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アラームでダメなら実力行使だ!半世紀愛される「定刻起床装置」とは
誰にでも、寝過ごしたくない朝があります。なのに、目覚まし時計のアラーム音を、何度聞いても起きられない――。そんな悩みに、寄り添ってきた器具を知っていますか? 名前は「定刻起床装置」。発売から半世紀以上が経ち、最近ネット上でも話題になりました。理由は「実力行使」とも言える、その起こし方です。時を超え愛されてきた背景を、製造元企業に聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
今月18日、ある段ボール箱の画像がツイートされました。表面に「定刻起床装置 個人簡易型」と書かれています。
続けて投稿されたのは、約50秒の動画。映し出されるのは、箱から出されたとみられる、細長い長方形の袋です。すぐ後ろに、デジタル時計も置かれています。
明らかに俺の知っている目覚まし時計と違うんだよな pic.twitter.com/zKzNoVMb9j
— igz0 (@igz0) 2019年5月19日
文字盤が「15:30」を示した瞬間、時計の脇にある機械が突如、「ズゴー」と掃除機のようなモーター音を響かせ始めます。
この機械、風を発生させ、ホース経由で袋に送り込むものでした。袋がパンパンに膨らみ、抱きかかえられる程の太さになったところで、動画は終了します。
「定刻起床装置」の製造元は、山口県下関市のメーカー、新光電業です。列車用の配電盤や、照明器具などの資材を取り扱っています。使い方について、聞いてみました。
同社によると、ゴム製の袋は肩の下に敷くもの。送風機が作動すると、9秒おきに風が送り込まれ、長さ約1メートル、直径約30センチの円柱形に膨張。寝ている人の体を持ち上げます。
冒頭の二つのツイートには、「これは必ず起きられる」「ネーミング、存在、全てが完璧」といった好意的な感想が寄せられました。
誕生したのは、半世紀ほど前の1964年です。背景には、旧国鉄の労働環境があります。
乗務員たちは、決められたサイクルで宿直勤務に当たっていました。その際、複数の職員が同じ部屋で仮眠し、交代で当直担当者を起こしていたのです。
そこで国鉄側が、同社に「定刻起床装置」の開発を依頼。完成品を納入すると「周りの人に影響がなく、担当者だけが目覚められる」と評判となり、定着しました。現在もJR各社や全国の私鉄、消防署などで使われているそうです。
なお「簡易型」とは、元々搭載されていた、乗務員の起床を確認する機能が無いものを指します。約3年前にはモデルチェンジし、送風機能に加え、アラームが使えるように。電源につながずとも、単3電池2本で動かせるよう改良されるなど、進化を続けています。
同社は9万9千円(税込み)で、個人向けのネット販売も行っています。初めて一人暮らしをする人や、耳が聞こえない人などからの需要が高く、毎年150~200台が売れているそうです。
今回話題になったことについて、広報担当の内田しおりさんは、次のように語ってくれました。
「この器具は『やすらぎ』という愛称ですが、『あの起こし方では安らげない』というコメントも目に入りました。私たちが込めているのは、『寝坊を気にせず、安心して休んでもらえるものにしたい』との思いです。多くの方々に活用して頂ければ、大変うれしいですね」
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