連載
#39 夜廻り猫
「ママが死んだ」みんなが思うよりボロボロで 夜廻り猫が描く心の傷
河川敷にぽつんと座り込む女の子が、打ち明けます。「先週、ママが死んだんだ」――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「心の傷」を描きました。
心の涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵は、川を見つめながら座る女の子に声をかけます。
「おまいさん、涙の匂いがする…」
女の子は、先週、病気で母親を亡くしました。
忌引きが明けて学校へ行くと、クラスメートが「大変だったねー…大丈夫!?」と声をかけてきました。
「それが…」と思いを打ち明けようとしますが、クラスメートは「あ、ねぇ ジャージ持ってきた?」と、すぐに話を変えます。
「夜とか寂しくない?行ったげよっか」「で、ゲーム」
「元気出して!」「親が死ぬとかうちならムリー」
女の子は、「みんなが思うよりボロボロなんだ テンション合わせるのはつらい」と本音をこぼします。
「家族が死ぬって手足をもがれるようなもんだよ でも言えない 何か言えば叫んじゃいそうで」
でも、ふと我に返った女の子は、「……なんて 私も先週まで知らなかったけどね」と言って口元を緩めます。
遠藤と子猫の重郎は、そばにそっと寄り添うのでした。
作者の深谷さんは、身内の不幸が続いたといいます。
「私はもう還暦近いので覚悟せねばならないことですが、子どもの頃や若いうちにご家族を亡くした人もいたことを思います」
年を重ねても、家族の不幸を受け止めるのはつらいことです。心持ちの違う「励ましの言葉」はかえってつらいことも。
深谷さんは「子どもの頃にそんな体験をした人はどんなに負担だったでしょうか。今更ながら、家族を亡くした友達に、自分が心ない励ましを言ったんじゃないか、と思います」と振り返ります。
「人の痛手を小さく想定してはいけない、『自分には分からない』ことを忘れてはいけないと思います」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本6巻(講談社)が11月22日に発売予定。
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