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「戦時下なのに、と驚きますか?」動物園訪れたカップルが語った決意

ロシアに占領された動物園 侵攻から1年の今は

水面から顔を出したカバの写真を撮る人たち=ウクライナの首都キーウ近郊デミディウ村、2023年2月26日、竹花徹朗撮影
水面から顔を出したカバの写真を撮る人たち=ウクライナの首都キーウ近郊デミディウ村、2023年2月26日、竹花徹朗撮影

目次

ロシアによる侵攻から1年が経った今も、戦闘状態が続くウクライナ。ロシア軍に1カ月を超えて占領された動物園では、動物たちと職員が飢えと寒さに耐えつつ、攻撃におびえる生活を送りました。いまだにパニックを起こす動物もいるという園を訪ね、来園者たちに話を聞きました。(国際報道部・牛尾梓)

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「いつも癒やしてくれる」動物たち

第2次世界大戦中、日本の動物園ではエサ不足から、ゾウをはじめとした多くの動物が死にました。「逃げ出したら大変」と軍部の命令で、処分された動物も少なくありません。

今まさに戦闘状態が続くウクライナでは、どのような状態になっているのか。首都キーウ近郊の動物園を訪ねました。

訪れたのは、キーウ中心部から北に40キロほど離れたデミディウ村にある動物園「12 months」。

この動物園を選んだのは、ウクライナ滞在中、私たちの取材車を運転してくれた運転手のイーホル・ズレンコさんのイチオシだったからです。

動物園「12 months」=ウクライナの首都キーウ近郊デミディウ村、2023年2月26日、竹花徹朗撮影
動物園「12 months」=ウクライナの首都キーウ近郊デミディウ村、2023年2月26日、竹花徹朗撮影

ロシアの占領下 姿を消した動物たち

ズレンコさんは取材の待機中、エサを持参しては、猫や犬にあげてめでるほど大の動物好き。

元々弁護士をしていましたが、戦時下で裁判の日程が止まり、現在は運転手の仕事をしています。

本来の仕事を離れ、気持ちがふさぐことも多いといいますが、「動物はいつも癒やしてくれるから」と、動物園取材に誰よりも張り切っていました。

この動物園は、オーナーのミハイロ・ピンチュクさんが飼っていた動物たちを、6年前に一般に公開したもの。

動物との距離が近く、「一年中、誰にでも開放された動物園でありたい」との思いから年中無休で開園し、「12カ月」という名前にしたそうです。

侵攻前の動物たち=動物園「12 months」提供
侵攻前の動物たち=動物園「12 months」提供

昨年2月に、ロシアによる侵攻が始まるまで、16ヘクタールの敷地にはキリンやカバなど100種類以上、350匹の動物がいました。

しかし侵攻でそれが一変。

侵攻が始まった翌日、首都陥落を目指し南下してきたロシア軍を止めるために、キーウに続くイルピン川にかかる橋がすべて爆破され、村は孤立。そのままロシア軍の占領下になりました。

占領から10日後、職員が避難場所から動物園に戻ると、そこには惨状が広がっていました。

散らばる動物の骨や肉片。ラクダやカンガルー、バイソンなどがおりから姿を消していました。「恐らく、ロシア兵が食べたのだと思います」とピンチュクさんは言います。

姿を消していたラクダ=動物園「12 months」提供
姿を消していたラクダ=動物園「12 months」提供

その後、ロシア兵が動物に手を出すことは無かったと言いますが、動物園の事務所は爆破されました。

ピンチュクさんは「周囲から断絶された状態で、3月末にロシア軍が撤退するまでの1カ月余り、獣医師や警備員ら7人が24時間態勢で動物の世話をしました」と言います。

動物たちと物資を分け合い、寒さに耐え…

ウクライナの冬は極寒です。キリンやカバ、ライオンなどの外来種には暖をとるためのヒーターが必要ですが、占領下で孤立し、その軽油も手に入らなくなりました。

侵攻が始まったのは2月後半。「タイミングが悪いことに、来月分のエサの搬入直前だったため、備蓄がほとんどありませんでした」

たとえば、1日6キロ与えていた肉は、4日に1度4キロ程度に減らしました。村内で手に入る食べ物や赤十字から支給される物資を分け合って、人間も動物も飢えをしのぎました。

