お金と仕事
中国人が驚いたマンションの「意外な設備」 建築事務所から見た日本
日本の建築が好きで来日、著名な建築事務所で経験を積んで、六本木の建築事務所で働く中国人の女性がいます。中国にはないマンションの火災報知機や避難ハッチの設備に感心する一方、男性中心の働き方への違和感も。建築事務所から見た日本について話を聞きました。
話を聞いたのは浙江省杭州市出身のYI(イー)さん(28)です。
高校時代に日本の「ラルク L'Arc〜en〜Ciel」が好きになり、日本のアニメや漫画もよく見ていたそうです。「その頃は日本をあまり具体的にイメージできなかったが、憧れだった」と振り返ります。
浙江省の大学では建築を専攻しました。そこで、隈岩吾さんの「消える建築、負ける建築」論に触れて、「建築と自然を融合する理念は素敵だと思った」そうです。2012年9月に来日しました。
日本の大学院の研究生として来日し、修士号を取得します。東京にある著名な建築家の事務所でインターンも経験しました。
大学院やインターンでの経験から、自分の理想的な建築を形にしたくなり、6-8人程度の比較的小規模な建築事務所に入りました。
「大手の事務所だと午後8時には家に帰れましたが、今の事務所は午後10時を過ぎても仕事をしています。長時間労働が当たり前になっていますね…」と話します。
日本の一人暮らしの部屋は、たいていワンルーム、広くでも25平方メートルからから30平方メートルの1DK、1LDKです。
「中国では想像できません! 50平方メートルの部屋でも『ウサギ小屋』と思われてしまいます」
そんな中国人から見たら狭いスペースに、生活に必要な設備がおさまっていることに驚いたそうです。
「キッチン、リビング、浴室、寝室が完備しています。収納スペースも工夫されていて、窮屈な感じが全くない。快適な生活空間が保たれているのには驚きました」
実際デザインしているうちに、必要な部分と不要なスペースの分け方が身につけてきたと言います。
「自分の部屋にあったもったいないスペースに気付いたりして、『本当に必要なものとは何か』のような考え方が大事だと学びました」。
イーさんにとって驚きだったのは、火事や災害を見越した設備が備わっていることでした。
「日本には、窓の前の空き地を確保したり、避難経路の規定を満たすようにしたり、厳しい決まりがあります。ベランダには、必ず隣のベランダへ逃げることのできる『蹴破り戸』が設置されていて、違う階へ避難できる『避難ハッチ』の設置も義務化されいます」
このような設備は中国のマンションには「ほとんどない」そうです。
「2017年6月にはロンドンの高層マンションで火災があり逃げ遅れた人が出ました。同じく6月には中国の杭州市でも高級マンションで放火事件が発生し、親子4人が犠牲になっています。もし中国のマンションでも避難ハッチが備えていれば…」
イーさんによると、中国では高級マンションであっても、日本の一般的なマンションにある避難装置がないそうです。
「中国の一般的なマンションはもっと大変です。日本の建物は避難経路だけでなく、火災報知機まで完備されています。中国や世界各地にもっと広がってほしいです」
日本で働きだして気づいたのはメールのやり方の違いです。
「日本人は『CC』が好きな人が多いですね。社外の人とやりとりをする際、当たり前のように上司をCCに入れますが、中国では『CC』はあまり使いません」
中国は個人の責任を意識することが強く、社外の人との窓口になったメンバーは「仕事を任されている」という考えから、CCを嫌がるそうです。
「逆に『CC』を入れるように言われると、自分は信用されていないではないかと不満に思うでしょう。上司も、やり取りをいちいち知るより、結果の方に関心の持っています」
ちなみに、今の中国では「WeChat(中国版ライン)」が浸透していて、建築をはじめ色々な仕事が、「WeChat」で完結するようになっているそうです。
現在は日本の一級建築士の資格を目指しているというイーさん。一方で悩みもあるそうです。
「『ガラスの天井』を感じます。建築事の世界は、女性には厳しいですね。世界的に有名な女性の建築家も日本人だと妹島和世さんと、イラク出身の故ザハ・ハディドさんぐらいしかいませんし」
今の建築事務所にいる女性はイーさん一人だけ。
「仕事と家庭の両立は難しそうです。まだ結論は出ていませんが、一日一日を大切にして過ごしていきたいと今は思っています」と話していました。
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