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学校に行けなかった中学3年生 工作を通して気付いた〝学びの意味〟

TVチャンピオンで優勝し、父と工作ユニットをはじめました

中学1年生の時、父親(右)の助手として『TVチャンピオン』に出場し、優勝を果たしました
中学1年生の時、父親(右)の助手として『TVチャンピオン』に出場し、優勝を果たしました 出典: オダカマサキさん提供

目次

得意な紙工作を通して、学ぶことの意味に気づいたーー。小学校低学年から不登校気味だった中学3年生が、この夏、父親と工作の本を出版しました。

父親と工作ユニットを立ち上げ、編集会議やメーカーとの打ち合わせにも参加。「学校では教えてくれないこともある」と思ったこともありましたが、本作りを通して「基礎」を学ぶ大切さを実感しました。制作期間中、少しずつ学校に行く頻度が増えてきたといいます。

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「もっとすごいものを作りたい」

埼玉県に住む中学3年生のオダカイブキさん(15)は、幼稚園のころから工作が得意です。小学校1年生のときに粘土で作ったドラゴンは、「お父さんが作ったでしょ?」と学校で疑われるほどでした。

父親のマサキさん(48)もものづくりが得意で、家には工作用のハサミや粘土ベラなどたくさんの道具がありました。マサキさんは2017年から、メーカーで働きながらダンボールアーティストとしても活躍しています。

イブキさんは幼い頃、マサキさんの友人のペーパーアーティストに憧れて「自分でもできそうだな」と紙工作の道具を買ったといいます。

「工作が大好き、楽しい」という感情よりも、「もっとすごいものを作りたい、『本物』を再現したい」という思いが強く、時間があれば1日中作品づくりに没頭しているそうです。現在の実力は「55点くらい」。さらなる高みをめざしています。

優勝が「大きな成功体験」に

2023年12月、テレビ東京『TVチャンピオン3』の「ダンボールアート王選手権」に、父・マサキさんの助手として当時中学1年生のイブキさんも出場。見事、親子で優勝を果たしました。

イブキさんは、学校は好きだったものの、小学校低学年のころから体調を崩して起きられないことがあり、学校から足が遠のいていました。中学入学後も通える日は限られていたそうです。

しかし、この優勝はイブキさんにとって「大きな成功体験」となり、友人や教師の間でもその実力が広く知られるようになりました。

中学2年生のときには、教師に勧められて中学校でワークショップを開いたり、マサキさんと親子2人の作品展を開催したり、紙工作の活動を続けています。

中学1年生の時、父・マサキさんの助手として『TVチャンピオン』に出場し、優勝を果たしました
中学1年生の時、父・マサキさんの助手として『TVチャンピオン』に出場し、優勝を果たしました 出典: オダカマサキさん提供

親子で立ち上げた工作ユニット

昨年イブキさんとマサキさんは、法人格を持たない架空の会社として、工作ユニットの「カカポ」を立ち上げました。

きっかけは、「一緒に仕事がしたい」というイブキさんのひと言です。『TVチャンピオン』への出演を機に、アーティスト活動に興味を持ったのだといいます。

マサキさんは「僕の活動に興味を持ってくれていたんだ」という喜びと驚きの半面、「イブキは学校に行けていないので、アーティスト活動に専念するとさらに学習に影響するのではないか」と迷いがあったそうです。

しかし、イブキさんと相談を重ね「新しいチャレンジが何かのきっかけになれば」と「カカポ」を作りました。

「カカポ」の名付け親はイブキさんです。ニュージーランド固有の空を飛べないオウムに由来します。

社名を考えるとき、イブキさんは「カカポがなんで飛べないか知っている? 敵がいなくて飛べなくなったんだよ。僕らも敵のいない、強い工作会社を作ろうよ」と提案したそうです。

マサキさんは「CKO(チーフ・コウサク・オフィサー)」、イブキさんは「フクシャチョウ」となりました。イブキさんの気合を感じたマサキさんは、「事業計画書」も作りました。

紙工作やアーティスト活動は「アート事業」、ワークショップや展示会は「イベント事業」、書籍の出版は「出版事業」、YouTubeでの発信やメディアへの出演は「メディア事業」。

もちろん事業を進める際は2人で相談します。ここでは親子の関係ではなく、ビジネスパートナー。会社のしくみやお金の動き、スケジュールといった仕事に関する話もするそうです。

イブキさんが作ったシャチホコ(左)とマサキさんが作ったシャチホコ
イブキさんが作ったシャチホコ(左)とマサキさんが作ったシャチホコ 出典: オダカマサキさん提供

親子で初の共著を出版

ことし8月には、イブキさんとマサキさんの初めての共著『紙工作の教科書』(新紀元社)が出版されました。「ただ作るだけではなく、工作道具を安全に使いながら、親子で楽しく学ぶ」がコンセプトです。

