グルメ
うますぎてマズイ!北九州市「孤独のグルメ」久住昌之さんと歩く旅
提供:北九州市
「昨日呑んだの何軒だっけ? 5軒!最近そんなにハシゴした記憶ないな。マズイぞ北九州!」と開口一番、笑顔の久住さん。北九州密着2日目は門司港へ向かいます。JR小倉駅で鈍行待ち。ホームの柱に貼られた路線図を見ながら「前回、北九州に来たときは『鉄道つたい歩き』(※1)という連載で門司駅から門司港駅まで歩いたんだよ」。満員列車が到着。ほとんどの乗客が下ります。ノンビリムードが漂う車内で海側の席に座った久住さん。「線路沿いをずっと歩いたんだけど、山側を歩いていると、家と家の間から海が見えてくる。その先は下関。本州なんだ、と思うとなんか興奮してきた」。
JR門司港駅に到着。終着駅らしい独特のムードが漂っています。改札を出ると韓国人観光客のみなさんから握手攻めに合う久住さん。海外でも「孤独のグルメ」は大人気の様子。ここからは門司港レトロ倶楽部の堀内織恵さんに案内してもらいます。2012年から行われている駅舎復原(創建当時の状態に戻す)工事も最終段階。来年には完了し、駅としては初の国重文に指定されたエレガントな姿が披露される予定。この日は足場を外す工事中。駅舎の上部がきれいに見えます。「前回、来たときには全然見えなかった。立派な建物ですね」と久住さん。と、ここで「バナナの叩き売り発祥の地」の石碑が出現。「あれっ?ここだった?」と不審がる久住さん。堀内さんによると数年前に移動したとのこと。すごい観察力&記憶力だ。
小雨の中、門司港レトロ地区を散歩。旧門司三井倶楽部でこの地出身の作家・林芙美子の資料を見学。久住さんは1階レストラン入口の写真入りメニューの前に立ち止まり、オムレツの上にケチャップで書かれた「レトロ」の文字に反応していました。そして高層マンションの最上階にある「門司港レトロ展望室」へ。エレベータで31階まで上ります。大きなガラス窓の先には海峡の向こう側・下関の風景が広がっていました。関門海峡大橋が見える場所で立ち止まった久住さん。「前回は人道トンネルで下関まで行ったんだけど、あまり人が歩いてなくて。1人で海の底にいると思うと不思議な感覚だった」と振り返っていました。
古いアーケードをしばらく歩いた後、路地に入り込みます。坂道にひっそりと「U」酒店という看板が。中を覗くとカウンターがあり、どうやらここも角打ちの模様。「そこそこ歩いたし湿気もひどいし、この辺でちょっと休憩しようか」とにこやかな久住さん。お客さん側の背後には冷蔵庫が数台並んでいます。ここからビールとグラスを勝手に出すスタイル。カウンターの奥にある座敷からお母さんが出てきます。ビールのあてはゆで卵。久住さん「これ、ゆでかげんが最高だよ」。「ここ何時から空いているんですか」と聞くと、お母さん「起きたら開けますよ」。久住さんも感心しきり。
山手の細い路地をアップダウン。いろんなレンガ壁があって興味がつきません。路地の先にある元料亭の「三宜楼」を見学した後は、アーケードに戻り、甘党の店「B」へ。鉄板の前で腕を振るっていた大将が「おお!久住さん!!」と声をかけます。笑顔で会釈しながら奥の席に腰掛ける久住さん。じっくりとおしながきを見ます。「いなり寿司1個60円って安いよね。『コールコーヒー』はアイスコーヒーだとして、『かき氷』ゾーンの『雪ミルク』と『雪クリーム』の違いは何なんだろう?」。リアル「孤独のグルメ」的逡巡にちょっと感動。
店は常連さんでいっぱい。焼きそばの上にオムレツをのっけた「オム焼きそば」が人気の様子です。「んーでもさっき卵食べたしなぁ。ここは焼きそばで」と久住さん。あまり待つことなく白い皿に盛られた焼きそばが運ばれてきました。青のりと鰹節が食欲を誘います。一口かき込んだ久住さん「うまいねぇ」と満面の笑み。デザートは、大将がぜひ、とすすめてくれたソフトクリームと抹茶ソフト。ソフトは小さくてほどよいサイズ感。実はこのお店、ソフトクリーム製造機を日本でも最初期に導入。一般的なソフトクリームは☆型の口金ですが、こちらは当時のまま□型。だから赤ちゃんの指のような、可愛らしいフォルムになってます。抹茶ソフトを一口食べた久住さん。思わず「苦い!」。抹茶風味でなく本物の抹茶。その苦味とソフトクリームの甘みが波のように口の中に押し寄せます。グラスの下に残った抹茶も残らず飲み干した久住さん。「これは新鮮な体験だね」と渋い笑顔です。
