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乳幼児のけいれん…正しい行動は? 妻の出張中に息子が40度の発熱
「ビクンビクン」焦る夫「えらいことに…」
母親歴2年目、大変さを実感して育児レベルも着々と上げていたつもりです。しかし、病気への対応力はレベル0。昨年、1歳の息子が40度近い熱を出し、けいれんを起こし、その後、体に発疹が表れました。高熱やけいれんに親はどう対応すればいいのでしょうか。筆者の体験を振り返りながら、小児科医の坂本昌彦さんに小さな子どものいる親が心配しがちなポイントについて話を聞きました。
2020年9月19日からの4連休、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いてきたこともあり、羽田空港や観光地はにぎわっていました。状況次第では、我が家もどこかに出かけていたかもしれません。
しかし、9月17日、息子(当時1歳3ヶ月)が40度の熱を出し、けいれんを起こしました。そこからの6日間は、不安と忍耐の巣ごもり生活。熱が引いた後には発疹が表れました。
息子は生まれてこの方、風邪をこじらせたり、大きな病気をしたりしたことはありません。それもあって、子どもの病気に関する予習をすっかり怠っていました。
予兆は前日の16日からありました。いつものように、朝保育園に行く準備をして息子の熱を測ったら、36.9度。通っている保育園は37.5度以上だと登園できないので、夫婦の頭の中にアラートが鳴ります。途中で園に迎えに行くことはあっても、朝から熱があって休んだことはありませんでした。
こんな日に限って私は出張。取材予定は17日、熊本県天草市です。直行便はなく、前入りしないと間に合いません。
8時、再び熱を測った時には37.4度。夫に会社を休んでもらい、息子は保育園を休みました。悪化しないことを祈りつつ家を出て、その後はLINEでやりとりです。
お昼ごはんはしっかり食べられたよう。しかし、夜はしばらく返信がなく、未明にこんなLINEが届きました。
「連絡できてなくてごめんね。午後に熱上がってきて、39.8度くらいまでいってちょっとぐったりしてたから一応小児科行ってきました。夜ごはんはある程度食べられたけど、まだ熱が高止まりしてたので体流す程度のシャワーだけして、19:30くらいにベッド行って寝ました。そして一緒に寝落ちました」
まさかコロナ? 一瞬頭をよぎりましたが、その時点で周囲に感染者や濃厚接触者はおらず、病院でも新型コロナウイルス感染の疑いは指摘されていません。
<「教えて!ドクター」小児科医・坂本昌彦さんに聞く>
小児科医の坂本昌彦さんは、スマホアプリやSNSで発信する長野県佐久医師会・佐久市による「教えて!ドクター」のプロジェクトリーダー。さまざまな親の悩みに寄り添ってきた坂本さんに、子どもの病気について解説してもらいます。
――コロナ禍の乳幼児の高熱、コロナと風邪の見分け方はありますか?
一番みなさんが関心のある質問ですね。基本的に新型コロナウイルス感染症と風邪は見分けがつきません。
医師が「新型コロナウイルス感染症の可能性も考えて検査しましょう」とお話しする根拠は、「周囲の感染状況」です。周りの家族に同じ症状はないか。もちろん、無症候性感染者(無症状)の方もいるのでそれだけでは判断はつきませんが、まず家族や周囲の状況をみます。子どもの感染は、ほとんどは家族内感染によると分かっています。
翌9月17日朝、熱を測ると38.4度あったそうです。1度以上下がっているとはいえ、まだ心配は消えません。
17時前、取材を終えスマホを見ると、「また熱が上がってて40度近くある」と夫からのLINE。不安が押し寄せます。
天草からの帰路、スマホを使える間は「赤ちゃん 高熱 40度」「赤ちゃん 病気」と調べて情報をあさりました。34年生きている私でも、高熱の経験はほとんどありません。38度出るだけでもつらいのに、1歳児が40度近い高熱に耐えられるの? もう息子のことしか考えられませんでした。
夫は「子ども医療電話相談」(#8000)に電話をして症状を伝え、対処法を聞いていたそうです。その時点では「受診の目安は鼻水やせきや嘔吐(おうと)、発疹などの他の症状が出たとき、水分も受け付けなくなっておしっこもしないとき」などと言われていました。
加えて夫は、区が平日の夜間に開設している子どもの診療所も調べていたようです。高熱の息子をワンオペで世話しながら必要事項を冷静に記録し、LINEの「ノート」にまとめてくれていました。
22時半ごろ、飛行機を降りてスマホの機内モードを解除し、やっと息子の状況を把握しました。夫から届いていたのは、画面の3分の2が埋まるほどのメッセージです。
「少し寝てたんだけど、20時ごろにけいれん起こしちゃったので病院に来ました」
……けいれん?
