ネットの話題
150万登録のユーチューバー、幼少に海外移住…望郷の念救った動画
「『みるだけの旅』も十分に価値ある」

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「『みるだけの旅』も十分に価値ある」
電車や飛行機など移動や宿泊先での様子を発信し、世界中に150万人超の登録者がいる旅行系のチャンネル「そろそろ旅行」。かつては旅の動画を「見て満足する」側だったという運営者に話を聞きました。
そろそろさんは、現在20代半ば。
日本で生まれ、子どもの頃に海外に移住し、学生時代も海外で過ごしてきました。現在は「幼い頃からいつも帰るのが楽しみだった」という日本に戻り、日本を拠点に活動をしています。
海外にいた頃のそろそろさんは、現地での生活を楽しみつつも、日本の様子をYouTubeの動画で見て「日本はいいな、帰りたいな」という思いを抱いていたのだといいます。
そのときに見ていたのが、日本のYouTuberが投稿していた、国内の鉄道に乗る動画でした。
「寝台列車などに乗る様子を見ていると、静かで、落ち着く感じがした。見るだけで満足する自分もいたけど、この人のように日本で旅行したいなという気持ちもあった」
「元々、僕は超インドア派」という、そろそろさん。外出は好まず、毎日のようにYouTubeを見ているタイプでした。
しかし、この鉄道動画をきっかけに「自分もやってみたいかも」と一念発起。
「最初は迷いも多かったですが、4年前に人生初の寝台列車『サンライズ瀬戸』に一人で乗り、それが旅のある人生の始まりだったと思います」
「ひとり旅の良さは、なんといっても自由なところ」と、そろそろさん。
「行きたいときに行き、食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。誰にも気を遣わず、自分のペースで過ごせる時間は、五感が研ぎ澄まされるような感覚があります」
いまも、YouTube動画に投稿するためではない「個人的な旅」として、様々な場所に足を運んでいるといいます。
最近では、スイスのチューリッヒや、二つの湖に囲まれたインターラーケンに滞在。食事や、その土地にしかないようなアイテムを買うのが好きだといい、文化の違いをゆっくり楽しむ時間にしているといいます。
「信号や、横断歩道の線の形が違うのを発見したりするのも楽しいです」
そんなそろそろさんが、YouTuberとして発信をするようになったのは4年前のことです。当時、発信者になることへのあこがれは抱いていたものの、コンテンツ内容は定まっていませんでした。
そこでそろそろさんの頭に浮かんだのは、日本へのあこがれや郷愁の思いで見ていたYouTubeの鉄道動画でした。「視聴者側だった頃の自分は、動画を見れば、実際に旅をしなくても、ある程度満足できていました。だからこそ、動画で旅を楽しみたい視聴者の気持ちがわかる」
それを強みととらえ、「旅行の疑似体験ができる動画」の発信を開始しました。
そろそろさんの動画には音声によるナレーションがなく、その場の「ノイズ」が聞こえ、そろそろさんの目線でその場を「見る」構成になっているからか、動画を見ていると、あたかも自分が旅をしているような気分になる瞬間があります。
そろそろさんは、「旅は想像することから始まっていて、『みるだけの旅』も十分に価値があると思っています」と話します。
そろそろさんも、最初は「そちら側だった」と振り返りつつ「旅動画を観て『旅気分』を味わっていた頃から、僕の旅は始まっていたのかもしれません」。
一方で、「SNSは旅の入り口」とも話します。「実際に行ってみる時は、その『答え合わせ』みたいな感じなのかもしれません」
とはいえ、そろそろさんも、旅のすべてが動画で表現できるとは思っていません。
「旅って、実際はバタバタの連続で、ひとりだと常に自分で決断をしていかないといけない。乗り物の遅延で予定が崩れたり、スリにあいそうになったり……。一人で撮影していると周囲からの視線も気になります。そう考えると、動画で届けられないものは、つらさですね」
動画を視聴するだけなら、「そういう体験をしなくて済む」と、そろそろさんは冗談めかします。「動画では、『いいところ』だけ伝えることができ、それで満足できる視聴者もいると思うし、『いいところ』だけ味わえるのが動画の良さでもあります」
一方で、自身の体験として、「旅してよかったな」と思ったことも。
1カ月前、ローマに行ったときのこと。カルボナーラに入っていたグアンチャーレ(塩漬けにし熟成された「豚トロ」)を味わい、「よく行くファミリーレストランで食べるものとは違う」と味の違いとおいしさに驚いたそうです。
「動画で経験できないことは、自分で経験するしかないですね」
チャンネルの原点は、「多言語で世界中の人たちに『日本』を届けたい」。そのため、動画には、50カ国語以上の字幕 をつけています。
コメント欄にも、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、ポルトガル語、中国語、日本語など、様々な言語のコメントが付きます。
「あなたの動画で、一人旅デビューしました」
「今は病気で旅に出られないけど、あなたの映像でどこかへ行けてます」
そんなコメントがつくことには「いつも感謝しています」と話します。
また、「落ち着きますね」といったコメントには、狙い通りの層に刺さっているという手応えを感じているそうです。
「色んな国の人が、同じコンテンツを見てくれているということは、価値観が同じ人のコミュニティーができあがっているということではないでしょうか」
今後も、視聴者に旅の魅力を感じてもらえるような動画作りをしていきたいと話す、そろそろさん。「実際の旅はもっとバタバタで、笑えない瞬間も多いけど、それでもやっぱり、旅は面白いなと思っている自分がいます」
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