寒さと飢えで震えるなかでも、攻撃は容赦なく続きます。

近くで聞こえるミサイルの爆撃音に人間のみならず動物もおびえ、「普段は嫌がる巣箱に慌てて入るようになった。まるで、巣箱が防空壕代わりになることを知っているかのように」。

爆撃音を聞くと、サイはおりの中をぐるぐると走り回り、キリンはおびえて床に倒れ込んだといいます。

飢えや寒さから弱っているサイ=動物園「12 months」提供
飢えや寒さから弱っているサイ=動物園「12 months」提供

動物たちのパニックは極限状態に。サルやシマハイエナは混乱から壁に激突し、クジャクもストレスから死んでしまいました。

ピンチュクさんは「残念ながら、この後、数は増えていきました。占領下で薬が手には入らず、死んでしまった動物もたくさんいます。寒さと飢えで死ぬことは、ミサイルで死ぬことよりも悪いことだと思います」。

ピンチュクさんは、死んだ動物の具体的な数については口をつぐみました。

一方で、救えた命もありました。

2匹のオランウータンを入れた段ボールを手こぎボートに載せて、橋が爆破されたイルピン川を渡り、比較的戦況が落ち着いているポーランドとの国境近くにあるリビウ州の動物園に避難させたといいます。

「1回目はロシア軍に見つかって失敗し、2回目には何とか成功しました。幸いなことに、その時はロシア兵は見て見ぬふりをしてくれました」

生活するには「地元の経済を回さないと」

昨年8月ごろから、ユーチューブなどのSNSを使って寄付を呼びかけ、少しずつ来園者を受け入れるようになりました。

私たちが訪れたのは、侵攻開始から1年が経った今年2月末。動物が入っていたと思われるおりには空きが目立ちます。

この日、動物園を訪れた客は50人にも及びませんでした。

ガールフレンドとデートに来ていたミコラ・チョルネンキさん(23)は「動物園が寄付や援助を必要としていることを知って、サポートしたくて初めて来ました」と言います。

チョルネンキさんから「『戦時下なのに、動物園に遊びに来るんだ』って驚きました?」と逆に質問されました。

そして、こう続けました。

「私たちがここで生活し続けるためには、地元の経済を回さなければいけないのです」

侵攻前はにぎわっていた園内=動物園「12 months」提供
侵攻前はにぎわっていた園内=動物園「12 months」提供

夫と娘、弟の家族4人で来ていたナディア・ザイチュックさん(27)は、この日が半年ぶりの「遠出」だといいます。

「私は元々博物館で学芸員をしていたのですが、侵攻後、4歳の娘の幼稚園が閉鎖になり、働きに出ることが難しくなりました。当然、家庭の収入は半減し、物価も高騰しているので、外食や旅行に行くことも控えるようになりました」と言います。

半年前、最後に出かけた公園で、「次は動物園に行こうね」と娘と約束したというザイチュックさん。

「私たちの国が侵略され、色々なことができなくなったり、行けなくなったりしたことは、4歳児でも理解しているのです」と泣いたような顔で笑いました。

キリンにユーカリの葉を与える人たち=ウクライナの首都キーウ近郊デミディウ村、2023年2月26日、竹花徹朗撮影
キリンにユーカリの葉を与える人たち=ウクライナの首都キーウ近郊デミディウ村、2023年2月26日、竹花徹朗撮影

カバが水面から顔を出すとキャッキャと歓声があがり、キリンにユーカリの葉っぱを食べさせてあげる子どもたちの目は輝いています。

ここだけを見ると、まさか動物園が一時ロシア軍に占領されていたなんて想像もできません。しかし、動物たちはいまだにトラウマを抱え、パニックを起こして暴れることがあるそうです。

一度できた心の傷は、人間も動物も簡単には治らないのです。

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