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下町・三ノ輪に現れた小さなスペース undōの視点~アラ爆な人々
川村庸子さんは、三ノ輪にあるオルタナティブスペース「undō」代表で編集者です。今、場を持つ意味とは、作家とは違った視点も見えてきます。
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川村庸子さんは、三ノ輪にあるオルタナティブスペース「undō」代表で編集者です。今、場を持つ意味とは、作家とは違った視点も見えてきます。
「芸術は爆発だー」ということで、芸術界隈→アラウンド爆発→アラ爆。知名度の点で、爆発的に人気が出る前後という意味も込めています。今後の芸術界を担うかもしれないアーティストやキュレーターの方々に、テレホンショッキング形式で次の人を紹介してもらいながら会いに行きます。
今回は前回の学芸員・真子みほさんから紹介いただいた川村庸子さんです。オルタナティブスペース「undō(運動/ウンドウ)」代表で編集者でもあります。2人は共通の友人を通して知り合い、今では互いの場を行き来し、刺激し合う関係を築いているそうです。
早速お話をうかがいに、川村さんが運営する「undō(運動/ウンドウ)」へ向かいました。
東京・三ノ輪駅から明治通り沿いを3分ほど歩いたところにある白い小さなビル「undō」。昭和の香りを残す木枠の扉は、以前この建物が自転車屋さんだった頃の名残り。天気のいい昼間には気持ちのよい光が注ぐ。
中をのぞくと、白い壁にイラストレーター・ナガノチサトさんの「食べることのおかしみやかなしみ」を描いたドローイングが飾られ、その前で、代表の川村庸子さんが、きょう初めて立ち寄ったという女性と話をしていた。
undōはカフェ・バーとしての機能も備えながら、若手作家を中心に作品を展示、時にはマジックショーや音楽ライブなどのイベントも行う、いわゆるオルタナティブスペースだ。大通りに面した立地もあって、この日のように、作品や空間の雰囲気にひかれ、ふらっと入ってきた人と話が始まることもしばしば。展示は、作家と川村さんらが企画へ向け「両おもい」にならないと進めないといい、作家と話し合う過程も大切にしている。
川村さんは、大学在学中から9年間働いたという企画制作会社を辞め、今年5月、友人と4人で「undō」を始めた。
企画制作会社ではwebや紙媒体での企画・編集を担当。その他にも、まちのいたるところで誰もが先生・生徒になり講座を開く「シブヤ大学」の企画・運営なども行い、渋谷以外にも全国各地の町づくり事業に携わった。充実した日々だったが、同時に、小さな会社の中での「末娘」的立場に安住することや、仕事に忙殺される日々に疑問も感じ、会社を辞めることを決意した。将来について考え始めた時、友人との会話の中で出た「スペースを持つ」という構想に「きっと誰かがやらないと進まない。それなら私がやろう」と腹をきめた。
まちづくりに携わる中で、場を持つことで生まれる可能性を感じたことも大きかった。まちに一つでもいい店があると、そこでつながるはずのなかった人同士がつながり、自然と新しい動きが生まれる感覚があった。
ギャラリーが既に集まるまちではなく、固まったイメージのない三ノ輪でいい物件を見つけた。通常のギャラリーや美術館のように作家からの作品の買い上げはなく、契約する作家もいない。だが引け目は感じていない。「どこにも属さないわたしたちだからこそできるものがあると思う。ここに来れば何かがある、そんな磁場のようなものを生んでいきたい」。
小さなスペースで展示する作品は、知り合いの作家を始め20~30代の作家が中心だ。作家と話しながら企画を決めるため、思いがけず作家にとっても新しい展示になることもある。小説を書いている作家の友人に「本棚展」の企画をお願いしようとしていたところ、話しているうちに、小説からこぼれ落ちてしまう言葉を小説以外のかたちで出そうと、文章を展示する企画になったことも。他にはない展示を評価してか、「常連さん」もついてきた。美術界で働く上の世代の人も「(業界内にいると)名の通った賞を取った若手の情報しか入らないから」と新しい発見を求め、のぞきに来るという。
前職での経験から、川村さんはundō 運営の傍ら、フリーで編集・執筆の仕事もしている。今後は、undōで展示した作家・作品をアーティストファイルとして冊子にまとめ、海外のギャラリーなどに置くなどして「undōのメディアとしての機能を高めていきたい」という。周辺には、ギャラリーやアンティークショップなどもあるといい、まちの魅力を伝える三ノ輪マップも制作中だ。
「大義にむかって進むというよりは、何か起きたらその都度応答していける存在でありたい」という川村さん。実は「undō」という名称も、場所の名前というより「ずっと運動し続ける」という自分たちの選手宣誓だという。肩の力は抜きながら、好きな人たちと、自分たちらしく進んでいくつもりだ。