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佐賀県の自虐、ついにゾンビまで…県の担当者がケロッとしている理由
ゾンビ化した少女たちがアイドルとなって佐賀を救う――。そんなアニメ「ゾンビランドサガ」が話題です。10月に始まった第1話。佐賀はいきなり「存在自体が風前のともしび」といじられましたが、エンディングにはなんと「企画協力 佐賀県」のクレジットが。えっ、県が協力して大丈夫なの? 県広報広聴課で作品を担当する近野顕次係長(37)に、協力の経緯や自虐ネタへの思いなどを聞いてみました。(朝日新聞佐賀総局記者・黒田健朗)
――佐賀が舞台と知りびっくり、県が協力と知って二度びっくりしました
2016年春、県のフィルムコミッションに製作委員会側から「『ゾンビ』『アイドル』『佐賀』を題材としたアニメの脚本を作っている。自分たちのイメージしている場所を提案してほしい」と話がありました。フィルムコミッションの職員がロケハンに同行し、佐賀市内や唐津市内などを1泊2日くらいで回った。
――その後は
シナリオは見せてもらった。ただ、脚本やシナリオに口を出すことは一切していません。僕たちの範疇(はん・ちゅう)ではないので。どういう市町や観光地、県産品が出ているかをチェックしました。
――劇中では「存在自体が風前のともしびである佐賀」といじられていますが……
細かい自虐ネタは全く気にしなかったですね。
――えっ、気にしなかったんですか!?
例えば映画やドラマで殺人事件のシーンがあるからといって支援しないということはない。それと一緒で、アニメに自虐ネタがあるから支援しないということではない。
それよりも「ユーリ!!! on ICE」や「この世界の片隅に」で知られる(アニメ制作・企画会社の)「MAPPA」(マッパ)と、「Cygames」(サイゲームス)、「エイベックス・ピクチャーズ」という3社が製作委員会で「30分×12話、オール佐賀」。いいPRになると考えていました。
――劇中にはJR唐津駅や佐賀城本丸歴史館なども登場します
スタッフの「佐賀県を盛り上げたい」という熱い思いも強く感じる。佐賀の風景を写真のようにしっかり描き起こしてくれるなど、力の入れ具合がすごい。
――アニメの原作者の名前が「広報広聴課ゾンビ係」というのは、まさに「佐賀県広報広聴課」からでしょうか
そういうことだと思います。ただ、たまに「佐賀県が原作者なんですか」「お金払っているんですか」と聞かれるので、一般視聴者が間違わないかなと(笑)。
――放映のたびにネット上をにぎわせていますが、県内での反響は
声優さんが見た「肥前さが幕末維新博覧会」のコメントの展示について問い合わせがあったり、(ゾンビアイドルたちが暮らす建物のモデルになった)唐津市歴史民俗資料館にも既にファンの方が見に来たりしている。反響の大きさを感じます。
――第2話にはかつてあった「寿通り商店街」(佐賀市)が登場しました。エンディング曲の最後の方にも商店街にあった喫茶店「ボガ」が出てきます
アニメを通して懐かしむことができるのは意義がある。ノスタルジーに浸れるというか。アニメの中では永遠に存在し続けるんだろうなと思います。
――10月に発表されたブランド総合研究所(東京)の「地域ブランド調査2018」では、佐賀は47都道府県の魅力度ランキングで44位タイでした。ゾンビランドサガで反転攻勢なるでしょうか
ランキングはあまり気にしていないが、参考にはしている。アニメを見て順位が一つでも二つでも上がれば。
――作品に対する思いを
県民にも見てもらいたいですね。みなさんにとってよくある風景でも、アニメを通してみるとまた良さが変わって見える。県民も知らないような所もたぶん出てくる。県の魅力を再発見できると思う。そして全国から来たファンに、県民が温かくアニメについて話してくれるような雰囲気ができれば。
――ところで近野さんは11月初めに放送された第5話で、鶏料理で有名な伊万里市の名店「ドライブイン鳥」のキャラ「コッコくん」の声役で出演。まさかの声優デビューも果たしましたね
東京のアフレコ現場に行った時に急きょオファーがあり、「佐賀のために一役買えれば」という思いで出演しました。監督から「感情を込めて」と指導を受け、「コッ」というセリフを何回か言いました。上司に言うタイミングがなくて、後で報告したんです。
――怒られませんでした?
