連載
#22 現場から考える安保
横田基地「友好祭」、テーマパーク級の盛況 これも在日米軍の風景
在日米軍の司令部がある横田基地で9月にある"Friendship Festival(友好祭)"には、毎年10数万もの人々が訪れます。東京近郊で米軍の様々な航空機が見られるとあって、在日米軍基地のお祭りの中では最大規模。この9月中旬、各地が抱える基地問題の悩ましさとは対照的な盛況ぶりを取材してきました。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
【横田基地日米友好祭2019】今年の友好祭もたくさんの皆様にご来場いただきまして、本当にありがとうござました。また来年お会いしましょう! https://t.co/Ar7Juhlm4U
— 在日米軍司令部(USFJ) (@USFJ_J) September 17, 2019
薄雲が広がる9月14日の土曜日の午前8時ごろ、福生市など東京都の5市1町にまたがる米軍横田基地に入りました。報道陣用のバスを降りて少し歩くと滑走路が広がり、米軍機を中心に各地から集まった輸送機や戦闘機、ヘリコプターなど約40機が並んでいました。約3.3キロの滑走路の一部が友好祭の会場です。
米軍 #横田基地 #友好祭 に行ってきました。米軍と自衛隊の航空機展示エリアの外れの、それでもたくさん並んでいる滑走路です。 pic.twitter.com/TvNSVFt0or
— 藤田直央 (@naotakafujita) 2019年9月14日
報道陣は一般来場者より早く着き、まず注目のRQ4(グローバルホーク)の展示へ。航空自衛隊も導入を予定する、高高度で長時間飛べる無人偵察機です。米空軍がふだん配備するグアムの天気が悪くなる夏から秋にかけ、横田基地に一時配備されています。
グローバルホークの説明役は、地上から操る資格を持つジョン・ライト少佐。日本文化を勉強中とのことで、最初は日本語で「みなさんおはようございます。お忙しいなかお越しいただきありがとうございました。横田空軍基地にようこそ」と挨拶しました。
これまでの活動例として被災地を撮影した東日本大震災を挙げ、「RQ4は静かで安全です。一時配備への日本の理解に感謝しています」と強調。ただ、任務や性能に関する突っ込んだ質問への答えはそばにいる文民の広報担当に割り込まれ、控えめでした。
その後はひとりで滑走路を歩いて「米軍機めぐり」をしましたが、兵士たちはとにかく気さくでした。
グローバルホークの隣にあったのが、海上救難や潜水艦捜索を担う米海軍のP8A。4月に空自の最新鋭戦闘機F35Aが太平洋に墜落した時、米軍三沢基地から捜索に協力した新鋭の哨戒偵察機です。先ほど文民の広報担当には兵士に個別に質問しないようクギを刺されていたのですが、P8A整備担当の女性に挨拶すると"Any question?"と言われ戸惑いました。
その隣には米空軍の空中給油・輸送機KC135。私は9年前の沖縄勤務時に米軍の演習に同行して嘉手納基地から飛び立ち、東シナ海上空で戦闘機F15に給油する様子を取材したことがあります。懐かしさで立ち寄るとタラップから機内へと勧められ、ホース状の給油口を操作する機内後部も9年前と同じようにのぞけました。
米軍 #横田基地 #友好祭 その2。空中給油機KC-135の機内へ。最後に出てくる床中央の円錐状のものが外へ伸びる給油口です。 pic.twitter.com/Q8TrA5hwoG
— 藤田直央 (@naotakafujita) 2019年9月14日
沖縄といえば、米軍普天間飛行場からは海兵隊の大型輸送ヘリCH53Eが来ていました。8月にまた窓の落下事故があって飛行を再開したばかりです。その先には新型輸送機オスプレイ。普天間のMV22と違い横田基地配備の空軍のCV22ですが、この頃にはもう一般客も入っており、早速長い列ができていました。普天間でも横田でも配備への懸念が周辺住民にあることを思うと、複雑でした。
米海兵隊の攻撃ヘリAH1Zを撮影していると、受付のような机に急に若者や中年の男性らが群がりだしました。何かと思ったら、Tシャツ、ワッペンなどこのヘリや部隊のグッズの出店です。差し出されるドルや円の札を、兵士らが「日本円だとお釣りはないな」と慣れた感じでさばきます。
滑走路を挟んで反対側の戦闘機が並ぶ方へ行くと、あちこちに同じ光景がありました。
