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「学歴詐称」疑惑、田久保前市長が去った後は…激動の1年を振り返る
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「学歴詐称」が疑われた静岡県伊東市長の問題が、昨年は全国紙やワイドショーで連日、取り上げられました。「卒業証書19.2秒」は、昨年の流行語大賞にノミネートされたほどでしたが、昨年12月におこなわれた新市長を決める選挙の後は、潮が引いたように静かになりました。取材を続けた記者が、激動の1年を振り返ります。(朝日新聞記者・南島信也)
あの騒ぎはいったい何だったのか――。人口6万1千人ほどの静岡県伊東市で、学歴詐称が疑われた前市長の田久保真紀氏の言動が昨年、連日全国紙やワイドショーなどで取り上げられました。
学歴詐称騒動の下地は昨年5月の当選前からありました。
選挙前の共同取材で、メディアは田久保氏が示した「東洋大卒」という最終学歴の「証拠」の提示を求めました。立候補予定者に経歴を確認するのが通例だからです。
ところが、田久保氏は「(大学の)卒業証書を探したが紛失した」と言い切りました。
弁護士とも協議したといい、相手候補にも同じように学歴照会を求めなければ「落選運動と受け止める」とまくし立てました。
激しい剣幕に驚きましたが、すでに一部の市議が学歴疑惑を調べ回っていたのを後から知りました。
田久保氏の市長就任後、学歴詐称を指摘する告発文書が全市議に届いてからは、めまぐるしく状況が変わっていきました。
田久保氏は、確認を求めた市議会議長たちに「卒業証書」とされる文書を「チラ見せ」しました。
その後、文書を見せた秒数をコンマ単位で口にした「卒業証書19.2秒」は、昨年の新語・流行語大賞にノミネートされました。
記者の質問に当意即妙に答える姿は、在京在阪のテレビ局やスポーツ紙、週刊誌やユーチューバーまで引きつけました。
東京から取材に来た記者たちに理由を聞くと、「彼女は数字を持っている」「視聴率やネット記事の閲覧回数を稼げる」といいます。
市議会の解散と市議選、2度目の不信任決議可決で失職、2度目の選挙戦……。
地方自治法では、首長は議会を解散できると規定されています。権限として法的に問題はなくても、自身の疑惑に端を発した身勝手な行動は市政を混乱させました。
12月14日の市長選投開票日。伊豆高原にある田久保氏の陣営近くに設けられた待機所には50人近くのメディア関係者が詰めかけました。
小さな地方都市の市長選で、「落選速報」を流すメディアもありました。勝者よりも敗者が注目される異様さを物語るものでした。
「田久保劇場」の終幕を見届けようと、記者は田久保氏が姿を見せるのを翌午前1時すぎまで待ちましたが、現れることはありませんでした。
その夜、空には美しいふたご座流星群が観察できました。
ふと、「伊豆高原の美しい自然を守りたい」という田久保氏のキャッチフレーズを思い出しました。
2019年9月にあった市議選に立候補したのは、この地で計画されたメガソーラーへの反対運動がきっかけでした。
市長選敗戦の弁は、12月15日午前4時すぎ、自身のX(旧ツイッター)で発信されました。カメラの前で、自身の言葉で語ることを拒否したことは意外でしたし、残念でした。
田久保氏の得票は有効投票総数の約12%。市民を無視したかのような自分本位の振る舞いに有権者はあきれ、見限ったのだと感じました。
12月25日。杉本憲也・新市長の初めての定例記者会見が市役所で開かれました。
出席したのは地元メディアの十数人だけで、潮が引くように記者もカメラも去りました。果たしてメディアは本来の役割を果たすことができたのか、いまも考えています。