報告したら、「あ、近野くん出ていたんだ。楽しみだね」と言ってくれました(笑)。
――出演してみていかがでしたか
めちゃくちゃ緊張したし、恥ずかしかった。自分は声優には向いていません……。
――ちなみに近野さんの「推しキャラ」は
僕は(一世を風靡した伝説のアイドルとの設定という)紺野純子ちゃん推しです! 名字の読みが同じなので(笑)。
今回、取材をした私は、入社後、大好きなアニメとは縁遠い生活を長らく送っていましたが、「ゾンビランドサガ」は2年半暮らす佐賀への愛着もあって、久々にリアルタイムで毎話見るほどハマってしまいました。
佐賀県はこれまでもアニメやゲームなどとの共同企画に力を入れてきました。
始まりはスクウェア・エニックスの人気ゲーム「サガ」シリーズとコラボした「ロマンシング佐賀」。ゲーム画面を模した公式サイトをネットで公開したほか、2014年3月に東京・六本木で開かれたイベントでは、キャラクターの絵が入った有田焼の皿の展示などがあり、4日間で約7千人が訪れました。
その後もゲーム「スプラトゥーン」、アニメ「おそ松さん」「ユーリ!!! on ICE」「ポケットモンスター」「銀魂」などと組み、話題づくりに努めています。
県は「サガプライズ!」と題したPR事業を展開しており、東京・南青山に県広報広聴課の「サガプライズ! プロデュースオフィス」を置いています。
ここで共同企画を手がけてきた担当者は「佐賀と首都圏は物理的距離も心理的距離も遠い」。そして「有田焼や吉野ケ里遺跡というワードは知っていても、それが佐賀だと知らない人が多い。人気があるコンテンツのファンの方のコミュニティーに攻め込むような情報発信をしている」と語ります。
一方、民間の魅力度ランキングでは下位に低迷しているという現実も。今年は明治維新150年。かつて薩長土肥(薩摩=鹿児島、長州=山口、土佐=高知、肥前=佐賀)の一角だった佐賀がゾンビに再起をかけています。
実は近野さんは北海道釧路市出身で、東京の広告関係の会社から佐賀県庁に転職しました。
「東京に10年住んで、縁もゆかりもない佐賀に来た」と言う近野さん。「正直、佐賀のイメージってはなわさんの歌のイメージしかなかったんです」と明かします。
ところが佐賀で生活する中で、武雄神社(武雄市)の大楠や、嬉野温泉(嬉野市)や、祐徳稲荷神社(鹿島市)や、有田焼など、魅力をどんどん見つけていったそうです。
「僕に情報がなかっただけで、こんなにいい物があるんだ、ポテンシャルがあるんだと思った。ゾンビランドサガに出ている場所は魅力的なところばかり。実際に来てもらったら、佐賀の魅力がわかると思います」と断言します。
地味と言われることが多い佐賀ですが、私も、近野さんが言うようにアニメで魅力を再発見するとともに、今後県内の「聖地」巡礼に励んでいきたいと思いをあらたにしました。ちなみに私は「ゾンビランドサガ」で唐津弁をしゃべる「がばいかわいい方言女子」、主人公の源さくらちゃん推しです。
◇
<ゾンビランドサガ>10月上旬からインターネットテレビ局「AbemaTV」(木曜23時半)や「TOKYO MX」(木曜24時)、地元サガテレビ(金曜25時25分)などで放映中。第1話の開始早々、主人公の源さくらは軽トラックではねられる。ゾンビになってしまったさくらは他の6人のゾンビ少女たちとアイドルとなり、「存在自体が風前のともしびである佐賀」を救うため奮闘するのだった――。劇中に登場するゾンビのアイドルグループ「フランシュシュ」は佐賀県のPR大使に任命された。
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