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キリスト教徒、ムスリムが一緒に祈る たった30分の不思議な「教会」
カトリックやプロテスタント、仏教徒やイスラム教徒が集い、ともに祈る不思議な「教会」が長崎県大村市にあります。扉が開くのは月に一度。礼拝はたった30分だけ。聖歌や賛美歌の伴奏に欠かせないピアノやオルガンもありません。なぜならそこは、収容所の中だから。大村入国管理センター(長崎県大村市)で垣間見た、宗教、宗派を越えたつながり。この教会が問いかけるものを考えます。(田中瞳子)
不思議な「教会」を取材したのは2019年のクリスマスイブのことでした。
10脚のパイプ椅子と白いテーブルが並ぶ、会議室のような20畳ほどの部屋に収容者たちが続々入ってきます。この日30分ずつ、2回あった礼拝には、ブラジルやパキスタン、スリランカ、イランなど12カ国の計18人が参加しました。
イスラム教徒や仏教徒、様々な信仰をもつ人も、さらには信仰を持たない人もいます。
握手で出迎えたのは、カトリックの神父とプロテスタントの牧師。儀式のスタイルが異なる両宗派が一緒に礼拝を行う珍しい「教会」です。
『きよしこの夜』などの賛美歌をアカペラで歌い、聖書の一節をみんなで朗読。そして、約15年にわたり収容者との面会活動を続けている柚之原(ゆのはら)寛史牧師(51)が約10分、収容者に語りかけました。
「このクリスマスのシーズン、全世界がキリストの誕生をお祝いしています。きらびやかな光に照らされて、荘厳な音楽で、イエス・キリストの誕生を華やかにお祝いしている」
「しかし、ここにはピアノもオルガンもありません。何もない。いってみればイエス・キリストが生まれた場所とよく似ていると思います。イエス・キリストはみなさんのつらい気持ちがよくわかります」
最後に、こう締めくくりました。
「みなさんはここから必ず出られる日が来ます。ですから、諦めないでください。自分を諦めないでください」
参加した全員で祈りを捧げ、収容者は最後に神父、牧師と握手と抱擁を交わして、それぞれの居室に戻りました。
この日の礼拝に参加したウガンダ人男性(45)はイスラム教徒。普段は部屋でコンパスを頼りに聖地メッカの方角に向かい、1日5回の礼拝を欠かしません。
キリスト教の礼拝に参加した理由を尋ねると、こう答えました。
「イスラム教もキリスト教も神様は同じ。聖書の言葉やメッセージには心が癒やされるし、みんなで祈ると心が前向きになります」
この日初めて礼拝に参加した仏教徒のミャンマー人男性(52)は、毎晩寝る前にブッダ像の写真を見ながら1日の感謝を伝えています。参加の理由について「自分の宗教とは違うけれど、みんなで祈れば精神的に楽な気持ちになれると思った」と語りました。
「(普段いる)居室からは外が見えないから、外の人とつながれる場もほしい。きょう握手をして、あったかいものが自分の中に流れてくるような感じがしました」
大村入国管理センターは、ビザが切れた後も日本に滞在し続けたり、罪を犯したりして在留資格を失い、退去を命じられた外国人を帰国までの間、一時的に収容する施設です。
しかし、中には母国で政治的な迫害を受ける危険があったり、日本に幼い子どもがいたりという理由から帰国を拒む人もいます。帰国を拒めば収容は長期化することになります。
2020年1月末時点のセンターでの収容者69人のうち、収容期間が6カ月以上に及ぶ「長期収容者」は59人となっています。
終わりの見えない収容生活に希望を失い、ハンガーストライキをする収容者も相次いでいて、2019年6月には収容中のナイジェリア人男性が餓死しました。
牧師の柚之原さんは、センターでの礼拝について、「収容者それぞれが苦しみを負い、ぎりぎりの状態にいるなかで、すがるような思いで集まってきているのだと思います」と話します。
「一人ひとりが祈り、人からも祈られていると感じることで、抱えきれない重荷を下ろすことができる場になればいい」
2019年春、外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法(入管法)が施行され、日本では外国人がますます増えていくことが予想されます。
一方で、長崎空港にほど近いこのセンターの「教会」は、日本社会から孤立する外国人の切実さを静かに訴えかけます。
センターの中にいるのが日本人だったら。もし自分が外国で同じような状況になったら……。
「外国人だから」と目を背けることなく、彼らの存在に思いを寄せてみてください。
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