前半ではハサミやカッターナイフ、接着剤の使い方や保管方法を丁寧に説明。後半では、難易度別に、うさぎやネコといった「ビギナー」や「チャレンジ」、トリケラトプスの骨格やシーラカンスといった「マスター」などに分けて作品の作り方を紹介しています。

「ビギナー」と「チャレンジ」の作品の多くは、イブキさんが制作しました。

マサキさんは、「この本のきっかけはイブキなんです」と話します。

昨年の秋、出版社から「道具にフォーカスして、工作の間口を広げられるような本を作りたい。オダカさん親子に書いてほしい」と打診がありました。マサキさんが企画書を作ってイブキさんに内容を伝えると、「そんな本じゃダメだよ」と指摘されたそうです。

マサキさんは、「技術や知識を書くつもりでいましたが、イブキは『もっと本質を伝える本にしたい』と言い出したんです」と振り返ります。

ふたりの共著『紙工作の教科書』
ふたりの共著『紙工作の教科書』 出典:オダカマサキさん提供

学校では教えてくれなかったから

イブキさんは、「授業で使ってもらえるような本にしたい」と提案しました。背景には、自身の経験があります。

中学校でワークショップの講師を務めたとき、教師も生徒も、ハサミを使いこなせていない光景にショックを受けたといいます。なかには園児用の小さなハサミを使う生徒もいたそうです。

教師は「ハサミを相手に渡すときは、刃を向けて渡してはいけません。刃を持って渡しましょう」と教えてくれました。しかし、イブキさんは「学校ではなんで刃を向けて渡したらいけないのか、教えてくれないんだ」とマサキさんにもらしたそうです。

イブキさんは「学校で教わることはない」と思うほどだったと打ち明けたといいます。その経験があったからこそ、『紙工作の教科書』では「注意点」だけでなく「注意が必要な理由」も書きました。

本のメイン読者は小学生の親子を想定していますが、イブキさんは「世代を問わず、これから紙工作を始めたいと思っている人全員に読んでもらいたい、入門編の本です」と話します。

ふたりの共著『紙工作の教科書』
ふたりの共著『紙工作の教科書』 出典:オダカマサキさん提供

メーカーの担当者と名刺交換も

本を作るにあたっては、監修してくれた道具メーカーの担当者や出版社の編集者と打ち合わせを重ねました。対面での会議に備え、前夜には名刺交換の練習もしたそうです。

しかし、まだ中学3年生。教えられても、父のようにすべては理解しきれません。

「僕はあまり考えることが得意ではないし、お父さんと同じレベルではできない。だから、今日は何の作業をする、何をいつまでにやってほしいか、僕がわかるように説明してください」

イブキさんは、マサキさんに素直に伝えました。マサキさんは、「『わからない・できない』は、会社員でもなかなか言えないことなので印象に残っています」と振り返ります。

イブキさんのやる気が起きない日もありましたが、マサキさんが声をかけながら8カ月かけて完成させたといいます。

父親に仕事のノウハウを教わりながら駆け抜けたイブキさん。仕事として作品づくりを経験し、「学校に行ってたほうが楽だわ」とマサキさんに伝えたそうです。

ユニット活動を通じて、「伝わる文章を書く」「お金の計算をする」といった学習の基礎の必要性も実感しました。

体調に波があったり、学校に行く意味が見出せていなかったりしたイブキさんですが、体調がいいときは午後から登校するなど、以前よりも学校に通えるようになったそうです。教師も友達も、イブキさんの活動を応援してくれているといいます。

ふたりの共著『紙工作の教科書』より
ふたりの共著『紙工作の教科書』より 出典:オダカマサキさん提供

「今年は勝負の年」

イブキさんの成長を見守ってきたマサキさんは、「イブキは学校に行けていなかったので、ぼんやりと自分はみんなと同じ道に進めないと思っていたのかもしれません。でも、得意なことが仕事につながり、自信になったのだと思います」と話します。

本の出版が大詰めの日、出版社に行った帰りにイブキさんがマサキさんにぼそっと「俺、今年勝負の年だわ」と伝えたといいます。

マサキさんは「そのひと言が、この数カ月の総括なんだろうと思います。『紙工作の教科書』は、彼が歯を食いしばって頑張った本。今年は高校受験もありますし、彼自身でターニングポイントを作れたのが大きいのかな」と話します。

今後も工作ユニット「カカポ」として、作品展やワークショップを開いていく予定です。

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