操縦席がのぞける米空軍の攻撃機A10Cには列ができ、パイロットが撮影にポーズで応じていました。米空軍の戦闘機F15C、F16、米海軍の電子戦機EA18Gの手前には仕切りのロープがあり、各機体の前はグッズ販売で混み合います。米軍横田基地によると、売上は各部隊で兵士らの士気を高めるような休日のパーティーや、地域住民の友好団体との交流などに使われるそうです。
若い男性が兵士に親しげに英語で話しかけ、「日本を守ってくれてありがとう。どこから何時間ぐらいで飛んできたんですか」と繰り返し聞き、「それは言えないよ」と笑顔でかわされていました。
午前9時半、巨大な格納庫を使ったステージで、横田基地にある米空軍第374空輸航空団司令官のオーティス・ジョーンズ大佐が開幕を宣言しました。
「毎年我々は誇りを持ってこのイベントを主催しています。インド・太平洋での我々の重要なミッションをユニークな観点からご紹介でき、横田基地への日ごろのご支援に感謝を伝える機会だからです。本日の友好祭が横田基地が大切にする周辺コミュニティーとの関係をさらに確かにするきっかけとなりますように」
「たのしんでください!」と最後は日本語で呼びかけたジョーンズ司令官の挨拶を聞き、兵士たちの気さくな対応が腑に落ちました。在日米軍にとって基地でのお祭りは、駐留に地元の理解を得る貴重な機会だということです。
在日米軍基地が集中する沖縄ではもちろん、東京近郊の横田基地でも「周辺コミュニティー」との関係は円満とは言えません。例えば面積の3分の1を横田基地が占める東京都福生市は、基地は騒音公害や、都市計画や地域経済の面で発展を大きく妨げているとしています。
東京都福生市のホームページより https://t.co/OMcxwkUN5W
— 藤田直央 (@naotakafujita) 2019年9月16日
米軍の空輸拠点である横田基地には2012年から航空自衛隊が移駐し、ミサイル防衛の中枢にもなったことから、福生市は「さらなる基地機能の強化は、市民の安全、安心を守るためには容認できない」と訴えています。それでも昨年秋にはオスプレイが配備されました。
日本政府が日本の防衛と極東の平和のため米軍に基地を提供し、運用になかなか口を出せない日米安保条約や地位協定といった政府間の約束が優先されるわけですが、「周辺コミュニティー」では不満が募りがちです。そこで在日米軍は、高いフェンスと厳重な警備に囲まれた基地の門をお祭りでたまに開いて、交流を図るわけです。
横田基地の友好祭を見る限り、確かに盛り上がりを感じました。軍事大国ならではの自衛隊の先を行く航空機の数々や、米兵たちの気さくなもてなし、アメリカンなフードの出店やステージの音楽を、来場者は楽しんでいたようでした。
友好祭実行委員長のネイサン・ヘデン空軍少佐によると、こうしたお祭りは米国の基地や民間空港でよくあるそうです。「今年は天気がいいので大勢来るでしょう。Enjoy our food and aircrafts!」と陽気でした。
米軍が駐留する世界の国々で日本は世界最大規模ですから、国内各地の米軍基地で開かれるお祭りは、米軍と日本人の間に世界でもまれな密度の交流を生んでいるのかもしれません。友好祭で各航空機の展示を足早に回り、競うようにグッズを買い求める人たちの様子に、特にそうした密度の濃さを感じました。
にぎやかで入場無料のこのお祭りに、今年は2日間で約14万人が訪れました。秋の週末を外国のテーマパークで過ごしたような思い出を家族連れやカップルに残し、毎年見逃せない恒例行事として軍事ファンや航空ファンを魅了したことでしょう。
でも、基地問題に悩む「周辺コミュニティー」との相互理解にはどうつながるのか……。
横田基地は日本の敗戦間もなく、進駐した米軍が旧陸軍多摩飛行場を接収、拡張してできました。航空機を展示するイベントは1950年代後半から開かれ、73年から友好祭という名がついたそうです。
そうした基地の歴史や役割、内側に住む米国の人々の暮らしや周辺住民との交流を紹介する場が、友好祭にもあっていいのではないでしょうか。
そんなことを思いながら、滑走路にハード・ロックの演奏が響く会場を後にして、報道陣用のバスに戻りました。米兵らと家族が住む団地もある広大な基地内を数分走ってゲートを出ると、週末も東京環状・国道16号線を車が激しく行き交う日常です。
道路沿いに横田基地の高い塀が延び、米軍施設への許可なき立ち入りを禁じる「WARNING」の掲示が所々にありました。
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