「診察上は特に問題なかったけど、念のため悪い病気にかかってないか血液検査と尿検査してもらってます」
けつえきけんさ?
焦りと不安とパニック。気を緩めると泣いてしまいそうでした。
とにかく一刻も早く帰らねばという気持ちでタクシーに飛び乗り、自宅に着いたのは23時過ぎ。夫も病院から戻っていて、息子はベッドで寝息を立てていました。見た感じはいつもと変わりません。
あとから聞いたら、夫は「えらいことになった」と思っていたようです。
「事前に高熱の情報を見ていた中にけいれんが起きる可能性があるということも書いてあったので、けいれんが治まってからは冷静になれた」と言います。
<「教えて!ドクター」小児科医・坂本昌彦さんに聞く>
――けいれんの前兆や親が察知することはできるのでしょうか?
けいれんは「こういう症状があればけいれんが起きます」という前兆は特にありません。また40度以上になると起きるとか、38度だから大丈夫というわけでもありません。ただ、一般的には39~40度くらいでけいれんを起こすケースが多いです。
――病院へ行くタイミングは?
「教えて!ドクター」には、まずお父さんお母さんに落ち着いてほしいと書いてあります。「しっかりして!」と体を揺らしたりしそうになるかもしれません。でも、けいれんを起こしている状況であれば、安静にしてなるべく刺激を与えないことが一番大事です。
最初にするべきは平らなところに寝かせること。そしてけいれんに伴って吐いてしまうこともあるので、右か左を向かせて横にしてください。
けいれんは、救急車を呼ぶ理由の一つです。「教えて!ドクター」では5分以上続いたら救急車を呼ぶと書いていますが、5分未満で呼んでダメかと言うとそうではなく、僕たちは呼んでいただいて構わないと思っています。
なぜ5分と書いているかというと、けいれんの多くは5分以内に止まるためです。止まった後、冷静に対応できれば、自家用車で受診する選択肢もあります。一方で5分以上続くけいれんは、30分以上続く(けいれん重積と言います)可能性があるため救急車を呼んでくださいとお願いしています。
もっとも、けいれんで動揺してしまう保護者の方は多いです。死んでしまうのでは、と思ってしまう方もいるほどです(実際にはそのような心配はまずないのですが)。したがって、そのような心理状態で、自家用車を運転して病院へ向かい、事故を起こしてしまったらそれも問題です。心配だったら5分以内に止まっていても救急車を呼んでいただいていいと思います。
――救急車を呼ぶときに注意することはありますか?
