話題
昭恵夫人の「閣議決定」はあり? 1強政権、反対できぬ「大臣心理」
実はこれまで何度となく行われていた「閣議決定」。歴代の内閣で閣議は脈々と続いてきたのに、安倍政権になって、なぜこんなに注目されるようになったのでしょう? 理由をさぐると、安倍晋三首相の「1強」が浮かび上がってきます。
解説は、政界を16年間取材している朝日新聞政治部の林尚行デスクです。
――現在は、安倍首相の「1強」と言われています。「閣議決定」にも何か影響が?
「閣議決定は、総理大臣をトップとする閣僚全員を集めた会議で決定する事です。国のあり方が決まっていく重いものです」
「そして、この閣議決定は、全会一致が大原則なのです。閣僚のうち誰か一人でも反対すれば、決定することができません。今、政権側にいる誰が安倍首相に異を唱えられますか。少なくとも内閣には見当たりませんよね。安倍1強と言われる所以です」
――過去、異を唱えた閣僚はいたのですか?
「2005年のことですが、人気絶頂の小泉純一郎首相が、郵政の民営化を選挙の争点にする、いわゆる『郵政解散』を行いました。衆議院を解散するには閣議で決めることが必要なのですが、当時の島村宜伸農水相が解散に反対しました。そうしたら、小泉首相は島村農相を罷免、クビにしました。当時も『小泉1強』ではあったけれど、小泉首相に反対する人はいたのです」
――内心「何か違うんだけどな…」と思っても、言えない理由とは?
「これだけ政権が安定していると、1日でも長く大臣でいたいと考える人がほとんどでしょう。自分の信念に基づいて、島村さんみたいに『これは許さん』ということをできる人は、なかなかいないのではないでしょうか」
「ちなみに大臣の起用には3つぐらいのパターンがあって、一つが専門性。たとえば前の防衛大臣の中谷元さんは、防衛大学、自衛隊出身で長年安保をやっていた。次が将来性。いまの稲田防衛大臣の場合は、将来的に総理を目指す人材に育てるのであれば、こういう分野をやっといた方がいいと抜擢された」
「そして大臣適齢期。衆議院だったら当選5~6回、参議院だったら2~3回ぐらいから、そろそろ大臣が視野に入ってきます。こうした『大臣待機組』は、自民党だけで数十人いるとされています」
「ところが、大臣のポストは今は19なので、適齢期と適材適所が両立せずに、『素人大臣』が次々と生まれる背景にもなっています。あるまじき失言から復興相を辞任した今村雅弘氏は当選7回でした」
「後任となった吉野正芳氏は当選6回です。いわゆる『共謀罪』法案の担当大臣で、国会でヘンテコ答弁を繰り返して野党から攻撃を受けている金田勝年法相は衆議院3回、参議院2回の当選経験があります」
「要するに、お年頃の議員がいっぱいいて、その人事をにぎっているのが首相。だから1強なのです」
――議員にとって閣僚になるかどうかはそれだけ特別なんですね。
「『末は博士か大臣か』なんていう言葉もあるように、特別な存在、あこがれなんですよ。閣僚になれば、SP(警護する警察官)が付くし、公用車や役所からの秘書官も付く。なにより、周りから『大臣、大臣』と呼ばれます。悪い気はしませんよね(笑)」
「特別といえば、閣僚には一人一人『花押』があるんですよ。自分の署名の役割をするサインのことで、日本でも古くから使われてきました。印鑑が主流の時代になったいまも、閣議決定をする際は規定の書式に花押をするのがならわしになっています」
――安倍内閣は、「教育勅語の使用を否定せず」という答弁書も閣議決定しました。一度決まるとこの先も変わることはないんでしょうか?
「安倍内閣である限り変更はないでしょうが、例えば次の内閣で同様の質問主意書が提出されたとします。そしてその内閣によっては『教育勅語の使用は否定する』という答弁書を出す可能性もあるでしょう。そうなった場合は、そちらが最新の答弁書となり、それが内閣の意志として踏襲されていくのです」
――閣議決定の「見どころ」は?
「閣議決定をする案件には、国民生活を左右しかねないものも少なくありません。その決定が自分たちの生活にどのようにかかわるのか、それは果たして良いことなのか、自分の考え方に合っているのかどうか、検証することが大事です」
「閣議は原則毎週火曜と金曜の午前中に開かれていて、ものの数分で終わる時も、時間のかかることもある。予想外に長引く日は、記者たちも『何かある』と身構えます。決定したことはすぐに会見などで明らかになるので、火曜と金曜のお昼のニュースには注目です」
「安倍政権発足以来の出来事で言えば、集団的自衛権の行使容認もそうだし、犯罪を計画段階で処罰する『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法の改正案の国会提出もそうですね」
――安倍首相の妻、昭恵氏が公人か私人か。これって閣議決定する話なんですか?
「この問題では、昭恵氏は『私人である』という答弁書も閣議決定されました。野党としては、国会答弁で安倍首相にはぐらかされるから、答弁書という書面にしておきたいという狙いがあった。全く無意味な質問だとは言えません」
「けれど、閣議決定させる話なのかというと、そうではないかもしれません。質問者の質問は適切だったのか、内閣の答弁は腑に落ちるか。一人一人が、チェックする意識を持つことも大事だと思います」
――とはいえ、閣議決定。普通に生活していて身近かというと、ちょっと距離はあります。
「民主主義の原則って、多数決で物事を決めて、それに従うということですよね。閣議を構成する閣僚たちは、民主主義や多数決を煎じ詰めた先にいる人たちなのです。我々が選挙で示した一票の先にいる人たちです。実は、私たちと密接なんですよ」
1/7枚