連載
#20 夜廻り猫
「ぼく うまれて わるかった?」夜廻り猫が描く子育ての苦悩
子どもを預けられるところがない、熱が出てしまったけれど仕事は休めない…。そんなお母さんたちを見ている子どもがぽつりと言います。「ぼく、うまれてわるかったなぁ」。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「子どもの思い」を描きました。
長男が生まれて、子育て中の夫婦。お母さんが「子どもをどこに預けたらいいの?仕事が探せない」と困っています。
預け先の保育ママからは「泣きっぱなしだったわー」と言われ、すぐさま「すみません!」と謝ります。
子どもが熱を出した日の朝、お父さんは「俺は休めないよ」。思わずお母さんも「私だって!」と言い返します。
きょうも夜周りする猫の遠藤平蔵は、心の涙の匂いに気づき、寝室の子どもに声をかけました。
「もし そこな子ども泣いておるな? 心で どうした?」
男の子は「ぼく うまれて わるかったなぁ。ぼくがいるとママたちたいへんだ」と心の声を伝えます。
遠藤はあわてて「それは違う 大事な大事な子どもなんだ おまいさんがいてくれて本当はみんなうれしいんだ」と言い聞かせるのでした。
作者の深谷かほるさんは、「小さい子どもだって、親の大変さを『感じ取る』と思います」と話します。
子育て中の家庭では、両親が誰かに謝ったり途方に暮れたり、夫婦げんかになったりすることもあります。
深谷さんは「でも、そういうことが度を越して『親が大変そう、辛そう』と感じると、子どもは『自分のせいだ』と思い込んでしまうのでは」と心配します。
「子どもが健やかに育つためには、親が不幸にならないことが大切です。社会全体の助けや理解が必要だと思います」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
◇
深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。
1/27枚