともないようなビジョンを語る講師に、参加者の視線が集中します。話しているのは、早稲田大学准教授の玉城絵美さん。他人と身体を共有する「ボディシェアリング」の研究者であり起業家でもあり、未来のノーベル賞候補とも言われている女性です。
玉城さんが、2012年に自身が創業した会社H2Lで開発した「Unlimited Hand」という、VR(バーチャルリアリティー)ゲームコントローラーのプロモーション映像を見せてくれました。そこには、開いた手の上にCGの鳥が乗ると、まるでその重みを感じたかのように手がフッと沈む様子が。手の動きを感知するセンサーと、筋肉を収縮させる電気刺激の機能が備わったコントローラーを腕に巻くことで、VRの空間内で物に触れた感覚が疑似体験できるのだそうです。
この触覚を感じるためのカギは「深部感覚」。何かがぶつかったり何かを触ったりした際に、皮膚の奥にある筋肉や関節などに起こる感覚のことです。脳が手などを動かす“インプット”だけでなく、深部感覚で感じる“アウトプット”の相互作用がなければ、身体をリアルに動かしているような感覚にはなりません。
先ほどのコントローラーは、手を動かすために脳から出る電気信号と、実際の筋肉の動きを機械学習させています。それによって、手を握るとセンサーが感知してVR空間の手も同じ動きをするといったインプットと、VR空間でものを触ると、電気刺激で深部感覚に働きかけるアウトプットを両立させ、物を持ったり触ったりする感覚がリアルに感じられる仕組みです。
玉城さんの研究の原点は、参加者と同じ10代の頃に経験した入院生活だったそうです。自分だけ旅行に行けないなどのもどかしさを感じる中で思いついたのは“完璧な引きこもりシステム”。「視覚」や「聴覚」と違って、今の技術ではモノを触ったり体を動かしたりする「触覚」を他人に伝えることは難しい。でもそれが可能になれば、部屋にいながら世界中と交流することができるはず。そこで、ボディシェアリングを目指し、ヒトとコンピュータの相互作用を研究するHCI(human computer interaction)の研究を進めてきました。
いま、玉城さんが描くH2Lの将来像は、まずはゲームなどでキャラクターとヒトの触感がつながり、次にロボットと人がつながり、最後はヒトとヒトが身体の触感を共有する、というものです。電気刺激で他人の手を操ることもすでに可能になっていて、医療機関では、患者が手を動かすリハビリに活用する共同研究も進められています。
一方で、他人と身体を共有するにあたっては、社会全体から理解を得ることが課題だと言います。彼女がとてもショックだったのは、ヒト同士の身体の共有に対して「気持ち悪い」という反応があったこと。確かに、手が勝手に動くのは、ちょっとコワいかもしれません。例えば、手をハッキングされないようにするルールづくりなどにも取り組んでいるといい、「課題を解決したら、新しい問題が出てくるかもしれない。その時にこんなルールをつくろうと想像力をふくらませたら、社会はさらによくなると思います」と教えてくれました。
玉城さんは大学で、姿を見せずに講義をすることもあるそうです。スクリーン上で学生に教えるのは、玉城さんの表情に合わせて動くアニメのかわいいキャラクターだったり、おばあさんだったり、時にはスズメやドラゴンだったり。キャラによって学生の反応が変わるだけでなく、玉城さん自身も「男性教員の気持ちが少しわかった」とのこと。他人と身体を共有することは、ヒトが内面を変えるきっかけになるかもしれませんね。
「SDGs(エスディージーズ)という言葉を聞いたことがありますか?」「目標数を知っていますか?」「目標達成年度は?」クイズ形式で次々と質問を投げかけるのは、企業の社会貢献や環境学を専門とする杉浦正吾さん。科学技術を通じた社会課題の解決についてが、この日のイベントのもう一つのテーマでした。最近話題になっているけど、深く考える機会の少ない「SDGs」について、杉浦さんがわかりやすく紹介してくれました。
SDGsは、国連が掲げる「持続可能な開発目標」の略称で、2030年までに達成しようという国際社会共通の目標のこと。「飢餓をゼロに」「質の高い教育をみんなに」「海の豊かさを守ろう」など17の目標と、169のターゲット(具体目標)があり、「誰も置き去りにしない」を共通の理念にしています。
杉浦さんは、世界では約10%の人が国際貧困ライン(1日約220円)で生活しており、約30%の人は安全な飲み水を手に入れられない、といった現状を説明したうえで、「目標は達成できたかどうかが重要」と力説。「持続可能な未来のためには、目の前にある物事がどういうものとつながっているかを考えなきゃいけない。そして、世界の人々と話し合って一緒に意見をまとめなければ」と語りかけ、社会課題の解決につながるみんなのアイデアに期待を寄せました。
玉城さんも「世の中を変えようという意思を、みんなで一つずつ作っていくしかないんです」と言います。では、VRのような最先端の技術を使えば、SDGsの目標達成に近づくのではないでしょうか?
そこで高校生は5つのグループに分かれ、様々な社会課題について、その解決策を話し合いました。玉城さん、杉浦さん、進行役としてニュースサイト「ハフポスト日本版」の竹下隆一郎編集長も加わって、各グループで30分余りの熱いディスカッションを展開。「短時間でこれだけまとめて素晴らしい」と両講師が評した、高校生たちのアイデアとは――。
最後に玉城さんは「SDGsやVRの概念を身近な問題に落とし込んでいるのが素晴らしかった。このロジカルシンキングを、みんなで話し合いながら伸ばしてほしいです!」とコメント。どんなに高度な技術でも、使うヒトにとって便利でなければ、優れた技術とは言えません。技術が活用されるためには、お互いが置かれた状況や、感覚や思考を理解することが大切。その有効な手段として玉城さんのVRも活用できそうですが、まずは第一歩としてヒト同士が話し合うことの大切さを、参加した高校生たちは実感したのではないでしょうか。
株式会社クボタのコーポレートサイトです。クボタは「For Earth, For Life」のブランドステートメントのもと、食料・水・環境問題へグローバルに挑戦します。
1/18枚