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正義の味方は殴ってもいいの? 答えのない13の問い、父親3人が出版
「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」。こんな風に13の問いかけが書かれた本が出版されます。
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「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」。こんな風に13の問いかけが書かれた本が出版されます。
「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」。こんな風に13の問いかけが書かれた本が出版されます。いずれの質問に対しても「答え」は書かれていません。作ったのは広告会社で働く父親3人。仕事の合間に考え、出版社に企画を持ち込んで実現しました。
「せいぎ、どう解く?」と書かれたページ。次のページには「今日もお母さんに怒られた。人を殴っちゃダメ、って」と書かれています。
ページをめくると、見開きで大きくロケットパンチが描かれていて、こんな問いかけが書かれています。
「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」
これは、今月23日に発売される「答えのない道徳の問題 どう解く?」(ポプラ社、税別1500円)の一節です。
著者は、博報堂のコピーライター・山﨑博司さん(34)、TBWA HAKUHODOのアートディレクター・木村洋さん(37)とシニアアートディレクター・二澤平治仁さん(42)の3人です。
一緒に仕事をする仲で、父親という共通点がある3人。
いじめ、自殺、暴力といった子どもに関わるニュースを見るたびに「なんとか解決する方法はないか」と考えていました。
今から3年前、まず取り組んだのは「自主プレ」(プレはプレゼンテーション)でした。
通常、広告会社ではクライアントから「こんな広告を作りたい」という依頼を受けて動き始めます。
しかし、今回は仕事とは違います。父親として自分たちがアイデアを出し、本を出してくれる会社を探しました。
「あれこれ考えた結果、本を作ることに決めました。鋭い言葉やシンプルなイラストで伝えることは、自分たちが得意としている分野ですから」と二澤平さん。
仕事の後で集まったり、海外出向中にはスカイプでやりとりしたり。
テーマを3つほど作った段階で、複数の出版社に持ち込んだところ、ポプラ社から「ぜひやりたい」と手が上がりました。
3人が譲れなかった点は「問いかけはするけれど、答えは書かない」ということでした。
「今の時代、わからないことがあったら、ネットで検索すれば、ほとんどのことは分かります。でも、検索だけじゃ分からないこともありますし、探し方が違えば答えも違ってきます。この本の問いかけを家族で考えて、出した答えを話し合う。それが学びにつながると考えました」と木村さん。
打ち合わせする中で、ポプラ社からは「答えは載せなくても、『その道のプロはこう考える』という意見はあった方がいい」「テーマと問いかけをつなぐための文章を追加しよう」といったアドバイスをもらい、採り入れました。
小学生で #将棋 を始め、中学生でプロ棋士。そして #国民栄誉賞 も受賞された #羽生善治 さん。「どうしてお母さんは、ボクの嫌いな勉強をおしつけてくるんだろう?」という問いに解答例を寄せてくださいました。限定公開です。あなたは、どう解く?#べんきょう #どう解く⇒ https://t.co/IgTCvmSjnh pic.twitter.com/a4LO7DRTBk
— ポプラ社 (@poplarsha) 2018年3月1日
最終的には「いのち、どう解く?」「ともだち、どう解く?」など13テーマを掲載することに。
「せんそう、どう解く?」はジャーナリストの池上彰さん、「うそ、どう解く?」は詩人の谷川俊太郎さん、「べんきょう、どう解く?」は棋士の羽生善治さんといった具合に、13人に「考えるためのヒント」を書いてもらいました。
「13人の方々からいただいたのは『解答例』で、それが正解ではありません。中には『私が答えると、それを正解のように見る人がいるので答えることができません』と断られた方もいました。掲載するにあたってそうならないよう、年齢・性別問わず、いろいろな方に聞いた意見を同じページに載せています」と山﨑さん。
発売前に、先行体験として複数の親子に読んでもらい、対話してもらったところ、自分で問いかけを考えて、送ってくれた子もいました。
「避難訓練のとき、自分の命は自分で守るように、って先生は言う。だけど、自分の命より人の命が大切っていう人がいるのはどうしてだろう?」
山﨑さんが一番思い入れがある問いかけは「かぞく、どう解く?」です。
「小学校のときからの僕の疑問でした。大切な家族なのに、どうして一緒にいられる時間は短いのか? 調べてみたら、父親が子どもと一緒にいられるのは3年4カ月分しかないという調査結果もあって驚きました。これって今言われている働き方改革にもつながっていくテーマじゃないでしょうか」
答えが出ないことを楽しんでほしい。一人でもこの企画に共感する人がいてくれたらいい。3人はそんな思いで発売を待っています。
「この本で社会に新しい価値観を提供できたらと考えています。これって、会社に入った時の志望動機と同じだと気づきました」と山﨑さん。
それを聞いていた二澤平さんはうなずいて、こう言いました。
「いろんな仕事をするうちに『この仕事はこうしたらいい』という『答え』を覚えていった気がします。この本の企画を通じて、思い出せてよかった」
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