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消えゆく「川の水位表示塔」故障しても果たし続ける「役割」とは?
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駅前や公園で川の高さを可視化し、地域を守ってきた「水位表示塔」が各地で姿を消しています。背景には塔の老朽化や、スマホで水位を確認できるようになったデジタル化の波があります。一方、故障しても「防災のシンボル」として役割をつないでいる塔もあり、その現状を追いました。
昨年12月、東京都江東区の江東区役所を訪ねたところ、区役所前に建っていた荒川の水位表示塔がなくなっていました。
東京都建設局江東治水事務所によると、2025年9月、老朽化による表示塔の更新のため一時的に撤去したとのことです。撤去される以前から「調整中」の貼り紙があり、水位が表示できない状態が続いていました。故障する前は、荒川の現在の水位をランプで表示していたそうです。水位の変化に連動してランプが上下する仕組みです。
この水位表示塔は、低地における防災意識の醸成を目的として1999年に設置されました。
江東区は地下水のくみ上げによる地盤沈下で「ゼロメートル地帯」が広がっています。1949年のキティ台風などで大きな被害が出ました。
塔は、荒川の水位を表示するだけでなく、キティ台風のときの最高潮位(基準面から3・15メートル)や1979年の台風20号のときの潮位(3・55メートル)も刻まれていました。塔のふもとから見上げると、その高さが実感できるという仕組みです。
塔の説明版には、「災害に備えて」と題した説明文があり、「皆さんの家庭でも災害への備えについて話し合ってみてはいかがでしょうか」と勧めていました。
江東治水事務所は今後の見通しについて、「現在、年度中の再建に向け改修中ですが、再建時期は未定となっています」
水位表示塔とは、近くの川の現在の水位を、LEDライトなどで表示して教えてくれる塔のことです。
災害大国である日本は、たびたび豪雨や台風に見舞われ、大きな被害が出ています。水害が発生したときの川の水位は、普段の川からは想像もできないほど高くなります。
たいていの水位表示塔は、現在の川の水位に加えて、かつて起こった災害時の水位も刻んでいます。非常時にどれだけの高さまで水が来るのかを可視化し、普段から防災について考えてもらいたいという思いが込められています。
そんな水位表示塔ですが、各地で撤去される事例が相次いでいます。
岐阜市には、市役所前に高さ11・8メートルの長良川水位表示塔がありました。
岐阜市は1959年から3年連続で長良川が破堤し、大きな被害が出ました。市史によると、1959年の伊勢湾台風では1369棟が、1960年の台風11号と12号では2053棟が床上浸水しました。さらに1961年の梅雨前線豪雨でも4374棟が床上浸水しました。岐阜市は1976年7月、洪水の記憶を新たにし、治水の大切さを訴えることをねらって水位表示塔を建てたそうです。
水位塔には、災害時の警戒水位などのほか、伊勢湾台風の時の水位も赤く光って表示されました。その水位は、地盤の高さ14・28メートルを含めて21・41メートルでした。ただ、後年、内部の基盤が故障して水位が表示できなくなる不具合も起きました。
岐阜市役所は2021年に新庁舎に移りましたが、水位表示塔が移設されることはありませんでした。
岐阜市には、国土交通省が設置した長良川の水位表示塔も2基ありましたが、2基とも2021年に撤去されました。
2基は1992年、大型商業施設と市中心部の公園に設置されました。塔には、長良川の堤防が一部決壊し、同市内の平地部分のうち、約7割が浸水した1976年の「9・12豪雨」の水位21・45メートルが表示されていました。撤去の際、木曽川上流河川事務所は「老朽化が進行し、河川の水位情報提供に一定の役割を果たした」とコメントしました。
埼玉県のJR久喜駅前には、利根川の水位表示塔があり、市民に親しまれてきました。利根川上流河川事務所は塔を設置した目的について、「利根川の水位を身近に感じていただくことにより、洪水時には利根川に行かなくても水位の状況を知り万が一に備えていただくとともに、多くの皆様に治水事業や水防活動の大切さをご理解いただきたい思いがありました」
この塔も、2021年に撤去されました。
撤去の理由を尋ねると、以下のような理由があったそうです。
・設置から約26年が経過しており、老朽化が進み、修理部品の調達も困難な状況にあった
・そのまま放置すれば、転倒による人的被害も考えられた
・久喜市からの撤去の要望も踏まえ、当初の目的を達成したと判断した
久喜市役所の栗橋行政センターにも同様の水位表示塔がありましたが、久喜駅前の塔と同時期に撤去されたそうです。
水位表示塔の撤去が相次ぐ背景の一つに、防災情報のデジタル化があります。
国土交通省は、「川の防災情報」という防災情報サイトを運営しています。
利根川河川事務所の担当者によると、スマートフォン、タブレット、パソコンで、地点ごとに河川の水位、雨量、ライブ映像などを調べることができます。
「水位グラフ」を選ぶと、水位観測所ごとに設定されている「氾濫(はんらん)注意水位」・「避難判断水位」・「氾濫危険水位」が表示されるので、現在の水位と見比べることで、避難の判断に活用することができます。
ユーチューブで川の様子をライブ配信している自治体もあります。
スマホ一つで、水位表示塔が示していた河川の水位を手軽に知ることができる時代になりました。
利根川上流河川事務所は水防災教育に特に力を入れていて、小学校向け出前講座や水防学校では、川の防災情報だけでなく、ハザードマップポータルサイト・浸水ナビ・川のライブ映像も合わせて説明をすることで、低い年代から災害時の早期避難を判断するに情報を得る方法を身に着けるための教育を展開していくことを心がけているそうです。
一方で、故障してもなお、防災のシンボルであり続けている塔もあります。
昨年秋、東京都江戸川区役所前に建つ荒川の水位表示塔は「点検中」と表示されていました。
区役所に聞いたところ、「表示に関する部分で不具合が生じており点検中」という答えが返ってきました。復旧の時期は未定です。
塔は2009年、現在の荒川の水位を区民にわかりやすく目に見える形で提供し、堤防の重要性や水害に対する備えの必要性を伝えることを目的に建てられました。
水位表示塔には、大正6年の高潮のときの最高潮位(4・21メートル)、キティ台風のときの最高潮位(3・15メートル)が表示されています。故障中のため現在の水位との比較はできませんが、災害時にどれだけ水位が上がったのかは体感できます。
塔には水害リスクの注意喚起、災害対策のモニュメントとして広く啓発する役割があり、区民の水害リスクの意識向上に効果があると考えているそうです。
東京都江東区の亀戸駅前にある荒川水位表示モニュメントは、亀のオブジェとLEDの表示で
荒川の現在の水位を表示します。ゼロメートル地帯に住む地域住民の危機意識の醸成を目的に、1997年に設置されました。
訪ねてみると、水位の表示が乱れているように見えました。
荒川下流河川事務所によると、現在、亀のオブジェは動作していますが、老朽化による設備の故障で、LEDの水位表示が正常に稼働していません。また、塔には防災情報や行政に関する情報を表示できる機能もありますが、文字表示もできなくなっています。
修理の見通しについて聞いたところ、「部品の修理ではなく設備の全面更新が必要であり、復旧の目途は立っていません」
しかし、江東区はゼロメートル地帯が広がり、亀戸もキティ台風などで甚大な被害を受けました。故障中ではありますが、塔の存在自体が防災に関する危機意識を高める存在であることに変わりはありません。担当者は塔の存在意義について、「地域住民の危機意識の醸成に効果があると考えております」
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