ネットの話題
講談社文庫のカバーの色、驚きの理由 「ジャンルかと思っていた」
茶、桃、朱、灰、空、藤、緑、若草、山吹、橙
講談社文庫の背表紙の色分けの根拠が、驚きの理由だと話題になっています。一般の読者の疑問にツイッターで反応し、話題を呼んだ講談社に話を聞きました。
いつもありがとうございます!
— 講談社 (@KODANSHA_JP) September 2, 2022
講談社文庫の色分けにこれといった基準はなく、作家さんに好きな色を選んでもらっています。#講談社文庫 https://t.co/mUwWOKzgik
講談社文庫出版部・堀彩子部長に話を聞くと「編集部としては特別なことだと思っていなかったので、これだけの反応をいただいてびっくりしています」。
講談社文庫の創刊は1971年。昨年、創刊50周年を迎えました。
現在の文庫カバーのデザインは、1982年に装幀家の故・菊地信義氏が手がけたもので、今年で40周年。
菊地氏が講談社文庫のカバーデザインについて語ったインタビュー(2015年、月刊誌「IN☆ POCKET」=現在は休刊)には、「菊地氏が明るく色とりどりの背表紙にしたこと、著者の名前を目立たせたこと、整理番号を振ったことなどは、まさに文庫の“革命”であった」と記されています。
今年3月に亡くなった菊地氏。堀さんは「話題になっているこの状況をお知らせしたかった」と惜しみます。
講談社文庫のカバーの背表紙の色は現在、茶、桃、朱、灰、空、藤、緑、若草、山吹、橙の10色で、すべてオリジナルです。堀さんによると、色のラインナップは「初期からある色は多いと思う」とのことですが、40年前のことで詳しいことはわかりません。
ただ、「タイトルを墨(黒色)で入れたいという菊地さんの思いがあったので、その墨が読みやすい背景色の選び方になっているのだと思います」。
講談社文庫のカバー色は作家さんが選ぶ、という投稿に多くの反響をいただきました。ありがとうございます。
— 講談社 (@KODANSHA_JP) September 15, 2022
全部で何色あるの?という質問にお答えします。
現在は全10色のオリジナルカラーで、それぞれ右から「茶、桃、朱、灰、空、藤、緑、若草、山吹、橙」と呼んでいます。#講談社文庫 pic.twitter.com/m1ygyTmMkj
色分けの根拠ですが、以前は「時代小説は灰色」など、ジャンルごとに色が割り振られていたそうです。
ところが、2000年代ごろから、徐々に変化が。「OBに聞き取るなどしてみた結果、2000年代ごろから、作家さんに希望の色を聞いたり、編集者が決めたりし始めたようです」(堀さん)。
転換期を経て、現在では、初めて講談社文庫で出版をする際には作家さんが10色の中から「自分の色」を決めることになっています。
そこで気になるのが、「人気の色」です。
「システム的に登録するものではないので調べきれませんでした……」と堀さん。逆に「レア」なのは茶色だそう。堀さんは「全色コンプリートするためには茶色を手に入れるのがポイントだと思います」。
一方、いまも「ジャンルの色」が残っているものがあります。それが、「藍」で固定されている、翻訳ミステリーのジャンルです。
この理由について堀さんは「ジャンルごとに色を割り振っていたころの名残だと思います。推測ですが、翻訳ミステリーは、著者に直接希望の色の確認をとりにくいので、その難しさがあるのかもしれません」。
では、色を選べるシステムを、作家さんはどのようにとらえているのでしょうか。
堀さんによると、「カバーの色が選べます」と編集者が伝えたときの作家さんの反応は大きく分けて2つ。
「選べるんですか?」と驚いたり喜んだりするパターンと、「選べることを知っていたので考えていました」と、あらかじめ用意しているパターンです。
作家さんがどのような理由で色を選ぶのかというのも気になります。
堀さんによると、「ポピュラーなのは、『好きな作家さんに合わせる』選び方」。例えば「東野 圭吾さんの橙色にしたい」「森博嗣さんの灰色にしたい」といった感じです。
「好きな色」で選んだのは、朝井まかてさん。「朝井さんの作品には、江戸時代の種苗屋さんを描いた『実さえ花さえ』がありますが、ご本人も草花や園芸がお好きです」(堀さん)。その朝井さんが選んだ色は、「若草」でした。
「好きな色」つながりだと、江戸川乱歩賞作家の斉藤詠一さん。選んだのは、「空色」でした。理由は「長年応援しているJリーグのチームカラーだから」。ちなみに斉藤さんは川崎フロンターレのファンです。
また、名字に「藤」がつく作家さんは「藤色」を選ぶ方もいるそうです。
堀さんは「表紙のデザインを作っているときは、『こういう見た目なら目立つ』など、神経を使って作家さんと話し合うことも多いのですが、色についてはこちら側からは何も意見はなく、作家さんに自由に選んでもらえるのが楽しいです」と話し、編集者側としても、作家さんが何色を選ぶのかを楽しみにしている面があるそうです。
その色選びが今回ツイッターで話題になったことについては、「素直にとてもうれしく、こんなに反響があったことが驚きでした」と話します。
「カバーの色選びを通して、作家さんの素顔の部分が垣間見られるところが、読者さんにとっても楽しさを感じていただける部分なのかなと思います」
ちなみに、講談社文庫の背表紙には、もう一つのトリビアがあります。
それは、タイトルよりも上に著者名を持ってくること。現在はこの様式を採用している文庫は他社にもありますが、最初にこの配置にしたのは菊地氏が手がけた講談社文庫でした。
「IN☆POCKET」のインタビューによると、菊地氏は読者が「著者名買い」をするかどうかをリサーチしたといいます。その結果、当時都内の大型書店で文庫を購入した人の7割が著者名買いをしていることがわかり、このデザインを採り入れることを決めたそうです。
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