ドイツ戦、スペイン戦での日本の歴史的勝利があり、国内でも大きな話題を集めたサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会。試合の前後に流れる首都ドーハの映像を観ていると、超高層ビルの数々が目に入ります。どうしてこんなにたくさんの超高層ビルがあるのでしょうか。経緯をまとめます。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会での、ドイツ戦、スペイン戦の歴史的勝利に沸いた日本。そして、ニュースなどで試合の前後に流れたのが、カタールの首都ドーハの映像です。
そこに立ち並ぶのは数々の超高層ビル。実は、これらのうち多くは、この10年に建てられたものです。
国際NPOの高層ビル・都市居住協議会(CTBUH)によれば、ドーハの超高層ビルには「Lusail Plaza Tower 3」「Lusail Plaza Tower 4」「Aspire Tower」など300m級が複数存在。上位10組には以下、200m級のビルが続きます。
ビルが高層化する理由には、一般に、土地の合理的な利用や、権力や権威の誇示、国家間・都市間競争、雇用や産業の創出、周辺地域の活性化、ランドマーク(目印)としての機能などがあるとされますが、これらは当然、豊かな経済状況を前提にしています。また、高さ制限がないか緩いことも必要になります。
外務省によると、カタールが英国保護領から独立したのは1971年。秋田県よりやや狭い国土に、人口約290万人が暮らしています。一方、2021年の1人あたりの国内総生産(GDP)は6万9000ドル(約960万円)で世界8位。7位の米国と同程度で、日本の約1.75倍になっています。
急速な経済発展を支えるのが、天然ガスや石油の輸出。天然ガスの埋蔵量は世界3位で、日本は最大の輸出先の一つです。自国民は所得税を払う必要がなく、電気や水道、教育や医療といった費用も、無料やそれと同じぐらいの安さで済んでいるといいます。
このように、天然資源に大きく依存した産業構成を変えていくため、観光産業の育成やインフラ整備に注力。世界的なスポーツイベントの誘致にも熱心で、国際サッカー連盟(FIFA)理事会でW杯のホスト国に中東で初めて選ばれたことには、このような背景があります。
開催決定の理事会は2010年。それ以降、今回のW杯に向けて巻き起こったのが、ドーハにおける空前の建設ラッシュでした。前述したように、多くの超高層ビルが建設され、街の姿は急速に変貌したということです。しかし、こうした建設ラッシュは大きな“ひずみ”も生んでいます。
大会に向けた7つのスタジアムをはじめ、空港や地下鉄、道路、ホテルなどが新しく整備されましたが、その時の建設に携わったインドやパキスタン、ネパールなどからの外国人労働者が多数、亡くなったほか、賃金が不十分だった事例もあることが、国外の人権団体や報道機関により、指摘されています。
例えば英紙ガーディアンは、21年2月、10年にカタールでのW杯開催が決定して以後、6500人以上の外国人労働者が亡くなったと報じました。また、10年のW杯開催決定のために、カタール側がFIFA関係者を買収したという疑惑もあります。
カタール側は、労働者の死者数について、業務に関連したケースは3人と反論、主張は大きく乖離した状態です。また、買収の疑惑についても否定しています。
他にも、22年11月23日の日本 - ドイツ戦では、試合前の記念撮影のために整列したドイツ選手11人が「右手で口を覆い隠す」ジェスチャーをしたことが議論を呼びました。
同性愛が法律で禁じられているカタール。ドイツを含む欧州7チームは今大会、抗議の意思を示すため、「ONE LOVE」と描かれたキャプテンマーク(腕章)を用意していましたが、FIFAから「競技上の処分対象にする」と通告を受け、着用を断念。
前述したジャスチャーについて、ドイツのフリック監督は試合後、「FIFAが我々の声を封じていることを示すものだ」と語っています。
急速な発展を遂げる中、世界との関わりにより、変化を迫られるカタール。W杯のニュースの背景からは、そんな事情も浮き彫りになります。