気が動転していると、救急車をどうやって呼んだらいいか分からない、呼んだはいいけど家の住所を忘れてしまう人もいます。持ち物もどういうものが必要なのか。母子手帳は必要です。あとは財布。忘れがちなのが福祉医療費受給者証ですね。一緒に持ち出せるようにまとめておくと便利です。
子どもを抱っこして救急車に乗せた場合、帰りに靴がないと困ります。子どもの靴も必要です。
17日19時過ぎ、夫は息子が深く寝入るまで隣にいようと思い、添い寝をしていました。
20時ごろ、息子が泣いて少し起きた様子だったのでお茶を口に含ませたら、聞いたことのない大きな甲高い声で泣き叫んで、体をのけぞらせながら手足もビクンビクンと震わせました。
視線は焦点が合わず、うなり声をあげてよだれを垂らしていたそうです。
震えている我が子を見て、夫はとっさに息子を抱きかかえました。「震えを止めようとしたのかもしれない」。冷静な夫も、このときは焦りと恐怖があったのだと思います。
<「教えて!ドクター」小児科医・坂本昌彦さんに聞く>
――「教えて!ドクター」には、「動画をとってあると受診時役立ちます」という記述がありました。
動画を撮って見せていただけると、どういうけいれんか分かるので助かります。けいれんのタイプが右手だけ、左手だけだったのか、それとも左右対称だったのか。突っ張る感じだったのか、ガクガクしていたのか。眼球は上転していたのかなどの情報は、診察する上でのヒントになります。ちなみにもっとも多いタイプの単純型熱性けいれんは左右対称で、けいれん時間も短いことが特徴です。
動揺してしまい、悪寒で震えているだけなのにけいれんだと思いこんで救急車を呼んでしまうお母さんもいます。うまく説明できなかったり、動揺して見ていなかったりという場合でも、動画を見ればそれがけいれんかどうか分かります。
もちろん、親が1人しかいないときには動画は撮れないと思いますが、大人が2人いるときは1人が子どものケア、1人が救急車を呼び、救急車が来るまでの時間まだけいれんを起こしていたら動画を撮るなど、意外とやってくれる方も多いです。
――動画の優先順位は高いのでしょうか?
動画を撮ることは10年ほど前はしていなかったので、プラスアルファですね。一番大事なことは、平らな場所に寝かせて横向きにして、情報を収集する。つまり、どういうけいれんなのか。右手だけなのか、左手だけなのか、上半身だけか、下半身もあるのか。けいれんは大きく分けて、震えるけいれんもあれば、突っ張るけいれんもあります。
あと僕たちがよく聞くのは、視線はどっちを向いているのかです。けいれんのときは目が合いません。目を閉じていたり、上の方をにらむ感じになっていたりすることも多いです。そのほか、顔色が青ざめていた、唇が真っ青だった、口から泡が出ていた。そういった情報をできれば教えていただけるとありがたいです。
翌18日、午前中に病院へ連れて行きましたが、高熱だけであれば様子見ということになりました。
食欲はあるものの、熱は37.4度まで下がったり、40度を超えたり、不安は消えません。体温計で「40」の表示を見るのは初めてです。薬は小児科からもらった熱冷ましを飲んでいました。
40度ともなると頭は異常なほど熱く、ベッドに横になっているときは常にタオルにくるんだ保冷剤をそばに置いていました。高熱のせいか、いつもは一重の息子が左目だけ薄い二重に。もともと垂れ目気味がさらに垂れて、とろんとしているようでした。
<「教えて!ドクター」小児科医・坂本昌彦さんに聞く>
――熱が出たら慌ててしまいます。
多くの保護者は「高熱で頭に障害が残ってしまうのでは」と心配しています。熱が出ると慌てた気持ちになるのは当然です。ただ、実際には感染症などで熱が出ても、その熱自体で頭に障害が出ることはありませんのでご安心ください。そして、発熱の受診の目安やホームケアを一度冷静に確認しましょう。熱が出た場合には、どういう状況になったら病院へ行くべきなのか、確認してみましょう。
熱が出るのは免疫の働きで、ウイルスや細菌を追い出すための防御反応です。だからそれ自体は怖がることはないんです。そのことをしっかりと伝えていきたいと思っています(生後3ヶ月未満の発熱や、心臓や肺などに基礎疾患があるお子さんは例外です)。
受診の目安というと、何度以上になれば受診していいのか、数字を聞かれることも多いです。たしかに数字は具体的で目安にしやすいのですが、それよりも大事なのは水分が取れているのか、ぐったりしていないかです。この2点がポイントだよというところがスタートラインです。
高熱から2日経った9月19日、朝は38.4度。昼には37.2度、その後38.1度、夜に36.7度と安定しません。
食欲はあり、ぐったりしていることもないので、いつも通り本を読んだり動画を見たりして引きこもり生活をしました。
このまま何もなく熱が下がるといいな。そう思っていました。しかし翌日、うっすら赤いぶつぶつが顔や背中に表れました。
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