今年10月から配信がスタートしたNetflixの『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』シーズン2。前作と同じく視聴者の評判は上々だが、その理由はどこにあるのか。パッケージの面白さ、スポットが当たりにくい芸人の活躍、テレビ東京時代から続く佐久間宜行ブランド、新鮮なPR戦略など、多角的な視点から考える。(ライター・鈴木旭)
『トークサバイバー!』シーズン2が配信され、すでに1カ月以上が経過した。しかし、いまだSNS上での反響は続いている。前回が好評だったとはいえ、なぜ当シリーズは高い人気をキープしているのだろうか。
まず考えられるのが、コンテンツそのものの面白さだ。ドラマの進行中に演者からお題を振られ、挑戦者たちが即興でエピソードトークを披露していく。虚実入り混じるパッケージは、そのほかのバラエティーでは味わえない新鮮さがある。
何よりも、この手の番組ではあり得ないほどシナリオを作り込んでいるため、視聴者は生活感のあるトークとのギャップで余計に笑ってしまう。シーズン1は「NF学園のある事件を皮切りにストーリーが展開し、やがて転校生徒(千鳥・大悟)が潜入捜査官であること、学校生活がループしていることなどが発覚し……」という、恋愛、アクション、SFなど、幅広い要素を盛り込んだ学園ドラマだった。
今回のシーズン2では、さらにスケールアップ。「NF製薬で爆発事故が起こり、被害者はTS医科大学付属病院へと搬送される。そこで謎の感染症が流行し、感染者はモンスター化してしまう。一方で犯罪者集団のもとに地球連合政府の大統領が訪問。やがて点と点がつながり、壮大な攻防戦が繰り広げられていたと気付き……」という内容。シーズン1の謎も回収する巧妙な作りになっていた。
これほど本気度の高いドラマの中で、例えばダイアン・ユースケが“子どもの頃、クリスマス会のサンタ役に選ばれた父親が、あずき色のMA-1に広島東洋カープのキャップ姿で現れた”といったエピソードを吐露し、別室で見守る千鳥・ノブと立会人がケタケタと笑って率直なコメントを口にする。
「ドラマ×エピソードトーク」という緊張と緩和が、見る者を夢中にさせるのだろう。
そもそも『トークサバイバー!』は、2016年~2018年まで断続的に放送された『NEO決戦バラエティ キングちゃん』(テレビ東京)の人気企画「ドラマチックハートブレイク王」をベースとしている。
学園ドラマのストーリーの中で芸人たちが生徒役を演じつつ、悲しくも笑ってしまうエピソードトークを展開。もっとも印象的なエピソードを語り、ヒロインの心をつかんだ芸人が“ドラマチックハートブレイク王”に選ばれるというものだ。
『ゴッドタン』(同)の「キス我慢選手権」などドラマ性のある企画を得意とする元テレビ東京のプロデューサー・佐久間宜行らしい企画と言える。
ちょうど千鳥がブレークし始めた頃にスタートし、笑い飯・西田幸治、シソンヌ、アルコ&ピース、ハライチ・岩井勇気、麒麟・川島明など、今ほどメディア露出が多くない芸人たちが登場していた印象も強い。
ひな壇形式のトークバラエティーと違い、「役を演じながら語れる」「周囲のトークリズムに巻き込まれない」といった特殊な状況下もあるのだろう。この企画によって“トークのイメージがない芸人”の面白さを知った視聴者も少なくないのではないだろうか。
出演者のほとんどは、『トークサバイバー!』でも引き続き活躍している。また、シーズン1ではパンサー・向井慧が優勝、錦鯉・渡辺隆が全8話中第7話まで生き残る大健闘(撮影はM-1優勝前)を見せるなど、その持ち味は継続されているように思う。
ここでしか見られない面白さがあるからこそ、シーズン2への期待も高まりファンを増加させたと考えられる。
「ハートブレイク王」と決定的に違うのは、前述した巧妙なストーリー、美術セットやガジェット(小道具や仕掛け)、豪華な出演者といった大作映画を思わせるスケールの大きさだ。
この点は、動画配信サービスの中でも人気の高いNetflixならではの特徴だろう。ユニークなアイデアさえあれば、潤沢な製作費が充てられ具現化できる。とはいえ、テレビ東京時代から信頼を置く出演者やスタッフを起用しているあたりに、演出・プロデューサーを務める佐久間らしさを感じた。
シーズン1、2、ともに脚本を担当するのは、劇団「シベリア少女鉄道」の代表を務める土屋亮一氏だ。2010年代に佐久間が手掛けたシチュエーション・コメディー『ウレロ☆シリーズ』やサスペンスコメディー調のドラマ『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』(ともにテレビ東京系)で脚本を担当。そのユニークなアイデア、緻密な構成力は『トークサバイバー!』からも垣間見える。
そのほか、テレビ東京で苦楽をともにしたスタッフも『トークサバイバー!』に参加している。その理由について佐久間は、今年3月に放送された『久保みねヒャダ こじらせナイト』(フジテレビ系・1月29日に開催された「久保みねヒャダこじらせライブ」の一部)の中でこう語っている。
「僕、深夜番組をベースにテレ東でやってたから、一緒に働いてるスタッフにそんなにギャラ払えてないんですよ。で、みんな40超えてきたから、『自分の仕事だけボランティアみたいにやってもらうの悪いな』って気持ちもあったんで。なら、そのままみんなこのチームを外に連れてって、ギャラもっと払いたいって気持ちもあった」
これは、2021年にテレビ局社員からフリーになった背景の1つでもあったという。独自路線を歩むテレビ東京のプロデューサーとして、番組の演出から予算の管理まで担当した下地があったからこそ抱き始めたビジョンなのかもしれない。
いずれにしろ、結果的に長らく関係を持つキャストやスタッフが集結し、“佐久間ブランド”を保ったまま企画をアップデートできたのは間違いないだろう。
もう1つ、NetflixのPR戦略も『トークサバイバー!』の人気を後押ししていると感じてならない。
マスコミが番組を取り上げ、関係者たちがSNS上で告知するパターンはよくあることだが、公式アカウントがFacebookやInstagramなどのリール動画で積極的にPRする動きには新鮮さを感じる。
印象的なエピソードトークを切り取った動画で興味を引き、まずはお笑いファンを取り込む。そして、実際に本編を見たタイミングで映像やストーリーの面白さにも気付かせるという二重構造になっているように思う。
地上波の番組は放送日時が決まっていることもあり、いろんなパターンの番宣CMを作成して告知するケースはほとんど見られない。しかし、Netflixの場合は各作品がライセンス契約している期間は継続的に視聴が可能になる。そのため、配信がスタートしてからより多くの視聴者を獲得すべく多くのリール動画を更新しているのだろう。
とくに『トークサバイバー!』は、エピソードトークをメインとするコンテンツなだけに、インパクトのあるショート動画を作成しやすい。新規の視聴者はもちろんだが、「もう一度見てみよう」となってアプリを開いたユーザーも少なくないはずだ。
YouTubeの切り抜き動画のような手法が、本家のアカウントで行われることに、ネット時代の今を感じる。『トークサバイバー!』はコンテンツの面白さだけでなく、現代らしい視聴者獲得の戦略も含めて広がりを見せているのではないだろうか。