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絵本『OSECHI』に見る日本の文化 「おせち」の願いは世界にも
日本語の絵本『おせち』は16万部を超えるベストセラーになりました
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日本語の絵本『おせち』は16万部を超えるベストセラーになりました
本物そっくりのおいしそうなイラストとともに、おせち料理に込められた「願い」を描いた絵本『おせち』(福音館書店)。異例の早さで重版やハードカバー化が決まり、16万部を超えるベストセラーとなっています。
絵本の発売直後から「英語版」を望む声も寄せられ、2025年10月には『OSECHI Food for the New Year』が発売されました。
おせち料理は日本の文化ですが、そこに込められた「願い」は世界に通じるものでした。
絵本『おせち』(文・絵 内田有美/料理 満留<みつどめ>邦子/監修 三浦康子)は、おせちのイラストとともに、子孫繁栄や無病息災など料理に込められた「願い」について書かれています。
2023年12月、福音館書店が毎月発行する4〜5歳を対象にした月刊絵本「こどものとも年中向き」として刊行されました。
発売後10日で品切れになったため増刷されましたが、すぐに完売。翌2024年11月にハードカバーとして刊行されました。
福音館書店の絵本は、「ぐりとぐら」シリーズをはじめ、「だるまちゃん」シリーズや『はじめてのおつかい』など、月刊絵本として反響のあった作品がハードカバーで出版されています。
しかし、月刊絵本の刊行から1年経たずしてのハードカバー化は、福音館書店にとって異例の早さでした。
『おせち』の読者は子どもから高齢者まで幅広く、2025年12月時点で10刷16万部を超えるベストセラーとなっています。
2025年10月に発売した『OSECHI Food for the New Year』も、初版1万4000部発行されています。
英語版『OSECHI』が誕生した背景には、読者や児童書専門店からの要望がありました。ハードカバーが発売されたときから英語版を望む声が寄せられていたといいます。
文と絵を担当した内田有美さんも、当初から英語版を作って海外の人に届けたいという思いがあったそうです。
しかし、「くろまめ ぴかぴか あまい まめ まめまめしく くらせますように」など、語感の遊びを英訳できるのか、編集部としては難しさも感じていたといいます。
そんななか、編集部は2025年の春にアメリカ出身で日本在住の詩人、アーサー・ビナードさんに英訳を依頼することにしました。
ビナードさんはアメリカの大学で英文学を学んだ後、来日して日本語での詩作を始めました。2001年に詩集『釣り上げては』(思潮社)で中原中也賞を受賞するほか、絵本の翻訳も数多く手掛けています。
書籍編集部で絵本『おせち』を担当する関根里江さんは、「日本語が堪能で詩人でもあるビナードさんでしたら、言葉のイメージを追加して英訳してくださるかなという思いがありました」と話します。
ビナードさんは福音館書店から依頼を受ける前、『おせち』を読んだ一般読者から「英訳してください」と勧められたことがあり、縁を感じたそうです。
英語版は、日本に住む海外の人や留学生、外国人観光客といった英語を母語とする人向けに作られていますが、日本の中学生以上の子どもたちにも理解できる内容です。
もちろん、日本語の『おせち』を直訳したわけではありません。
ビナードさんは英文のリズムをよくしたり、文と絵のレイアウトが美しくなるように何度も英訳をブラッシュアップしていたといいます。
例えば、日本語の『おせち』で「くろまめ ぴかぴか あまい まめ まめまめしく くらせますように」と書かれた黒豆。ビナードさんは「jewels(宝石)」に見立てて次のように表現しました。
「Sweet black beans shine like precious jewels. What's the best treasure of all? To be healthy throughout the year.(甘い黒豆は宝石のように輝きます。最高の宝物は何でしょうか? 1年中、健康でいることです。)」
また、「ゆずり ゆずられ つづく ゆずりは」と抽象的な表現になっているゆずり葉のページは、次のように訳されました。
「Yuzuriha daphne grow new leaves before the old ones drop off. May prosperity pass smoothly from old to young.(ゆずり葉は、古い葉が落ちる前に新しい葉を出します。上の世代から若い世代へとスムーズに豊かさが受け継がれますように。)」
ゆずり葉は、新しい葉が出るときに古い葉が譲るように落ちる様子から、「世代交代して家系が絶えず続いていく」ことを願う縁起物です。
日本語の『おせち』では何を譲るのか明言されていませんでした。
ビナードさんは編集部と話し合うなかで「Well-being(心身だけでなく社会的にもよい状態)」や「happiness(幸せ)」という候補を経て、心の豊かさも含めた財産を意味する「prosperity(繁栄・豊かさ)」を選んだそうです。
絵本『おせち』のプロモーションを担当する営業推進部の大島麻央さんは、「『譲る』という言葉には家族がずっとつながっていく、子孫繁栄という意味も込められています。ビナードさんがその含みを持つ英語にたどりついて、日本語と英語のつながりを見いだしてくださいました」と話します。
2025年12月中旬に開かれた福音館書店のインスタライブでは、ビナードさんが次のように語りました。
「『おせち』はストーリーがないはずの絵本だけど、料理のひとつひとつの奥にストーリーに近い願いや祈り、思いがあり、物語を感じます」
「『おせち』の絵は万人を招き入れる工夫があります。例えば、黒豆を見たら予備知識や経験がなくても『なんだろう?』と呼び込む力があると思います」
「おせちは日本のマニアックなものだと思っていましたが、奥にあるひとつひとつの思いに到達したら国は関係ない、普遍的なものでした。我が子や親、周りの人が健康であることを祈る文化とつながります」
編集部の関根さんは「ビナードさんは『おせち』の世界を再構築してくれました」と話します。
「『OSECHI』はすごく考え抜かれた英語です。言葉選びやリズムがとてもいいので、声に出して読んでいただきたいですし、新たなイメージがわいてくると思います。おせち料理の良さを英語で楽しむことによって、また別の角度から文化を味わえる。海外の方と一緒に楽しむ機会があると、より素敵なんじゃないかなと思います」
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