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IT・科学

あなたも〝たくろう〟目指せるかも?「漫才カラオケ」大学院生が発明

漫才カラオケの画面
漫才カラオケの画面 出典: 小松さん提供

目次

忘年会の余興で漫才をしたい人に朗報です。M-1グランプリの激闘を見て、第二のたくろうになりたいと思った人はいませんか?でも、いきなり初心者が漫才を演じるのは難しいですよね。そんな人を応援しようと、M-1グランプリに出場してしまったほど漫才を愛する国立大学の大学院生が、漫才カラオケなる新しいシステムを発明しました。

セリフと演じ方が一目で分かる

漫才カラオケとはどんなシステムなのでしょうか。
搭載されている漫才のセリフをもとに紹介します。

ボ)どうもーリサーチャーズです、お願いします。
ツ)お願いします。
ボ)あの、コンソメコンピューティング当日ってことでな。
ツ)いやエンタメやろ!
ボ)皆さんにぜひ紹介したい研究があんねん。
ツ)はいはい
ボ)「漫才カラオケ」っていうねやけど。
ツ)あっ、漫才カラオケな!今僕たちが実際に使っているシステムやね。
ボ)どういうシステムかていうと。
ツ)はいはい。
ボ)使うと誰でも参拝できるシステムやねんな。
ツ)漫才やろ!なんで参拝すんねん 誰でも漫才を実演できるようにするんやろ?

画面上にボケ・ツッコミに対応した二つの譜面レーンが存在し、漫才のセリフ、抑揚、感情、動作、タイミングを視覚的に提示します。それと同時に、ボケ・ツッコミそれぞれの全ての動作を背景のアバターが教えてくれます。

セリフや喜怒哀楽を指示してくれる
セリフや喜怒哀楽を指示してくれる 出典: 小松さん提供

喜怒哀楽も指示してくれます。怒りながら言った方がいいセリフには、「怒りマーク」が出現します。

漫才ネタのセリフや演じ方を画面上に提示することで、ネタを暗記する必要もなく、画面の指示に従うだけで漫才特有のボケやツッコミを体験することができる画期的なシステムです。

ちなみに、セリフ中のボとかツというのは、ボ=ボケ、ツ=ツッコミのこと。「エンタメコンピューティング」は、研究を発表した学会の名前です。

2019年の王者にあこがれ

漫才カラオケを発明したのは、名古屋大学大学院工学研究科の博士前期課程で情報・通信工学を専攻する大学院生の小松駿太さん、窪田智徳助教、小川浩平准教授らの研究チームです。

漫才カラオケの研究成果は二つの学会で発表され、うち「エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2025」では、「対話発表賞」を含む五つの賞を受賞しました。

チームの中核を担った小松さんは小学生の頃からお笑いが好きで、出し物大会でコントを披露するなど、芸人に憧れていました。学業の傍ら、18歳から漫才を始め、漫才歴は5年になります。

漫才カラオケの実演風景
漫才カラオケの実演風景 出典: 小松さん提供

本格的に漫才を始めたきっかけは、ある漫才師へのあこがれだったといいます。
「私が漫才を始めた決定的なきっかけは、2019年のM-1グランプリでミルクボーイさんの漫才を見たことです。言葉の掛け合いによって、あれだけ人を爆笑させる力に衝撃を受け、その日の夜に初めて漫才の台本を書きました」

あこがれが高じて同級生と漫才コンビを結成し、M-1グランプリにも出場しました。

そうした漫才への熱い思いを、発明へと昇華したそうです。
「私自身、M-1グランプリに出場するほど漫才が好きで、漫才に関連した研究がしたいという思いが根本にありました。いろいろ試行錯誤したところ、そもそも人が漫才を実演するのは難しく、未経験者でも漫才を演じることを可能にすることが出来たら面白いのではないかと考え、漫才カラオケを着想しました」

自らネタ執筆、微妙なニュアンスも再現

漫才カラオケでは、ツッコミ役とボケ役の2人に対して、セリフ、抑揚、感情、動作を画面上にリアルタイムで提示します。画面上ではセリフや動作が右から左へ流れ、画面に現れる指示通りに話したり動いたりすれば、タイミングの合った漫才になるという仕組みです。

セリフは、発話する内容をツッコミ役・ボケ役に分けて提示します。抑揚は、セリフの音程を文字の縦位置を5段階に分けることで、わかりやすく理解できるようにしました。

感情は、喜怒哀楽の4種類を文字フォントや視覚エフェクト(怒りマークなど)で指示します。動作は、アバターが教えてくれます。

システムに搭載されているネタは5種類で、うち4種類は小松さんが自分で考えたネタです。小松さんたちと共同で研究を行っており、自らのネタの著作権フリー化をしている漫才師・オシエルズさんのネタも入っています。

漫才特有の微妙なニュアンスを反映するために、小松さんが実演動画を注意深く分析して、「譜面」を作成しました。

文字フォントで喜怒哀楽を指示する
文字フォントで喜怒哀楽を指示する 出典: 小松さん提供

漫才を画面上に落とし込む上で最も苦労したのは、漫才実演支援において「どんな要素をどのように提示すれば良いか?」という課題を解くことです。

この課題を克服するために、二段階の試作とユーザー調査を実施しました。

第一段階では、「セリフ・抑揚・発話タイミング」を提示するシステムを作成しましたが、他の学生に試しに使ってもらったところ、「どう感情を込めたらいいのか分からない」「動作はどうしたらいいのか」という意見があったため、感情や動作を指示する要素を付け加えたそうです。

「胸をたたく・のけ反るなど特徴的な動作で、『このセリフを言うときにどんな動作をすればよいか』をイラストで提示する動作カードと、全ての動作を再現した動作アバターを追加しました」

漫才カラオケを実際に使ってもらう実験で、未経験者でもスムーズに漫才を演じることができることを確認しました。体験した人からは、「聴衆を笑わせることは気持ちよかった」、「自分が面白い人間であるかのように錯覚した」といった感想が寄せられたそうです。

漫才文化を盛り上げたい

漫才カラオケは、ただ漫才を演じることを楽しむだけではなく、漫才という一つの文化を盛り上げていくことにもつながると考えています。

「もしこれが実現できれば、漫才を演じて楽しむ新しいエンタメ体験の創出につながり、実際にカラオケに実装されれば、漫才ネタの作者に印税が入る仕組みも生まれるかもしれない。そうしたインパクトもあるのではないかと思っています」

今回のカラオケ漫才のスタイルは「しゃべくり漫才」ですが、「今後は、掛け合いのテンポが速いネタや身体動作がより大きなネタなど、さまざまなスタイルも取り入れたいと考えています」

漫才カラオケは現状、残念ながら小松さんが所属する研究室でのみ使用できます。しかし、開発が順調に進めば、楽しめる場所が生まれるかもしれません。
「将来的には、多くの方に実際に体験していただけるよう今後も研究に励んでいきます」

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