腹ごなしの散歩がてら門司中央市場へ。狭い通路の両脇には2階建ての建物が並びます。狭い路地裏に屋根をかけたようなイメージ。シャッターの閉まった場所も多いですが、ところどころ出来たばかりの面白そうなお店がオープンしています。ぶらぶらと歩くこと6km。門司港を堪能して小倉に戻ります。
旅の最後は小倉駅近くの鰻の名店「I」へ。社長のOさんがわざわざ待ち構えていてくれました。ビールで軽く乾杯。まずは「鰻の燻製」。煙に包まれることで鰻の旨味が凝縮。りんごの木のほのかな香りと木の芽が食欲をそそります。某有名日本酒のスパークリングがグラスに注がれます。「んー、うまくてマズイ!!ちょっと大変な組み合わせですねぇ。これは永久運動になりそうだな…」と久住さん。淡水で育つ寿泉海苔の不思議な歯ごたえが印象的な酢の物「うざく」でさらにお酒がすすみます。「さっぱりして”夏い”なぁ」。
じっくり焼かれる鰻を待つ間、Oさんがイタリア北部の鰻まつりに参加したエピソードなど、いろんな話を聞かせてくれました。単なるうんちくではない、自ら足を運んで理解した”知恵”に久住さんも興味津々。
そして「蒲焼き」が登場。久住さんが山椒を一振りした瞬間「鮮やかな緑色ですね。すっごい香りがいい!しかもあまりピリピリしない」と驚く。Oさんが「山椒は日本一の山椒屋さんと組んで、このお店に合うものを用意してもらいまいました。毎晩、冷凍庫に入れて管理しています。この鰻は台湾産の最高級の養殖物です。天然も養殖もそれぞれの良さがあります。養殖でもきちんと環境を整えて丁寧に時間をかけて飼育しているところは、味もきちんとしています」と教えてくれました。
さぁいよいよ「鰻重」。蓋を開けると圧倒的な貫禄の鰻でびっしりと詰まっています。
「並べ方も独特ですね。食べ物はあまりスマホで撮らないけど、これは撮っちゃうな…。鰻の香りが素晴らしい。これ…ウマイ…ウマイなぁ…」と久住さん、夢中で食べます。「私が焼いたらもっと美味しんですけどね。これは有明海産の天然鰻。蒸すと味が外に出ていくので、焼きだけで火を通しています。火を食べさせる独自の技術です。敢えて面倒臭いことをやっています」と笑顔のOさん。養殖に比べ淡白なイメージの天然物ですが、”火を食べさせる”ことで鰻本来の旨味が凝縮。皮目はパリッ、中はふっくらと違う食感が楽しめます。久住さんも「いやーすごい美味しかった。鰻の味が濃厚で、初めての体験でした」と大満足。
最後に歩きながら久住さんに聞きました。二度目の北九州市はどうでしたか?「地元の人に愛されて、古いものが残っていましたね。それだけじゃなくて、若い人たちのアイデアがちゃんと活かされている。港町の雰囲気もよかったです」。旅先で良い店を探すポイントってなんでしょう?
「そういうのが良くないよ!それは”時短”の考え方。視界を狭めちゃいます。全方位を見ることが重要。事前に調べないで、良く見て、良く歩いて、良く考える。お店の面構えからいろいろ想像して入るかどうか決める。ずっとやっている店でも最近改装したばかりというケースもあります。それは分かるときも分からないときもある。失敗もあるけどそれも楽しんでいます」。北九州の街には地元に愛されているお店や空間がたくさんあります。ガイドブックやスマホはちょっと置いて、興味のおもむくまま「孤独のグルメ」気分で、ぶらぶら歩きながら、自分の視点で面白そうなお店を探してみましょう!
●2日目に訪問したお店情報
旧門司三井倶楽部…門司区港町7-1/093-321-4151(門司港レトロ総合インフォメーション)/9:00〜17:00/ 無休/2階のみ有料(大人100円、小中学生50円)
門司港レトロ展望台…門司区東港町1-32/093-321-4151(門司港レトロ総合インフォメーション)/
10:00〜22:00(最終入館21:30、カフェは20:30 O.S.)/年4日不定休/ 大人 300円、小中学生 150円
魚住酒店…門司区清滝4-2-35/093-332-1122/9:00~21:00/無休
三宜楼…門司区清滝3-6-8/093-321-2653/10:00〜17:00/月休(祝祭日の場合は翌日)
梅月…門司区栄町1-10/093-321-1344/平日11:45~19:00、土・祝日11:45~18:00/日休
田舎庵 小倉本店…小倉北区鍛冶町1-1-13/093-551-0851/11:00~21:30(21:00 ラストオーダー)