ネットの話題
外国人ヘルパーと重度障害の男性、動画発信 「鉄板ネタ」で需要発見
バングラデシュ出身ヘルパー、お刺身「焼かない?マジ?」
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バングラデシュ出身ヘルパー、お刺身「焼かない?マジ?」
「外国人ヘルパー」と重度の障害を持つ男性との日常を、ユーモラスなショート動画で伝えるアカウントが人気です。主にTikTokで動画を投稿しているのは、名古屋市に住む四肢麻痺の車いすユーザー近藤佑次さん(37)です。9万人超のフォロワーから「リアル『最強のふたり』」とも呼ばれるアカウント「ウガリだいすき」で、なぜ動画による発信を始めたのか。話を聞きました。
「パウチ交換の準備をする外国人ヘルパー」とテロップが出されている昨年の動画。
バングラデシュ出身のヘルパーが、おなかに人工肛門を造設している近藤さんのストーマパウチ(排泄物や分泌物をためる装具)を取り付ける手順をカメラに向かって説明します。続けて、視聴者からの質問にも答えます。動画の最後は、「これは私たちのやり方です。みなさんはどうやっていますか?」と締めくくります。
別の動画では、食事介助の様子が記録されています。
ヘルパーに、「お刺身食べたい」とベッドからお願いをする近藤さん。それに対して生魚を食べる習慣のないヘルパーは「おすすめ?」と聞き間違えたあと、「これ魚?」「焼かない?マジ?」と驚きを隠せません。
「新しいことだから写真撮る」とスマホで刺し身を撮影しつつ、食事介助もしっかり。お刺身にしょうゆをつけて男性の口元に運びます。
最後にはヘルパーも、初のお刺身に挑戦。「本当に美味しい」と喜びます。
近藤さんが動画投稿を始めたのは、あるアフリカ出身の男性との出会いがきっかけでした。
2011年冬、近藤さんはレジャー中の事故で頸髄を損傷。四肢麻痺があり、オストメイト(人工肛門を造設した人)でもある車いすユーザーです。
事故後しばらくして一人暮らしを始めた近藤さん。一人暮らしを始めて数年が経った頃、社会福祉士の勉強をする中で、地域にある福祉課題を調べることになりました。そのとき、知人から紹介され、初めて訪れたのは、「自宅からも鐘の音が聞こえるくらい近いところにある」という徳林寺でした。
徳林寺は、難民支援などにも力を入れている寺で、訪れてみると、いたるところにスロープが設置されているなど、バリアフリーの取り組みが垣間見られたといいます。その点をもって、がぜん興味がわいたという近藤さん。そこで、難民として寺で生活をしていたアフリカ出身の男性と出会いました。
近藤さんの2歳年下のその男性とはどことなく波長が合い、言葉が十分に通じない中でも英語を駆使して、なんとかコミュニケーションをとっていました。男性を自宅に招いたり、二人で食事に行くようにもなりました。
事故後、24時間体制のサポートが必要となっていた近藤さん。「せっかく一緒にいられるのであれば、ヘルパーさんがみつからない時の緊急要員に彼がなってくれたら、という思いがありました」と、男性に資格の取得を勧めてみたといいます。
男性も賛成し、2020年には重度訪問介護従業者の資格を取得しました。その資格勉強も、二人三脚。難しい言葉は近藤さんがかみ砕いて説明するなどし、サポートしました。
そんな近藤さんと男性がショート動画を発信するようになった経緯を聞くと、「最初はふざけてやり始めただけだったんです」。
資格取得後、男性は日本語を集中的に学ぶため、日中は語学の習得に時間を割いていました。一方、夜は時間があったため、夜勤専従で近藤さんのサポートをしていました。
「僕たちは友だちから入っている関係性ということもあり、夜勤の時間帯にふざけて撮り始めたような感じでした」
事故に遭う前、近藤さんは自転車競技の一つであるBMXやスノーボードなどに熱中。その競技の様子を動画で撮影・編集することもしていたため、ショート動画を撮り始めることは、抵抗なく始められたそう。
「ふざけて始めた」と近藤さんはいいますが、初期のTikTok動画を見ると、ただふざけていたわけではなく、電動車いすからリフトを使い、近藤さんをベッドに移動させるなど介助の方法を記録しているような内容。目的の一つとしてあったのが、自身の「介助マニュアル」だったといいます。
いまでは、ヘルパーの仕事内容や近藤さんの生活をユーモラスに紹介し、ときには啓発を含めたような動画内容となりましたが、そのような動画には土台となる出来事があります。
男性と出会う前、近藤さんは2018年ごろまで社会福祉法人で働き、支援が必要な障害者へのヘルパー派遣や、障害者の就労支援事業などに携わっていました。
その中で、「自分よりも重度」とみられる高齢の障害者が、行政職員とおぼしき人に福祉の充実を訴えている姿を目の当たりにしました。
「それを見て、個人的に衝撃を受けた」と近藤さん。
「この人たちの訴えなしに、自分の一人暮らしはあり得なかったんだなと思った」
そのような下地があった上で、近藤さんから発信される動画。近藤さん自身も「当初から啓発の意識が全くなかったわけではないと思う」。
動画投稿は3年目に入りましたが、初期から共に動画を撮影してきた男性は、新たな道をみつけ、「卒業」。
ただ、ヘルパーを派遣する訪問介護ステーションからバングラデシュ出身のヘルパーを紹介されることもあり、これまでに合計7人の外国人ヘルパーに支えられてきました。動画投稿も、メンバーを入れ替えながら続けています。
「動画を拡散させられるスキルが身についた」と振り返る近藤さん。広がり方や視聴者からのコメントを見るなかで「より求められているものもわかってきた」といいます。
その蓄積の上で投稿される動画の内容は、現在大きく二つに分けられます。
一つは外国人ヘルパーとの文化の違いをユーモラスに伝えるようなもの。イスラム教を信仰するヘルパーとハラールのレストランに行く様子や、勤務後にお祈りをする様子、バングラデシュの料理を作ってもらう様子などを投稿しています。
二つ目は介護によせた話題。その一つが人工肛門にまつわるものです。「情報が少ないんだと思う」と、再生回数が伸びる「鉄板ネタ」だといい、介助者や当事者からの相談のDMも届くようになりました。他にも、段差があることで車いすが通行できないことや、四肢麻痺のある人の投票の仕方などを伝える投稿などもあります。
9万人を超える視聴者からは、車いすユーザーと移民の若者との交流を描いた映画「最強のふたり」になぞらえ、「リアル『最強のふたり』ですね」というコメントも多く付きます。
近藤さんは「これからも工夫しながら情報発信を続けていきたい」と話しています。
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