お金と仕事
金利よりエモ、Z世代の金銭感覚 クレジットじゃなく後払い選ぶ理由
アイドルは1650億円、アニメだと2800億円の市場規模と言われる「推し活」をはじめ、Z世代と呼ばれる若い人たちからは新しい消費行動が生まれています。そこでは、どんな金銭感覚でお金がやりとりされているのでしょうか? 大事になるのは金利のような〝実利〟ではなく〝エモ〟のようです。
「金融が一番苦手なところにチャレンジしているんですよ」
苦笑しながら話してくれたのは、自動貯金アプリ「finbee」を運営するネストエッグ社長の田村栄仁さんです。
「finbee」は、連携する銀行口座から自動的に振替されることで、貯金をしていくアプリです。
数円・数十円単位から貯金できるためZ世代(1990年代半ばから2000年代序盤までに生まれた世代)と呼ばれる若い人たちも気軽に使うことができます。
2016年にスタートしたサービスは、20代から30代の女性がユーザー全体の約40%割を占めており、Z世代を含む29歳までが約28%いるそうです。
新しいフィンテックのサービスである「finbee」ですが、いざ、Z世代にサービスを広めようと思った時、田村さんたちが気づいたのが「エモ」の重要性です。
「エモ」とはエモーショナルの略で、感情を刺激する要素を指します。
通常の金融サービスだと、金利や手数料など〝いかに得する=損をしないか〟が重要でした。
「ところが、Z世代は他の世代に比べて、機能的価値より情緒的価値を大事にするんです」
かわりに田村さんたちが重視したのが「エモ」です。
それを象徴する「finbee」の機能が、貯金をする際にテーマと目標金額を決めて意気込みを記入するものです。
「推しのライブに行く!」「フェスのために貯金する!」など、熱いメッセージが書き込めます。
登録する画像はもちろん「推し」。とびっきりの1枚があしらわれて、テンションを上げてくれます。
さらに、ユーザーが決めたテーマに対する現在の貯金額をSNSでシェアする機能まであります。
「自分の貯金額を他人に知られるなんて、ちょっと……というのがこれまでの常識だったかもしれません。でも、Z世代にとっては、推しを通じた大事なコミュニケーションになっているんです」と田村さん。
デジタルサービスを使いこなしている世代だけに、守るべきプライバシー情報に気を付けながら、励まし合って貯金をしているようです。
そんな金銭感覚を持つZ世代に広まっているのが、後払い決済の「BNPL(Buy Now Pay Later=買ってから払う)」です。
この「BNPL」、現在、若者を中心にネット通販で利用者が増えています。
財務省のレポート(「ファイナンス」2023年1月号)によると、日本のBNPLには以下のような特徴があります。
・電話番号やメールアドレスなどを入力するだけで使えて審査のハードルが低い
・代金の支払いは主にコンビニ払い
レポートでは「BNPLは若年層を中心に利用者が拡大」と指摘。大手クレジットカード会社の参入により「今後予測以上に市場が成長していく可能性もある」と分析しています。
クレジットカードよりも審査のハードルが低いというのは利用者にとって魅力ですが、そこには、スマホ世代ならではの理由があります。
一つは、クレジットカードの番号を入力しなくていいという使いやすさです。
スマホですべてのことを完結させたい前提のZ世代にとって、クレジットカードの番号、名前、有効期限をいちいち入力する手間は、上の世代よりもストレスが大きい。つまり操作性、UI(User Interface=ユーザーインターフェース)を重視しての選択というわけです。
さらに、情報流出への警戒感があります。BNPLの場合、万が一、個人情報が漏れても、クレジットカードのように勝手に使われてしまうような心配はありません。これもスマホネイティブのZ世代ならではの感覚だといえるでしょう。
そして、Z世代にとって最大のメリットは、使ってから払えるという点です。
タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉に代表されるように、Z世代は無駄なこと、失敗することを嫌がります。
でも、コンビニでの後払いであれば、気に入らなければお金は払わずに返品することも可能です。
もちろん、懸念点もあります。財務省のレポートでは、複数のBNPLサービスを使うことで支払いできない額の買い物をしてしまう「債務超過」の危険性があることを指摘しています。若年層でも使いやすい面があるだけに、使い方への注意は大事になりそうです。
Z世代が、時間やお金の無駄を省くのには理由があります。
それは「推し」のような自分が納得して支持するものに思う存分、費やしたいから。
タイパと聞くと、失敗を恐れる、消極的な行動のように聞こえるかもしれませんが、実際は、自分の好きなこと「推し」にお金を使っていることがわかっています。
ネストエッグが実施した2022年の調査では、Z世代(18歳~26歳)の夏のボーナスの使い道は「貯金」が1位で、「ファッション」、「旅行」、「推し活」、「外食」が続きます。同社では「貯金をしながらも今を楽しむための消費意向が高い」と分析しています。
Z世代の金銭感覚を理解する上で大事なのが、キャッシュフローの流れです。
Z世代より上の世代だと、給料は月1回、クレジットカードや口座引き落としも月ごと締めというのが一般的です。
しかしZ世代は、特にお金の「入り」が違います。月1回とは限りません。
なぜなら、メルカリをはじめとしたフリマアプリで常に売り買いをしているからです。
1万円の服を買っても、5千円で売れることを前提にポチる。「売る前提の買い物」が当たり前になっています。
月単位で収支を合わせるのではなく、リアルタイムでお金の流れが変わっていくのです。
そういうキャッシュフローの中において、ある程度、自分のタイミングで支払いができる「BNPL」はとても相性がいい決済方法といえます。
逆に、様々な支出が合算されて月ごとに請求されるクレジットカードは、自分のお金の状態が把握しにくい。
そんなZ世代の金銭感覚について田村さんはこうまとめます。
「不透明なこと、非効率なことを嫌がるのがZ世代です。従来の金銭感覚とは違う新しい価値観が生まれてきていると感じています」
1/7枚